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ちょいと偉人に会ってくる  作者: 鈴木ヒロオ
雨に唄えば

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この時代の人々の朝

 この時代の人々の朝は、まだ薄暗がりの中から始まっている。


 俺の家には、新築工事に携わる人々が、朝焼けの風景の中を三々五々に坂道を登って集まってくる。


 到着すると、すでに現場に立っている又左さんに当日の段取りや仕事内容を相談し、それぞれに作業が割り振られていく。


 夜の冷気を吸い込んだままの緑が、朝の光に起こされるように、ゆっくりと大きく呼吸を始めている。


 蝉の声は、もう山に満ち満ちている。


 その山の坂道を、一人の男がゆるゆると荷車を引いて登ってくる。


 蟻が物を運ぶように。


 荷車には大きな籠がいくつも載せられ、そこから黄色い実が顔を覗かせていた。


 男が家の前に到着し、歯のない顔をほころばせた。


 「これ、あした甜瓜まくわうりにて、いとうまし。おどろくなかれよ」


 荷車には、黄色い実が涼しさの気配を残す朝日に照らされ、艶めいている。


 その前で、男がどこか誇らしげに立っている。


 まるで、枯れたと思った枝にぱっと一輪の花が咲いたように、朝の光に染められていた。


 俺は男に、その荷車ごと家の裏の水場、井戸のそばへと移してもらった。


 積まれた甜瓜を籠ごと、枇杷の葉が作る日陰に二人で下ろしていく。


 思っていた以上の数の実があった。


 濃い緑の隙間から漏れる光は、その実に落ち、若々しい黄色を揺らしていた。


 家で家事をしていた花里が出てきたので、男への支払いを頼んだ。


 男は手を拭い、代金を受け取ると、持ってきた空の巾着へ入れる。


 そうして、ずっしりとした重みになった巾着を大事そうに懐へしまうと、今度は額の汗を着物の袖で拭い、笑顔を残し、空になった荷車を引いて山を下りていった。


 籠も代金に入っていたのか、そのまま置いて行った。


 それから、俺と花里は、家にある水を貯めることのできる鍋釜や木箱を総動員して、井戸水を汲み上げ、肌を刺すほど冷たい水へ甜瓜を入れていく。


 浸かる甜瓜は水をはじき、黄金色の光沢がいっそう冴えていた。


 日が高くなると日差しはじりじりと強くなり、暑さが増していく。


 俺と花里で冷えた甜瓜を切り分け、働く人たちの所へ運んでいく。


 誰もが冷えたその白い実をシャキシャキと齧り、喉を潤し、初夏の暑さの中でひと息の涼を得る。


 「ありがたし」


 「いと、うまし」


 誰もが喜び、それぞれにひと言添えてくれる。


 甘いものが大好きな又左さんも舌鼓を打ち、厳しい棟梁の顔を忘れて、ひと時は好々こうこうやの顔をしていた。


 空いた器に井戸水を汲み上げ、勢いよくかけて甜瓜を冷やす。


 水をはじく甜瓜から返る冷たい飛沫が、肌にひやりと触れる。


 冷えた実から順に切り分けて運ぶ。


 みずみずしい香りがこぼれる。


 その作業を続けているうちに、時刻は昼下がりへとかかる頃となる。


 待っていた仁右衛門さんが二人の者を従え、新右衛門さんと連れ立ってやってきた。




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