表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/74

叶うことのない未来

 十二月も後半に差し掛かろうとしていたある日。


「茉乃。あのさ、その・・・クリスマスって、どうする?」


 柊が帰りの車の中で突然話を振ってきた。


「クリスマスですか?うーん。誕生日が近いので、いつも祖母とは誕生日をメインでご馳走を食べに行ってました。そういえばクリスマスってあんまり何かした記憶がないかなあ。」


 茉乃は腕を組んでうーんと唸りつつ思い出そうとしたが、やはり誕生日の思い出しか浮かばなかった。


「そっか。じゃあ今年は、どっちも二人でお祝いしない?」

「え!いいんですか?でも二日も別々になんて、贅沢なことしていいのかなあ?」

「いいのいいの!だって茉乃と初めて一緒に過ごすクリスマスと誕生日だよ?そのくらいしたってバチは当たらないって!」


 そう言ってチラッと笑顔を向ける柊が、茉乃には眩しかった。


「そうですよね!じゃあ、二日ともお祝いしてもらっちゃおうかな!」


 柊に笑顔を返し、前を向いた。


(初めてのクリスマス・・・そして、二人で過ごす最後の誕生日会になるんだな・・・)


 涙があふれそうになるのをぐっと堪えて、茉乃は助手席側の窓の外を見る。その日は少し暖かく、雪にはならず冷たい雨が降っていた。


「うん。色々企画しているから、楽しみにしてて!クリスマスは二人で過ごして、誕生日は食事会だけみんなで集まろうか?」

「ううん。柊さんと二人っきりがいいな。」


 茉乃の珍しいおねだりに、柊は一気に顔を赤くする。


「う、うん、わかった!じゃあそうしよう!!うん。二人っきりか・・・うん。なんかドキドキするね。」

「・・・はい!」


 そうして二人は二日間の特別な日を、それぞれに想いを抱えながら待ち侘びて、日々を過ごした。





 クリスマス当日は平日だったため、二人は仕事を終えた後、予約していたレストランにディナーを食べに出かけた。


「柊さん、これ、私からのクリスマスプレゼントです。そんなすごいものじゃなくて申し訳ないんですが・・・」


 茉乃はディナーの合間にバッグをゴソゴソしたかと思うと、中から小さな箱を取り出した。


「嬉しい!開けてみていい?」

「はい!」


 それは茉乃が香水専門店で調合したオリジナルの香水だった。


「すごい!じゃあこの香りは俺しか持っていないんだね!」

「気に入ってもらえる香りだといいんですけど・・・もしよかったら明後日つけてきてくれますか?」

「もちろん!」


 その後柊は終始ご機嫌で、珍しくワインを飲み、上気した顔で二人でマンションにタクシーで帰った。



「茉乃。これ、俺からのクリスマスプレゼント!」


 そう言ってマンションの柊の部屋の前で、彼は茉乃に細長い箱を手渡した。


「嬉しい!今開けてもいいですか?」

「うん。開けてみて!」


 そっと包装紙を外し、箱を開くと、そこには綺麗な青に近い紫色の石と、それを取り囲むようにして白く輝く石のついたネックレスが入っていた。


「綺麗・・・」

「十二月の誕生石、タンザナイトのネックレスだよ。周りの石はダイヤモンド。ブルーと悩んだけど、なんとなく茉乃には紫が合うかなって。」


 照れながらそう言って、ネックレスを手に取る。そして茉乃の後ろに回り込んで首元につける。


「柊さん、素敵なプレゼントをありがとう!!嬉しい・・・」


 柊は前に戻ってその姿を確かめると、嬉しそうに目を細めた。


「うん。よく似合ってる。いいね!ねえこれ、明後日もつけていてもらえる?」

「もちろんです!」


 そして翌日仕事になっていた二人は、そこでささやかなキスを交わして、お互いの部屋に戻った。




 そして二十七日、茉乃の誕生日がやってきた。その日はもう前日から研究室は冬休みとなり、全職員、研究員達はお休みに入った。



「茉乃、誕生日おめでとう!!今日は一日デートをしよ?ちょっと天気は悪いけど、絶対楽しいから!!」


 そうして二人は、冬のデートをめいいっぱい満喫した。水族館、ショッピング、美味しい食事を楽しみ、夜は映画も見て、二人してくたくたになって、家に帰った。



「茉乃、楽しかった?」

「はい、すっごく!!こんなに遊んだのは初めてかも!!」

「そっか、楽しかったなら何より!最後はうちで、ミルクティーであったまろう?」


 そうして二人はその日一日そうしていたように、手を繋いで柊の部屋に入った。柊からふんわりと漂う香りは、茉乃があげた香水の香りだ。



 いつものようにソファーでミルクティーを飲む。静かで、温かい時間がそこに流れていた。


 そして柊がポケットからおもむろに小さな箱を取り出す。



「茉乃。」


 その真剣な表情に、茉乃は怯えた。


「柊・・・さん?」


 柊が、あの告白の日のように跪いて箱を開けた。


「これ、今付けてくれているネックレスとお揃いなんだ。・・・茉乃、俺と・・・すぐじゃない、でもいつか、将来必ず、結婚してくれませんか?」


 茉乃はその瞬間、全ての時が止まったように感じた。柊の手の中には、今身につけているネックレスと同じ、タンザナイトとダイヤモンドの指輪が光っていた。



 そして、涙が、とめどなくあふれた。



「どうしよう、柊さん、嬉しい、嬉しいよ・・・」

「茉乃・・・受け取ってくれる?もちろん君はまだ若いし、やるべきことが向こうの世界で残っているならそれも待つよ。俺は君のことが気になりだしてから二年以上経つけど、君にとっての俺はたった数ヶ月しか知らない人間だし、早すぎるのもよくわかってる。でももう離れ離れにはなりたくないんだ。だから今、ここで約束したい。ずっとずっと一緒にいるって、約束。」


 茉乃はその時すでに知っていた。その願いは決して叶わないことを。そしてそれを彼には絶対に明かしてはならないということも。



 それでも。その約束が幻になるとしても。



「・・・はい。」

「!・・・茉乃!ありがとう。大好きだよ、茉乃!!」


 今だけは、この世界にいる間だけは、その夢と幻の中で生きていたい。柊の腕の中で、茉乃は喜びと絶望の狭間にいる自分を見つめながら、叶うことのない未来を思い描く。



 左手の薬指に嵌められたその指輪は、ぴったり指に合ってしまい、余計茉乃の涙腺を緩ませた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ