二人の小さな冒険
翌日、江口に手伝ってもらいつつ、柊にこれからどうしたいのかを伝えることができた。事情を説明し、市村からの音声を確認してもらって、最後に江口が聞き出したとある地域名を伝えてもらった。
「わかった。俺も一緒に行く。」
「え、それは無理じゃない?さすがに。たぶん佐藤さんが許してくれないと思うけど。」
「じゃあ鷹宮さんに頼む。俺の、俺達の人生がかかってる。必要な時間だよ。」
「・・・そうか。」
茉乃は二人の様子を見て心配になり、ただキョロキョロと二人の顔を交互に見ていた。
「大丈夫。この件に関しては無理も通さないと。君は半分はうちの研究員だし、半分はこの世界の大切なお客様なんだから。それに茉乃は話ができないんだから一人旅は無謀だよ。俺も行く。」
茉乃は嬉しくて笑顔で頷いた。江口は「じゃあ仕事半分くらい手伝うから」と、珍しくやる気を出してくれて、柊は嬉しそうに頷いていた。
そうしてどうにかこうにか許可が降り、二人は翌週から目的の地方に向かうことになった。
「車で三、四時間てところかな・・・。疲れたらちゃんと教えて!」
私服の柊と出かけるのは久しぶりの茉乃は、少しだけこの時間を楽しみにしていた。つい笑顔があふれてしまってちょっと反省する。そこまでの様子が丸わかりだったのか、柊が苦笑していた。
「いいんだよ、茉乃は笑顔でいてよ。心配しなくていい。俺がいるから。一緒に必ず見つけよう。ね?」
うん、と動作だけで思いを伝える。柊が側にいるだけで、茉乃は全く不安を感じなかった。
間に休憩を挟みつつ現地に向かうと、午後になる頃にはおおよその目的地にたどり着いた。そこではとりあえず一週間ホテルの部屋を二部屋取り、じっくりと腰を据えて指輪を探すことになった。
向こうの世界のように自由にスマホでマップが見られるということも無く、近場の地図を準備して地道に目的の場所を探す。
いくつか条件に当てはまる場所をピックアップし、ペンでマークを付けた。
「じゃあ今夜はここでゆっくりして、明日朝から探し始めよう。」
そうして二人の指輪を探索する旅が始まった。
翌日、三つのポイントを周り、砂浜や木の根元などを少しずつ探していく。もちろんむやみやたらに掘り返したりするのではなく、柊の魔法術で金属の反応を見ながら探していく。
茉乃は大したことができないので、怪しい場所を目視で探したり、掘り返す手伝いをしたりした。
三ヶ所回ったが見つからず、翌日も同じように探していくことになった。
寒さに震えながら、コートとマフラーで保温しつつ、カイロをポケットに入れて暖を取る。暖かい日中に集中して、時間をかけて探していった。
三日目、四日目も何も見つからず。少し疲れてきた二人は、五日目に近くの温泉で疲れを癒した。
「温泉最高だった!!茉乃も気持ちよかった?」
うんうんと満面の笑顔で頷くと、柊が頭をわしゃわしゃと撫でてくる。嬉しいのと恥ずかしいので手を払うようにすると、その手を捕まえられて、手を繋いでそのまま歩き出した。
二人で夜風に当たりながら、近くのホテルまで歩いて帰る。
「茉乃とまさかこんな風に旅行ができるなんて思ってなかった。こんな状況なのに申し訳ないけど・・・実はちょっと嬉しい。」
それは私も同じだと伝えたくて、茉乃はひたすら頷く。
「よかった。俺だけだったらどうしようかと思った!よし!温泉も入ったし、明日も頑張って探そう!!」
そうして二人はしっかりと繋いだ手の温もりを大切にしながら、それぞれの部屋に帰っていった。
そこからさらに宿泊を延長して三日経ち、そろそろマークしておいた場所を探し尽くしたと思っていた頃、江口から柊に連絡があった。ホテルにわざわざかけてくれたらしい。
「え!?本当に!?・・・わかった。そこに行ってみる。連絡助かった。うん。」
部屋の電話で話した後、茉乃の方を向いて話しだした。
「市村から追加の情報をもらったって!もう少し先の海岸沿いの神社の近くに公園があって、そこじゃないかって。まだ十五時半だし、行ってみる?」
目を輝かせて頷く茉乃に、柊は優しく微笑んで手を握る。そこから三十分ほど車で移動して、早速その公園内を探し始めた。
「あそこ、あの木の下に何か感じる。行ってみよう!」
茉乃の手を引いて早足で歩き出す。その木は大きな桜の木だった。まだ今は花の時期からは遠く、小さな蕾が少し見えるだけだったが、茉乃にはそれが、春を迎えるための素敵な時間を包んでいる宝石のように見えた。
木の下に近づくと、柊が手を振る。土が自然と削れていき、舞い上がり、穴が空いていく。
そして、フワッと空中に小さな箱が浮かび上がった。
「これだ!!」
柊がそっとその箱を両手で受け止めた。土を払い、ゆっくりと蓋を開けると、そこにはサイズの違う二つの指輪が光っていた。
プラチナと思われるそのシンプルな形の指輪は、まさに本の中の彼女が探し求めていたあの指輪だと二人は確信した。
茉乃はバッグから彼女の本を取り出す。その指輪を箱から抜いて、本の間に、滑り落ちないように丁寧に挟む。
するとその瞬間、本そのものから、何かよくわからない力が放出されていくのを肌で感じた。風が当たるような、細かい霧が肌に触れたような、不思議な感覚だった。
「柊・・・さん」
「茉乃・・・?」
声がうまく出ないが、茉乃はようやく口を動かして言葉を発することができた。柊が力強く抱きついて喜ぶ。
「よかった!!本当によかった・・・。」
「・・・ありがとう。」
茉乃はなんとかそれだけを声に出して伝えると、そこから少し下の方に見える海を見た。
二人はこの数日、こんなに近くにあったのにゆっくり見られなかった海を、そしてそこに沈む夕日を、何も考えずにただ黙って見送っていた。




