沢木とのデート
土曜日は少し曇ってはいたが、涼しくて過ごしやすい朝を迎えていた。
茉乃は朝から服を選び、教えてもらったメイクをして、準備を整える。
(一回きりのデート。ヒロさんにこれで納得してもらえる、なんて甘いのかな)
柊には会わず、そのままエレベーターで一階に降りる。
エントランスまで出ていくと、そこにはもう沢木の車が停まっている。窓が開き、名前を呼ばれた。
「マノちゃん、おはよう!乗って?」
急いで走り寄り、助手席のドアを開けた。
「おはようございます!お待たせしちゃいましたか?」
「ううん、大丈夫。じゃあ、行くね?」
「はい。」
今日の目的地は遊園地、と聞いていた。動きやすさを考えて、フード付きのロングパーカーにパンツスタイルにしてある。
「何だかいつもと違って、ボーイッシュで可愛いね。」
「あ、ありがとうございます!」
照れて顔を伏せるが、伏せたままは失礼かと思い、ゆっくりと顔を上げると、穏やかに微笑む沢木が見つめていた。
(まずい、今日は特に顔の良さが際立っている気がする!目を背けたい・・・)
「照れてるマノちゃんもいいね。さあ今度こそ行こうか。」
そう言って車はゆっくりと動き出した。
遊園地はもうすでに人がかなり並んでいて、その行列の後ろに沢木と隣あって並んで待つ。周りには友達同士、家族連れ、そして恋人同士なのかなと思わせる人達で溢れかえっていた。
「マノちゃん。手を繋いでもいい?」
「え!?」
「だってこんなに混んでいるのにはぐれちゃったら困るよ。連絡手段、持ってないでしょ?」
確かに茉乃が持っているスマホは向こうの世界のものしかなく、こちらのものはまだ持っていない。だが、なぜか手を握ることに抵抗があった。
(柊さんとは手を繋げるのに?)
「マノちゃん?」
「あ、あの、でもやっぱり」
「はい、もう繋いじゃった!」
沢木は勝手に茉乃の手を取り、ぎゅっと握りしめる。
「手、柔らかいね。」
耳元で囁く声に驚いて耳を塞ごうとするが、手を握られていて防げず、無防備に吐息を受けてしまう。
「ひゃっ!?」
「マノちゃん可愛い・・・」
「ヒロさん!?」
「ははは!いいじゃない、せっかくだから恋人っぽく楽しもうよ。そうしたら二人の関係が何か変わるかもしれない。ね?」
茉乃は困った顔のまま、入場ゲートを通って園内に入った。
入ってしまえばそこは楽しい場所、二人でお店を覗いたりアトラクションではしゃいだりしながら、休日の遊園地を満喫した。
「マノちゃん、結構ジェットコースター系行けるんだね!」
「ここのはそこまで怖くないので大丈夫です!お化け屋敷みたいなところは無理かなあ。」
「お!いいね、次行ってみる?」
「え!?だから嫌なんですってば!!」
「いいじゃない、行こう行こう!」
「あ、ちょっと、ヒロさん?」
ぐいぐい手を引かれながらお化け屋敷に向かう。そして茉乃はちょっとした段差につまずいてしまった。
「わっ!?」
「おっと!」
抱きかかえられるように沢木に支えられて、慌てて体勢を立て直した。
「ごめんなさい!」
「いや、俺こそ引っ張っちゃってごめん!大丈夫だった?」
「はい!・・・あの、もう大丈夫ですよ?」
沢木がゆっくりと、支えていた茉乃の体を離す。
「俺の腕の中にいても、やっぱり鈴村さんのこと考えてるのかな?」
茉乃の頭の中は真っ白になった。
「え、何を」
「好きなんでしょ?彼のこと。」
「・・・そんなこと、あるわけ」
「でも俺は諦めないから。だってあの人、確か許嫁だとか婚約者だって噂になっていた女性がいたはずだよ?」
「許嫁・・・?」
ショックを受けている自分にさらにショックを受け、茉乃はすぐそばにあったベンチに座り込んでしまった。
「そういう人がいるのに君に優しくするような男じゃなく、俺を選んでよ、マノちゃん。俺には君しかいないし、前も言ったけど、君が行くところにどこでもついて行くよ。」
もう沢木の声は、ほとんど茉乃の耳には届いていなかった。
(どうしてショックを受けてるの?柊さんは最初からそんな存在じゃなかったはず。柊さんだって、私のこと家族のように思っているだけ。なのに、どうして・・・)
「マノちゃん、マノちゃん!」
「あ、ご、ごめんなさい!」
「もう一度言うよ?マノちゃん。俺は君だけを思ってる。俺を選んで。そうすれば彼のことは絶対に忘れさせてみせるから。」
「ヒロさん・・・」
沢木の一言一言が、今になってより重みを持って感じられるようになっていた。
「でも、私」
「マノちゃん、好きだよ。彼は君に、好きって言ってくれた?」
「!」
そしてそのまま、茉乃は彼の腕の中に包まれた。目の前にたくさんの人が歩いているはずなのに、茉乃はもう何も見えず、何も感じられなかった。




