表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/74

親子の確執、力の差

「泉。私だ。今話せるか。」


 父からの電話などほとんど出ない江口が、なぜかその日は気まぐれでつい出てしまう。出張から帰ってきたばかりで、疲れが溜まっていたのだろうか。


「何ですか、父さん。」


 電話の向こうで笑っているような雰囲気があったが、意図が読めないのでただ返事を待った。


「ああ、最近研究室にお前のお気に入りの子がいるらしいね。どうかな、その子を我が家の嫁に迎えたいんだが。」

「・・・何の話だ。」


 思わず声に怒りが混じる。そしてそれをあっさりと看破されて追い詰められた。


「ほら、やっぱりお気に入りじゃないか。お前の嫁にぴったりの可愛い子だね。今うちに来てくれていてね。お茶でもどうぞともてなしていたんだが、どうも長居するつもりはないようだったのでまあ不本意だが、無理にお引き留めしているところなんだよ。」


 江口の怒りが頂点に達する。部屋中の物が溢れ出る力に耐えられずガタガタと揺れ始めた。


「何をしている、彼女を解放しろ!」

「お前が助けに来ればいい。そうすれば彼女は返すよ。」

「・・・相変わらずだな。わかった。」


 電話をすぐに切り、江口は部屋を飛び出した。





 研究室では、沢木は突然降って沸いたかのような仕事量に忙殺されていた。茉乃の不在にも気付けないほどのその状況は、後で思い返すと異常だったとわかったが、その時は全くそのことに気づいていなかった。


 そしてそこに柊が現れた。


「あれ、マノちゃんは?」

「え?あれ、おかしいな。資料室に行くって言ったっきり帰ってきてないのかな?」


 柊は顔色を変えると物凄い勢いで部屋を飛び出す。沢木はその様子を見てようやく異変に気付かされた。


「マノちゃん?いったい何が・・・」


 柊のあの青ざめた顔を思い出し、その場に呆然と立ちすくんだ。





 江口が実家に到着すると、沢登がその姿を見て走り寄ってきた。


「泉様!お待ちしておりました!!」

「彼女はどこだ。」

「・・・申し上げられません。まずはお父様にお会いして」


 その瞬間、沢登は見えない何かに吹き飛ばされ、塀の内側に叩きつけられた。


「ぐほっ、い、泉さま・・・なにを」


 江口は沢登の方を見ることもなく屋敷内に入っていく。玄関を破壊し、廊下に面した全ての障子や襖を全て一瞬で燃やし尽くした。


「泉様!?何をなさっているのですか!?」

「おやめください!!これ以上は困ります!!」


 中から慌てた様子の使用人達が何人も飛び出してくる。彼らを吹き飛ばしはしなかったが、その言葉は全て無視して奥に進んだ。



「泉、何をしている。」


 廊下の一番奥、そこで江口は父と対峙した。


「父さんこそ、何をしてくれたって?」


 二人の間には恐ろしいほどの緊張感が訪れる。


「お前は確かに将来を期待されるほどの強い力を持ってはいるが、私を上回るほどとは思えん。ここでこのまま勝負をする気か?敗れればお前の命も危うくなるぞ。」

「望むところだ。」


 正之はまだまだ余裕の笑みを絶やさない。


「ここで争っても何も解決はしない。それより彼女との婚姻を進めていけば、お前は彼女を自分のものにできる、私はお前と危険分子であるあの女の両方が監視下に置ける。こんないい話はないだろう?」


 江口の力が暴走する一歩手前まできていた。


「ふざけるな。彼女はこんな家に置いておける人ではない!」

「ほう?つまりお前は、この家でなければ彼女のことは欲しいわけだ。」

「・・・」

「さあどうする?今なら彼女をお前のものにしても誰も何も言えまい。こんなチャンスを逃していいのか?」



「いいも何も、もう彼女はここにいるけど?」



 江口がハッとして振り返る。そこには茉乃を抱えて立っている柊がいた。


「なぜお前がここに!?」


 正之の顔が引きつる。先ほどの余裕のある笑みはどこかに消えていた。


「なぜって、そりゃあこんな真似されて俺が黙っているわけないよね?考えればわかるでしょ?ああ、わからないからこんなことしちゃったんだー。頭悪いね。」

「何だと!?」

「それとも俺と喧嘩します?泉とは互角?もしくは勝てそう?な感じらしいけど、この俺に敵うと本気で思ってるの?」


 正之が青ざめていく。力が抜けたようになり、辺りの緊張感が少し薄れた。その時大量の石が柊に襲いかかった。


「危ない!!」


 江口の声が庭に響き渡る。だが柊の周りには見えない壁があるようで、彼も茉乃も全くの無傷だった。


「だからさあ、喧嘩する相手は考えようよ。ね、沢登さん。」


 沢登は勢いよく宙に舞い上がったかと思うと、庭にある大きな池にドボーン!と凄まじい音を立てて落ちた。


 そして、柊が正之に殺意を持った目を向けた瞬間、彼はその場に膝をつき、そして両手をついた。


「まあ、そういうことです。俺は権力争いには興味がない。今後も勝手にやってください。ただ、大事な仲間である泉と、俺の茉乃に手を出すようなら、次は本当に容赦しませんからそのつもりで。いいですね?」

「・・・わかった。」



 そうして柊は、茉乃を抱きかかえたまま、江口を伴い門を抜けて、外に出ていった。



「鈴村。」

「なに?」

「・・・父がすまなかった。」


 柊は江口の顔を見ることなく「ああ」と言った。


「お前、彼女のこと・・・」

「それ以上言うならお前も容赦しない。」

「・・・そうか。」


 柊は大事な宝物のように茉乃を抱えてその顔を見つめている。


「鈴村、俺の車がもう一台車庫にある。それで帰ろう。」

「ああ、わかった。」


 江口は柊のその後ろ姿を、ただ無表情で見つめてから車庫へ向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ