俺は仁右衛門さん一行を
俺は仁右衛門さん一行を出迎えた。
すぐさま花里に、小六、真之介、そして又左さんへ、家の前に来てもらうよう使いを頼んだ。
久しぶりの無沙汰を詫びて挨拶し、改めて家の新築に尽力してくれる彼に礼を述べる。
俺の挨拶を、白髪の混じる仁右衛門さんは穏やかな物腰で受け止めた。
その変わらぬ雰囲気から、彼が息災であることがうかがえる。
束の間、海の方から柔らかな風が山へと登り、仁右衛門さんの白い鬢をわずかに撫でた。
仁右衛門さんが目配せをすると、後ろに従えていた男の一人が、その広い背に背負っていた籠をそっと降ろした。
彼らが到着した時から、ずっと気になっていた小さな鳴き声は、その籠から聞こえていたのだ。
「新築の祝いには早いが」と、仁右衛門さんが十羽のひよこを持ってきてくれたのだ。
産毛のやわらかな、生まれて間もないひよこで、ピヨピヨと盛んに鳴いている。
そこへ花里が三人を連れて戻ってきた。
いち早く仁右衛門さんに気付いた又左さんが、足早に近づいてきて深く腰を折る。
それに応じて、仁右衛門さんは鷹揚に頷き、丁寧に返していた。
小六、真之介、花里も集まり、仁右衛門さんと俺との事情を知る彼らも、頭を下げて礼を述べた。
小六が胸を張り、一歩前に進み出る。
そうして、仁右衛門さんのまねをしているのか、ゆったりとした口調で、「我が家の作りやうに、力を貸し下されて、まことにありがたく思ひ候ふ。」
小六は、俺を頼りないと思っているのか、それとも本当に自分の家だと考えているのかは分からないが、鼻を膨らませて立っている。
いや、少なくともおまえの家ではないし、ここは俺たちの家だから。
俺は少々呆れながらも、何も言わず見守った。
仁右衛門さんは、ほんのわずかに首を傾げた後、ただ微笑んだ。
真之介と花里の興味はすでにひよこに移っており、小六の言葉など露ほどにも聞いていない。
籠の中を夢中になってのぞき込んでいる。
山の方から、蝉の声がいよいよ高くなる。
俺がひよこをもらったことを伝えると、二人は仁右衛門さんへ素直に感謝の言葉を述べた。
仁右衛門さんは、目尻をいっそう柔らかくしてうなずいた。
又左さんの案内で主屋、離れ、厨、厠と建物を順に見て回った。
作事奉行の新右衛門さんと俺も後に付いて歩く。
建物の鴨居を潜るたびに、そこで働く者は皆、手を止めて挨拶をする。
その都度、立ち止まって応対し、今後も変わらぬ働きぶりを頼んでいた。
皆、仁右衛門さんへ姿勢を正し、深く頭を下げた。
又左さんに促されて歩みを進めた。
各所で又左さんの説明を聞き、建物の工夫や良さを語ってくれた。
俺も初めて耳にするような話が多く、又左さんの細やかな配慮に改めて気づかされた。
最後に舟を格納する建屋に入る。
人にはここを先祖を祀るための建物と話している。
がらんどうの何もない日陰となったそこへ筵を敷き、仁右衛門さんたちに腰を下ろしてもらう。
花里が器に盛られた甜瓜を持って来て供した。
暑さの中に冷えた甜瓜で、渇きと火照りを鎮める。
しばし、無言で味わってもらった。
気持ちの良い咀嚼の音が、莚の上にこぼれる。
充分に初夏を癒したところで、茶碗に温かい茶を飲んでもらった。
「いと美味く候ひし。かたじけのう候ふ」
そう言うと仁右衛門さんは腰を上げ、新右衛門さんと共に立ち上がる。
俺たちは見送るため、完成したばかりの門で見送りの挨拶をした。
新右衛門さんには「善に見せたい物があるので、泊りがけで来てほしい」との伝言をお願いする。
坂道を下る仁右衛門さん一行。
俺たち四人は、姿が見えなくなるまで見送った。
海の方から柔らかな風が坂道を上る。
山から蝉の声がにぎやかに下る。
日差しは濃い影を縁取る。
心に仁右衛門さんの余韻を残す。




