想いの向こう
茉乃達は、その日ホテルで最後の夜を過ごし、温泉に再び堪能して、ゆっくりとそれぞれの時間を過ごした。まだ声や喉が本調子ではないということもあり、無理せず今日は早く寝ようという柊の言葉に素直に従った。
翌日、帰りの車の中で、久しぶりにゆっくりと二人で話をした。最近あった出来事、研究室でのハプニング、鷹宮のこと・・・ずっと話したくても話せなかった色々なことを、ここぞとばかりの話し合った。
「そっか。鷹宮そんなこと言ってたんだ。話してくれてありがとう。辛くなかった?」
「うん。大丈夫。何かよくわからないけど、私ここに来てから強くなった気がする!」
「はは!そうだね。俺もそう思う。最初の頃は顔すら見てくれなかったもんね。」
「それは!・・・柊さんの顔が良かったからちょっと苦手っていうか嫌な思い出が蘇るというか・・・。」
柊は思い出し笑いをしながら運転している。
「本当、あの顔は最高だった!でも何か可愛くてさ。つい触りたくなっちゃってたんだよね。頬が柔らかかったー!」
「またそういうことを!恥ずかしいんですからね私は!」
「少しずつ慣れていくよ。手を握るのも、頬に触れるのも・・・キスも。」
茉乃はその言葉に顔を真っ赤にする。柊は横目でその顔を見ながら、嬉しそうに続けた。
「そうやって少しずつ二人でいることに慣れて、触れることにも慣れて、気がついたら側にいつも君がいる、そんな二人になりたいんだ。」
「柊さん・・・」
そして茉乃は思い出す。その夢は恐らくもう叶わないことを。そしてそれをただじっと受け止めていくしかないことも。
(だから最後まで笑顔でいようと決めたんだ)
そうして二人は、長い長い帰り道、たくさんの話をしながら、ゆっくりと家に帰っていった。
翌日、二人は午後から研究室に向かった。
「マノちゃん!!おかえりー!!」
一番に結城が飛びついてくる。よかったよかったと半泣きで喜んでくれる彼女に心が温かくなる。
「ご心配お掛けしました、再び・・・。」
「いいのよいいの!それより本当によかったわ!沢木くんなんてずっとソワソワしてたもの。あれじゃリーダーとして心配だったからどうしてくれようかと思ってたけど、これで安心ね。」
「結城さん、やめてください!・・・とにかくよかった。おかえりマノちゃん。そうだ、江口さんと鷹宮さんが奥で待ってる。話があるって言ってたよ。あ、鈴村さんも、お待ちしているそうです。」
茉乃と柊は顔を見合わせた。
(柊さんも?何か重要な話なのかな?)
言われるがままに二人で奥の部屋に進む。すると江口と鷹宮が立ったまま話し込んでいた。
「お、おかえり茉乃!」
「二人とも、お疲れさま。」
「何、俺にまで用なの?」
「むしろあなたにお願いがあって来たの。」
茉乃は不思議そうに柊を見る。彼もまた困惑している様子だった。
「ねえ、江口くんがね。鈴村くんの力と藤堂さんの力は似ている部分があるって言ってたの。他の人はもう散々試したんだけど、あなたはまだ実験に参加していないわよね。今日はぜひともお願いしたくて。」
「・・・わかった。」
江口が真顔になり、柊に迫る。
「手を貸せ。」
「!」
珍しく強引に柊の手に触れ、一瞬だったようだが力を抜き取ったようだ。
「茉乃の力、吸収しただろ?」
「・・・ああ。」
「やっぱり。あえて今まで避けてきたのか?」
「どういう意味ですか?」
ここで初めて茉乃が口を挟んだ。全員が黙り込む。
「皆さんわかっていて、私に言えないことがあるんですよね?それは何ですか?」
「茉乃、落ち着いて!」
「柊さん、何か隠してるんですか?教えてください!」
「いや、それは」
鷹宮が一歩前に出て、柊の言葉を止める。
「藤堂さん。彼はあなたの力と元々近いものを持っていた。そして彼は天才なの。たいていの魔法術は彼にとっては遊びみたいなものなのよ。そんな彼が、あなたの持っている力を吸収して自分のものとして発動するのは、たいして難しいことじゃない。」
言っている意味がわかり始めて茉乃は混乱する。
「それって・・・最初から私の力を柊さんに流していれば、それでよかったかもしれないってことですか?」
「それは違う!」
「半分当たりで半分外れかな〜」
「おい江口!」
茉乃はただ答えが知りたくて、真っ直ぐに柊の目を見た。
「柊さん?」
柊は諦めたように目を伏せて、大きく深呼吸をした。
「ずっと、その可能性には気づいてた。でも、本当にこれはそうなんだけど、君の魔法の力が安定しなければ吸収するのは危ない行為だったし、俺だけが使えても仕方ないから、だから研究は必要な時間だった。でもこの間君が・・・自主的に俺に力を流してくれて。その・・・たぶん、俺もあれを発動できるようになったと思う。」
茉乃は何と言っていいかわからず、下を向いて黙ってしまった。
「茉乃?」
「少し、一人になってきます。」
「茉乃!?」
柊の静止を振り切って研究室の外に出た。
どこに行くことも出来ず、結局最近篭っているいつもの資料室に行き着いた。本を手に取り、じっと眺める。もう読めるようになったその本だが、今の茉乃には一文字も頭に入ってこなかった。




