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形になっていく力

 少しして川田が戻ってきたので、予定通りに実験を始める。


 以前は六割程度だった文字の再生率は現在八割以上にまで上がってきていた。そうは言っても茉乃にしかできない時点で成果が出せているとは言い難いのだが、それでも次のステップへの足掛かりにはなっていると江口は言う。



「今日はもう少し深くまで力を探ってみる。茉乃にはきついかもしれないけど頑張って。」

「え?江口さん、呼び捨てはまずいっすよ!?」


 川田は驚いた顔で江口を見る。茉乃はああ、と頭を抱えたが、江口は全く気にしていない様子だった。


「どうして?彼女とは友達なんだ。問題ない。君も呼び捨てにする?」

「いえ、自分は結構です・・・。」

珍獣を見るような目で江口を見た後、川田は準備を始めた。


「じゃあ、始めるよ。」

「はい。」


 その日、茉乃は初めて、自分の中に江口の力が液体のように流れ込んでくるのを実感した。そして、自分のずっとずっと深いところにまでその冷たくも熱くも感じる何かが流れ込んでいき、形になり、ぐっと掴まれるような感覚が起こった。


「うん。いいね。」

「!?」


 言葉にも声にもならなかったが、それが引き上げられるような、自分の体と合わさるような不思議な状態に陥り、茉乃は一瞬頭が真っ白になった。


「うわっ!?」

川田が叫ぶ声で我に返ると、辺りの資料や本が吹き飛ばされたようになっていて唖然としてしまった。


「君の中にあった力をきちんと魔法術として形にした瞬間だ。こうなるのも当然だから気にしないで。」


 江口は、見せたことのない柔らかな笑顔を茉乃にだけ見せた。川田は慌てて周囲の資料を拾い上げていて気付かなかったようだ。


「はい・・・よく自分ではわかっていませんけど、ありがとうございます。」

「ううん。茉乃が頑張ったからだよ。お疲れさま。」


 江口は茉乃の頭をそっと撫でて、立ち上がりローブを脱いだ。


「じゃあ続きはまた明日。」

「あ、お疲れ様でーす!」

「お疲れ様でした。」


 茉乃もはっと気付いて川田の片付けを手伝う。そしてなぜか今日は江口の手をそこまで不快感に感じなかったな、と不思議に思いながら、作業の続きを進めていった。




 翌日は川田はお休みだったので、沢木が代わりに立ち会い、江口が引き出してくれた力を使っていくことにした。


「今日も録音した音声を流しつつ、この本の写しの変化を見る。だけど茉乃は写しには手を触れず、音声が始まる前に『文字再生』とだけ言って魔法術を発動してみて。」

「わかりました。やってみます!」


 沢木は一瞬、江口が茉乃の名前を呼んだ時に反応をしたが、そのまま「こっちはいつでもいいよ」と言っていつも通りに対応してくれた。


(ヒロさんやっぱり大人だなあ)


 茉乃もしっかりしなきゃと気合いを入れ直し、集中してから力を放つ。


「文字再生」


 手を振ると、写しに光が宿っているように見えた。


(気のせいかな?)


 沢木が録音した音声を流していくと、少しずつ文字が書き換わり、全ての文字が読める文章へと変化をとげる。三人はその全ての様子を目撃することができた。


「・・・すごいね!」

沢木の言葉に皆で頷く。

「これで第一段階終了かな。三ヶ月でこれなら、かなりいいペースだと思うよ。」

江口もふう、と息をつく。


 茉乃は力をごっそり持っていかれた感覚はあったが、一つ小さなステップを達成できたことに、それ以上の喜びを感じていた。


(私にもできることがあったんだ)


 そして、沢木はその内容を録画した魔法具と、今変化させた写しを持って、柊のところに報告に出かけた。



「連日お疲れさま、茉乃。」

「江口さんこそ、お疲れじゃないですか?」

「いずみ」

「え?」

「泉って呼んでくれる約束でしょ?」

「えっとでもさすがにそれはやっぱり」


 江口がぐっと体を寄せてくる。


「じゃあ僕は友達と思わなくていいのかな?」

「泉さん!!」

「うんうん。よろしくね。連休を挟んで来週からは、音声なしでできるようにしていくのが目標だよ。まあ、これが第二段階かな。最後は・・・君以外の人がその魔法術を使えるようになることだね。」

「・・・そうですね。」


 茉乃は、その時は自分が必要なくなる時なんだな、と改めて気付かされ、胸が締め付けられるような思いに駆られた。


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