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進むべき道は

「・・・茉乃?」


 佳乃が心配そうに茉乃の顔を見ている。その穏やかな表情を見ながら、茉乃は少しずつ冷静になり、どうにか声を絞り出した。


「なんで・・・そのこと知ってるの?」


 佳乃は茉乃の手をポンポンと優しく叩いた。


「それが私の力だからね。柊くんには『魔女だ!』って言われたけど。過去、現在、未来を少しだけ占えるってだけだから、魔女かどうかはわからないけどねえ。」


 そう言って楽しそうに笑う祖母に、茉乃も少し気が抜けていく。


「おばあちゃん・・・」

「だから細かいことはわからないけれど、お前が柊くんと仲良くなったこと、それからお前と彼との未来の生活が少しだけみえたんだよ。ただ、いつ二人が出会えるのかまでは、もう少し先にならないとはっきりいつ頃とは言えないけれど。」


 今度は茉乃が佳乃の手を握った。


「おばあちゃん、私・・・柊さんのいる世界に、行ってもいいかな。」


 佳乃は優しく、そして嬉しそうに微笑んだ。


「茉乃。行っておいで。それがお前が選んで、一番後悔しない道ならそうしなさい。おばあちゃんには村瀬さんもいるし、これでもこの仕事、十分生活できるだけの収入があるからね。何も心配はいらないよ。」

「うん。でもまだあと二年はこっちにいるから!だからそれまでは一緒にいようね!」

「もちろんよ。」



 そうして茉乃は祖母と共に、新しい家での生活を始めていった。



 そしてそれから―――



 大学はあと少しだからと最後まできちんと通うことにした。少し遠くなったけれど、前の家も使いながら卒業までしっかりと学び続けた。


 佳乃は新しい家で、占いの仕事をのんびりと続けていた。村瀬は毎日いるわけではないが、時々来ては身の回りのちょっとしたことを助けてくれている。茉乃も五十代近い彼に父親のような優しさを感じて、すっかり打ち解けた。


 卒業後は就職はせず、アルバイトと佳乃の仕事の手伝いを続けている。佳乃には占いの才能があると言われ、ことあるごとに修行をさせられているが、あまり自信はなかった。


 そしてあのボランティアもまだ続けていた。子どもたちとは以前はあまり話すこともなかったが、今は読み聞かせが終わると積極的に話しかけるようになった。


 周りの同年代の人達とも話すことが増え、気がつけば友達として遊んだり相談しあったりできるようにもなっていた。



 何かが少しずつ変わり、日々が、季節が移ろう中、茉乃はただ柊を想い、その日を待っていた。




 そして、二年後―――




 七月最後のその日、午後になってから佳乃が茉乃を、いつも彼女が占いをしている部屋に呼び出した。その日は朝から暑さが厳しく、冷房の効いた部屋で冷たい麦茶を作っていた。


「茉乃、ちょっと来てくれる?」


 佳乃に呼ばれて、茉乃はできたばかりの麦茶を持っていつも仕事をしている部屋に向かった。


「おばあちゃん、入るよー。」


 部屋に入り、占いをしてお客様と対面する机の上に麦茶を置き、そこに座った。新しい畳に替えたばかりのその部屋は、いぐさの香りが香って心地良い。ふかふかの来客用座布団の上で、茉乃は正座をしてお茶を差し出す。


「麦茶どうぞ!今日も暑いねー。」

「本当にね。ありがとう。」


 佳乃が笑顔でお茶を手に取った。シンプルで割れにくいグラスに入った麦茶は見ているだけで涼しげだ。佳乃のグラスの中で氷が動く小さな音が鳴り、机の上にそっと置かれた。茉乃はふと気になってそのグラスを見つめてしまう。


「茉乃。明日以降、ここにはもう来なくていいよ。」


 茉乃はパッと顔を上げた。


「おばあちゃん、それって・・・」

「明日から最低でも一週間は向こうの家を離れてはいけない。やむを得ない場合でも三十分以内には帰るんだよ。たぶん柊くんもそう長いことお前を待ってはいられないだろう。その機会を逃せば・・・次は無い。」


 佳乃の声が力強く、少し厳しく茉乃に届く。それは兼ねてから言われていたように、祖母の占いが示す「柊が現れる日」についての話だった。彼女の占いがよく当たっていることは、二年間を通して十分に実感できるものだった。そして何度もその精度の高さに驚かされた。


 だからこそ、茉乃はその言葉を信じることにする。


「おばあちゃんはここにいるのね。」

「ええ。お客様が待っててくれるからね。大丈夫。茉乃が旅立ったら向こうの家は売るつもりだよ。心配は要らない。」

「・・・うん。」


 佳乃は茉乃の手を握った。その皺が刻まれた手は、いつも優しくて温かくて、茉乃を大きく包み込んでくれた。


「おばあちゃんはいつまでも茉乃の幸せを願ってる。だから早く行きなさい。そして必ず柊くんの手を掴むんだよ。いいかい?」

「うん。わかった。」

「・・・幸せにおなり。」

「おばちゃんも元気で!」

「うふふ。まだまだ当分元気でいられそうよ。さあ、支度をして、もう帰りなさい。そしてできる限りお友達やお世話になった方にご挨拶をしておきなさいね。お手紙でも電話でも、できることはあるから。」

「はい。・・・おばあちゃん、ありがとう。」

「茉乃、元気でね。」


 茉乃は深く頷き、立ち上がった。二人の未来のために、茉乃は動き出した。


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