まだ明けきらぬ朝
まだ明けきらぬ朝、俺が舟から家に戻ると、すでに二十人ほどの女や子どもが集められていた。
夜気の名残をわずかに含んだ空気の中で、彼らは夜に眠るひよこのように身を寄せ合っていた。
女は年老いた者がほとんどで、子どもは痩せて薄汚れ、擦り切れた着物をまとった者ばかりだった。
又左さんに事情を尋ねると、身寄りのない老人や、親のいない子どもたちが、治安を守る地頭代の新右衛門さんの肝いりで集められているのだという。
普段、彼らは漁の手伝いをしたり、村の農繁期に働き手として呼ばれたりして、どうにか糊口をしのいでいる者たちだと聞いた。
今、目の前にいる人たちは、生活の基盤のなかった、かつての真之介や花里と同じ境遇の人々だった。
昨夜、家の小さな板間で花里の肩を支えていた真之介の姿が、ふと脳裏に浮かぶ。
ある意味、柴垣作りは村の治安維持と、困窮する人たちの救済策の一環になっているのかもしれない。
女や子どもは又左さんの指示で山へ柴刈りに向かった。
又左さんの差配のもとに工事は始まる。
まずは等間隔に太い支柱が男たちの手で地中へ打ち込まれていく。
昇りきらぬ朝日の中で乾いた槌音が木霊する。
その後、支柱には貫と呼ばれる横木が上下二本渡される。
腕まくりをした男たちが太い横木を抱え上げ、その額にはすでに汗が流れ始めていた。
柴垣の骨格が出来てゆく。
そうして、その頃には柴刈りに行っていた者たちが戻ってくる。
彼らは柴を背から下ろすと、冷たい井戸水で喉を潤し、再び山へ向かった。
俺たち四人も彼らと一緒に山へ柴刈りに出た。
花里が、彼らにも甜瓜を分けてあげてはどうかと、ためらいがちに俺に告げた。
俺がうなずくと、夜気に冷やされた枇杷の木の下の甜瓜は、瞬く間になくなった。
積み上がる残滓と、癒えぬ空腹。
俺は、彼らの空腹に気が付いていなかったことが恥ずかしくもあり、胸の奥が掴まれるような気持ちになった。
恥じた俺は花里に、彼らのために炊き出しをしたいと話すと、彼女は自分のことのように喜んだ。
ひもじさを抑えるように、彼らは山を踏みしめてゆく。
土の匂いが、ひときわ濃く立ちのぼる。
大きな背負い籠が、ゆっくりと揺れながら山を登る。
女たちは雑木の細枝を手のひらほどの大きさに束ね、根元側を揃えて藁縄で縛る。
柴束が積み上がる。
不器用な俺の出番はどこにもなさそうだ。
ただそこにいて眺める。
男たちが柴束を支柱に沿って、束と束の間に隙間ができないよう丁寧に詰めながら並べていく。
昼の光は、働く人たちの影を濃く映し、短く削っていた。
横に長く並べられた束に、抑えとして割られた竹が渡され、藁縄でしっかりと固定される。
柴垣は次第に伸びていく。
女たちはさらに柴束を積み上げる。
しゃがんで作業を続ける彼女たちは、腰を上げ、背を伸ばし、初夏の風に触れた。
汗を払って休むと、暑さを照り返す地面に再びしゃがみ込み、黙々と作業を続ける。
こうして、働く人たちの息が少し深くなる頃にようやく日は傾き、又左さんの掛け声とともに、その日の作業は終わる。
俺と花里は、柴垣作りに手伝いに来た女や子どもを集め、今日の感謝と一緒に、竹の皮に包んだおにぎりを一人一人に手渡した。
彼らは思わぬことに戸惑い、驚いたのちに破顔した。
夕の日が彼らの輪郭を照らし、曖昧にする。
手渡す花里も光に赤く頬を染め、目を細める。
老いた女は手を合わせて両手で受け取る。
大事そうに胸元に抱えると、何度も頭を下げて坂道を下っていく。
子どもの中には、その場で包みを開き、夢中で食べだす者もいた。
花里は涙ぐみ、真之介は息を止め、竦むように立っていた。
小六は感情の行き先を探せず、三白眼の顔に怒気を含む。
生きることの切なさと残酷。
非力な俺はただ、そこにいた。
胸の奥がほどけぬままに。




