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佳乃との再会

 茉乃は久しぶりにスマホを開き、今日は何日なのかを確認した。今日は柊に連れられて向こうの世界に行ってから、ちょうど一週間後の日付になっていた。


 大学は夏休み、アルバイトはちょうど辞めて新しいところを探しているところだったのが幸いした。誰にも迷惑をかけていないなら、それが一番だ。


(ああ、でもおばあちゃんは大変だったのかな・・・)



 少し心配になりながら自宅に帰る。ガラガラガラ、と昔ながらの引き戸を開けると、家の中はしーんと静まり返っていた。


「ただいまー、あれ、おばあちゃん、いないの?」


 いつもなら「おかえり」と笑顔で声をかけてくれる祖母がなぜかいない。古い平家でそこまで広くはないので、声が聞こえない部屋は無いはずだ。


「おばあちゃん?」


 祖母を探しながらキッチンに入ると、テーブルの上に書き置きがあるのを見つけた。


「え、何これ!?」


 そこには、実家に戻っていますとの一文と、その住所だけが書かれていた。ここから電車で一時間ほどのその場所は、話には聞いたことはあったが、茉乃は一度も訪れたことはなかった場所だ。祖母が生前の母と暮らしていた家。祖母の生家でもあるそこは、茉乃にとっては全く縁のない場所だった。


「・・・これって、ここに迎えに来いってことかな?」


 祖母の意図はよくわからなかったが、とりあえず荷物をざっと片付け、書かれていた住所を目指して出発することにした。




 駅まで徒歩で十分ほど、そこから電車を少し待って、どうにか一時間半もかからずに目的の駅まで到着することができた。


 小さな駅だったが海が近く、人通りもそれなりにある。ロータリーでタクシーに乗ろうとウロウロしていると、茉乃の近くに一台の紺色の車が止まった。


「藤堂茉乃さん、ですね?」


 車の窓が開き、全く見たこともない男性から名前を呼ばれて心底驚く。


「突然申し訳ございません。佳乃さんから今日この時間にきっと茉乃さんがいらっしゃるからと言われて、こちらにお迎えに参りました。こちら、証拠の動画です。」


 男性はスマホを茉乃の方に向け、動画を再生した。そこには今目の前にいる男性と、隣でいつもの笑顔で手を振る祖母の姿があった。どうやら「信頼できる人だから大丈夫」と言っているようだ。


「・・・わかりました。じゃあ、お願いします。」


 茉乃は何が何やらわからないままではあったが、とにかく祖母の知人であることだけは理解して、車の助手席に乗り込んだ。


「よかった!では参りましょう。あ、私は先生・・・佳乃さんの身の回りのお世話をさせていただいている村瀬と申します。」

「え?・・・そうですか・・・いつも祖母がお世話になっています。」

「いえ、こちらこそ先生には良くしていただいて!では出発しますね。」



 そうして茉乃は不安を抱えながらも、佳乃のことを先生と呼ぶ謎の人物と共に、祖母の待つ家へと向かっていった。




 到着して車を降りると、そこは見たこともない大豪邸の門の前だった。


「えっと、ここですか?本当にここで間違いないんでしょうか!?」


 動揺する茉乃にニコニコと村瀬が微笑み、もちろんですどうぞと門を開けた。



 門の先には広々とした洋風の庭が広がっており、その先に先ほどからチラチラと見えていた、古さはあるがかなり大きな家が聳え立っていた。


「何ですかこの大きな家!?」

「先生のご実家兼、仕事場です。」

「仕事場?祖母が仕事をしているんですか?」

「はい。ぜひこのあとゆっくりお話しください。」


 そう言って今度はその豪邸のドアを村瀬が開ける。


 その先には、大好きな祖母、佳乃の姿があった。


「おばあちゃん!ただいま!!」

「茉乃!お帰りなさい。待ってたわよ!」


 笑顔で出迎えてくれた祖母の姿は、いつもの地味な格好ではなく、綺麗な着物に身を包み、どこのお金持ちの奥様かと思うような雰囲気だった。


「おばあちゃん、いったいこれはどういうこと?こんな家が実家だってことも、おばあちゃんが仕事してるのも、私全然知らなかったよ!」


 佳乃は少し申し訳なさそうにしながら、茉乃の手を取った。


「そうね。何も話していなかったわね。ごめんなさい。今からゆっくり説明するから、まずは上がって!お茶でも飲みながら話しましょう、ね?」


 そうして祖母に言われるがままに家に上がり、二十畳以上はありそうな広い部屋に通された。そこに村瀬が笑顔のままお茶を運んでくる。


「ありがとうございます!・・・ねえ、どういうことなのおばあちゃん!?」

「そうねえ。まずね、私は茉乃と暮らす前、ここで占い師の仕事をしていたの。」

「え!?嘘・・・」


 聞いたこともない話に耳を疑う。


「本当よ。代々藤堂家の女性達は、占いやお祓い、拝み屋のような仕事を請け負ってきていてね。私は特に占いに才があったから、そればっかりを仕事にしてきたのよ。でもありがたいことによく当たると喜ばれていてね。あんまり大勢は見られないから、まあ紹介の方だけね、ひっそりとここで仕事をしてきたの。」

「そうなんだ・・・知らなかった。」


 茉乃は祖母の知らなかった一面を知って、驚きすぎて頭がクラクラしそうだった。


「でもね。茉乃のお父さんとお母さん、優香が亡くなった時、身内のために何もできなかったことを、その未来をみることができなかった自分にも失望してね・・・しばらく仕事は不定期で受けるくらいにして、この十年は茉乃のためにできるだけ時間を作っていきたいと思って暮らしてきたんだよ。」

「おばあちゃん・・・」


 娘や義理の息子を亡くし、自分への後悔と孫のために仕事もセーブして。それがどれほど辛いことだったのか、茉乃には想像することもできなかった。


「でもね。お前が柊くんと一緒に旅立って、私はもっとちゃんと生きなきゃって思ったの。茉乃のためにも、茉乃のお父さんとお母さんの分も、私ができることはやらなくちゃって。だから村瀬くんにもう一度声をかけてね。ここに戻ってきてもらったのよ。彼は私の最後の弟子で、素晴らしい占い師なのよ。」

「じゃあ、また占いを始めたの?」

「そうだね。ありがたいことにこんな私のことを覚えていてくれる人がたくさんいてね。紹介に限ってではあるけれど、細々と始めているよ。」

「すごい・・・」


 そして茉乃は、祖母からその日一番の衝撃的な話を聞かされることになった。



「だからね茉乃、私が柊くんがもう一度ここに現れる時を、私が必ず占ってあげるからね。」



 想像を超える出来事の連続でギリギリ保っていた茉乃の思考が、その瞬間完全に停止した。


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