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気付いてはいけない気持ち

 茉乃は今、沢木と手を繋いで園内をゆっくり歩いている。もうだいぶ日も暮れかけて、少しずつ今日のデートは終わりに近づいてきている。


「マノちゃん、夕食、外で食べようか?」

「・・・え?」

「ぼーっとしてた?さっきの話、引きずってる?」

「ヒロさんて結構、意地悪だったんですね!」

「ああ、それよく言われるかも。人が良さそうな顔して結構ドSだよねとか。」

「うわあ。」

「え、やっぱり引いちゃう?でも大丈夫!君には優しくするから。」


 茉乃は沢木が、今の強張った雰囲気を和ませてくれたんだなと気付き、少し気持ちが楽になった。


「今日はこの後はもう家に帰ります。今日は一日本当に楽しかったです。ありがとうございました!」


 茉乃が沢木の隣を歩きながら小さく頭を下げると、彼は手を引いたままそこに立ち止まった。


「まだ、帰したくない。」

「え?」

「ねえマノちゃん。今夜、一緒にいてくれない?」


 最初は言われた意味がわからず、まじまじと彼を見つめていたが、少しずつ意味がわかって思わず手を振り解いた。


「そ、そういうのは、無理です!!」

「・・・やっぱりだめか。残念!」

「ヒロさん!?」

「誘いたい気持ちは本当だよ。まだ気持ちの整理がつかないなら仕方ない。でも、今日はずっと俺達、手を繋いで歩いていたんだ。もう、このまま付き合ってみない?」


 自分が今まさに追い込まれていることにようやく気付いた茉乃は、彼の本当の姿と強すぎる自分への思いに、心底怯えてしまう。


「ヒロさん・・・怖い・・・。」

「うん。今追い込んでいる自覚はあるよ。」


 沢木が再び茉乃の手を掴む。


「試しに付き合ってみようよ、マノちゃん。」


 そのままゆっくりと引き寄せられる。顔が少しずつ近づいてきて、ようやく茉乃は我に返った。


「ごめんなさい!!やっぱり無理です!!」

「・・・ここまできて?もう遅いよ。」


 そして茉乃は、沢木の唇が頬に当たるのを遠くなる意識の中で感じていた。




「ごめん。ちょっと、今のはまずかった。」

「・・・」

「マノちゃん?」

「あの。」

「う、うん。」

「私、帰ります。」

「わかった。送って行く。」

「いえ、一人で帰ります。」

「それは無理だよ!ごめん、ちゃんと送るから・・・!」


 茉乃はもう一度手を振り払った。


「一人で帰ります。今日はありがとうございました。失礼します。」

「マノちゃん、待って!」


 沢木が追いかけてくるのを感じながらも茉乃は足を止めることはできなかった。人混みの中を走り続けていくと、どうやら沢木をうまく撒くことができたらしい。


 この後この遊園地で打ち上がる花火を楽しみにしている人々がさらに広場のような場所に集まりつつあった。茉乃はその様子を横目で見ながら、急いでゲートの外に向かう。


 そして、もう少しでゲートを出る、というところで腕を掴まれた。沢木かと思い焦って振り返ると、そこに思わぬ人がいた。



「柊さん・・・どうして!?」



 柊が黒っぽいパーカーに身を包み、そのフードを被った状態でそこに立っていた。見たことのない丸いフレームのサングラスをかけているせいか、表情が読み取れない。


「茉乃。帰ろう。」

「柊さん?え、茉乃って・・・、え!?」


 動揺し過ぎてわけがわからなくなっている茉乃の腕を掴んで、どんどん前に進んでいく。柊は顔も見せず、いつも合わせてくれる歩幅も合わせず、茉乃は走るようにしてついていくしかなかった。




 柊の見慣れた車の側に到着すると、茉乃は息切れをしながらそこで立ち止まった。柊は腕から手を離し、茉乃をじっと見つめている。


「マノちゃん。」

「柊さん、どうしてここに?」

「それより何であいつにキスされてんの?」

「え、見てたんですか!?」

「もうどうせストーカー認定されてるんだから今更でしょ?」

「どうして開き直ってるんですか!!」

「そんなことはどうでもいい!何でキスされてるのって聞いてるんだけど。」


 柊がなぜかとても怒っている。その事実に茉乃は当惑した。


「どうしてそんなこと柊さんに言われなきゃいけないんですか?」

「は?言わなきゃわかんないの?」

「わかりません!!柊さんだって付き合っている人がいるんですよね?じゃあどうしてこんなに私をからかうようなことばかりするんですか?」


 お互いにヒートアップしていることはわかっていた。こんなに気持ちをぶつけ合って喧嘩したことも初めてだった。それでも言葉が止まらなかった。


「私は沢木さんとはお付き合いしません。あれは勝手に彼がしてきたことです。だから一人で帰ろうと思ったんです。柊さんにとやかく言われるようなことはしていません!!」


 茉乃は自分でも気がつかないうちに、涙を流していた。そして、その瞬間、空に大きな花火が打ち上がった。



「マノちゃん?・・・泣いてるの?」


 柊の怒りが薄れていくのを茉乃は肌で感じていた。


「ごめん!怖がらせるつもりじゃなかった!ただ動揺して、変なこと言ったよね、ごめん・・・。」


 茉乃はもう涙が止まらなかった。花火の上がるドーン、ドーン、という音が胸に響く。


「ごめん、ごめんねマノちゃん!僕が悪かった!!君のこと心配し過ぎて頭がおかしくなってたんだ。デートをストーキングとか、本当に最低だった。ごめん!!」

「・・・柊さんのバカ!!」

「うん、バカだよね。」

「もう絶対手は握りませんから!」

「え!?それは、そう、でもほら!・・やっぱりダメ?」

「ダメです!!」

「そんな・・・」


 モデルのような男性がオロオロと茉乃のご機嫌をとっている様子がおかしくなって、少し笑った。


「マノちゃん!」


 ほっとした様子の柊の声に、茉乃の心も少しずつ落ち着いてきた。


「柊さん。うちに帰りましょう?いつもみたいにドア、開けてくれますか?」


 柊の顔に、見たことのないほど優しい笑顔が浮かぶ。


「うん。帰ろう、我が家へ。」


 そう言って助手席のドアを開け、茉乃が乗り込むとそっとドアを閉めた。


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