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敵意

 それから二週間ほどは日々、本と資料に向き合い、のど飴を舐めたりのどに良いと言うお茶を飲みながら、文字を読み続けた。


 江口とは微妙な距離感を保ちつつも、茉乃の中にある力を少しずつ魔法術として確立できるよう引き出してくれていた。あれ以来全部の力を持っていくようなことはしないでいてくれる。



 そしてだいぶ朝晩が冷え込むようになってきた十月後半、以前から話はあったが仕事の都合で延期になっていたバーベキューをしよう、という話が持ち上がった。


 場所は、以前柊に滝を見せてもらった山の近くにある、川沿いのバーベキュー場だとのことで、週末の予定を確認する紙を回していくことになった。


 研究員達は基本的に登録番号でお互いを確認することになっているため、今回、回覧として回していく紙にも、研究員達の番号とチェック欄のような枠が作られている。ちなみに『十月二十五日土曜日、親睦会バーベキュー開催予定。午前十時に研究所の駐車場集合、参加される方はチェックを入れてください。』と言う文言は茉乃が書き入れて読み、文字にした。


 

「はい、これ。マノちゃんもチェックを入れたら一番奥の研究室に持っていってくれるかな?今回は五階の研究員のみの親睦会だから、悪いんだけど手書きでそれもお願いできる?」


 沢木から依頼をされて、追加で下の方にその旨を記載した。


「じゃあ、よろしく!」

「はい。」



 茉乃はその紙をクリップボードに挟んで、一番奥にある研究室に向かう。そこはあの鷹宮が今所属している研究室だ。


(鷹宮さん、いるかな?)


 ノックをすると鷹宮ではない女性の声が聞こえ、ドアを開けた。


「ああ、あなた・・・藤堂さんでしたっけ?」


 それはあの日鷹宮の後ろにいた市村という女性だった。今日はなぜかとても冷たい目で茉乃を見つめている。


(こ、こわっ!?なんで睨まれてるんだろう、私!?)


「は、はい!あの、親睦会のお知らせを持ってきました。お手数ですがチェックを入れたら隣の研究室に回していただけますか?」


 市村はチラッと茉乃を見てそれを受け取ると、「わかったわ」と言った後不機嫌そうな顔で黙ってしまった。茉乃は役目を終えたので、気にしないことにして帰ろうとする。


「ねえ、ちょっと!」


 ドアを閉めようとした時、ふいに市村に呼ばれて立ち止まった。


「あなた、今鈴村さんとお付き合いしてるって本当なの?」

「え!?」

「・・・ふーん、本当なんだ。でも鈴村さんには昔から華・・・鷹宮さんという許嫁がいるの。それ、知ってるかしら?」


 突然浴びせられたストレートな敵意に驚く。


「あの・・・ひ、鈴村さんからその噂は間違いだと教えてもらっています。私は、彼を信じてますから。」

「何ですって?」

「すみません、失礼します!」


 茉乃はそれ以上話を聞きたくなくて、ドアを閉め研究室に急いで戻った。




(怖い!あの人何であんなに敵意剥き出しに?鷹宮さんの助手さんじゃないのかな?)


 茉乃ははあ、とため息をつき、本を持って奥の部屋に向かった。



「あれ、川田さん、いないですね?」


 いつも午後のこの時間は江口と共にデータを取ってくれる彼がいない。部屋でローブを着て待っていた江口が小さく頷いた。


「うん。なんか沢木くんに呼ばれて、会議に一緒に出るって出かけていったよ。ほら彼、魔法具の扱いが上手だから。映像資料映したり録画したりするって。三十分位で帰ってくるよ。」

「ああ、なるほど!」


 江口が少しだけ近寄ってくる。


「藤堂さん。なんか疲れてる?」

「え?」

「顔が疲れてる気がする。僕今まであんまり人の顔色って気にしたことがなかったけど、君のはわかる。」


 江口は最近いろんな表情を茉乃に見せるようになった。今日はとても心配しているのが伝わってきて、ついぽろっと、さっきあったことを話してしまう。


「ついさっき、市村さんからちょっと攻撃的な一言をくらっちゃいまして・・・」

「ああ、だってあの子、鷹宮の友達だからね。しかもちょっと執着してるっていうか崇拝してるっていうか、そんなだからたぶんそうなるかなとは思ったよ。」


 まさかの江口がそんな詳しい事情を知っているという事実に、茉乃は驚かされた。


「・・・女子の事情に詳しい江口さんって新鮮です。」

「茉乃のこと心配だから。」

「!」


 江口の言葉に敏感に反応する。


「あの、その呼び方はちょっと・・・」

「だめ?僕のことは泉でいいよ?」

「そ、そう言う問題ではなくてですね!」

「鷹宮の噂を前に流したのも、たぶんあの子だよ。」


 話を逸らされた挙句、とんでもない話を聞かされて茉乃は面食らう。


「鷹宮に鈴村とくっついてもらいたいんじゃないかな。友達として、って言うのもあるし、これはわからないけど、彼女の親は鷹宮家に頭が上がらない立場の人間だから、恩を売っておきたいところもあるのかもね。まあどっちにしろ、これからも妨害は増えると思うよ。」

「うわあ、私そういうの昔から苦手で・・・」

「ま、好きな人はそういないよね。だから僕がいるよ。」

「ん?」

「とりあえず友達になろう。僕達。」


 江口のその発言に茉乃は口をぽかんと開けて固まってしまった。友達?江口さんと友達?


「あの、それは何と言ったらいいか・・・」

「うーん。友達になるのに理由がいる?彼氏じゃないしいいじゃない。鈴村とは話せないこともあるでしょ?」

「・・・」

「じゃ、今から友達ね!あ、泉って呼んで。」

「泉・・・さん?」


 江口は少しだけ赤くなった頬を見せながら優しく微笑んだ。相変わらずの美しい顔に、茉乃は何だかもう余計疲れが増した気がして、再び大きなため息をついた。


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