源太さんに望遠鏡の製作
源太さんに望遠鏡の製作を依頼してから二週間が過ぎた。
その間、雨があがったつかの間の晴れの日に、一度だけ工房を訪ねた。
その時は、望遠鏡としての形はまだ何ひとつ成しておらず、割られた竹や節を抜かれた竹材が、試行錯誤の跡のように工房の隅に積まれていた。
竹材を前に作業の手を止めた源太さんは、「いまだ形成らず、まことに面目次第もなく候。」と苦笑いを浮かべたが、焦りはなく、むしろ手応えを探るような落ち着きがあった。
彼の着物には削りかけの竹片や細い鉋屑が積もり、それらは、望遠鏡へと近づこうとする源太さんの時間の跡に見えた。
そして、小さな作業台の上には、丸い木枠に丁寧に嵌め込まれた対物レンズと接眼レンズが置かれていた。
二つのレンズは命を吹き込まれ、沈黙の舞台の中で、その出番を待つ主人公のようだった。
それから一週間が過ぎた。
梅雨明けは近いのか、雨の降る間隔は広がり、白い雲間に暖かい日差しが差すようになった。
俺は再び工房へ足早に向かった。
坂道はまだぬかるんでいるが、水たまりは温められ、土の匂いをいっそう強くした。
路傍の草木も勢いを増し、色を濃くして、夏の訪れを待っているようだった。
葉陰や土の奥では、虫たちも気配を潜めていた。
その気配に呼応するように、心の奥でも季節の終わりを待ちわびる思いが、じわりと蠢動し始めていた。
工房に着くと、俺は声を掛けながら勢いよく飛び込んだ。
源太さんは顔を上げると、俺の登場を待っていたかのように微笑んだ。
彼は無言で立ち上がり、作業台に目をやり、強く頷いていた。
望遠鏡は、美しい佇まいでそこに置かれていた。
源太さんは、「やうやう形成りに候ふ。これ、御覧じ下され。」と言って、両手でそっと望遠鏡を差し出した。
その声には、仕上がりへの確かな手応えと、どこか誇らしさがにじんでいた。
俺はその仕上がりに深く満たされ、ひとつ息を整えてから、おもむろに望遠鏡を覗いてみた。
すると、焦点を合わせる前から試作品とは格段に違う見やすさがあった。
筒を伸縮させ、焦点を合わせる。
俺は思わず、小さく「あっ」と声を漏らした。
そこには、俺の期待以上のはっきりとした風景が見て取れた。
善に月の姿を見せてやりたいという思いが、形になった瞬間だった。
彼は筒の試行錯誤を重ねるうち、内側を黒くすれば見やすくなることに気づいた。
内側を磨いて滑らかにし、煤を混ぜた漆で黒く塗り固めた。
その工夫によって光の乱反射が抑えられ、像がいっそう鮮明になったのである。
理屈など知らぬままに、ただ経験と勘だけを頼りに辿り着いた答えだった。
その答えに辿り着いた源太さんの手は、いまもわずかに竹と漆の香りを残していた。
源太さんの顔に、矜持がそっと浮かんだ。




