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接触

 柊から実技指導を受けた日から一週間が経った。


 それ以降、午前中の実技では、風だけでなく火や水なども動かしたり空中に浮かべたりすることができるようになった。


 ただし、イメージを口にしないと発動しないようで、黙ってやってみると手を動かしているだけの変な人にしか見えないくらい、何も起こらなかった。


 沢木は突然魔法術が使えるようになったことに驚いていたが、柊に教えてもらったことを伝えると少し苦しそうな表情で微笑むだけだった。




 そしてその日、茉乃は最初に柊と一緒に訪れた資料室のようになっている本だらけの部屋に来ていた。


 今日はたまたま川田も結城もお休みで、一人で本を読まなければならなくなったからだ。江口は出張で研究室に居らず、沢木は今日は別件で仕事の依頼があったらしく、かなり忙しそうにしていて声をかけられそうもなかった。



(どの本がいいのか・・・タイトルを読んで選んでいけばいいのかな)


 あまり整理されていない部屋なのと、当然茉乃以外は読めないものなので、種類毎に本が揃えられているわけではない。茉乃は仕方なく一つ一つ声に出しながら、研究に役立ちそうなタイトルのものを探していく。



 その時、ガチャ、とドアのノブが開く音が聞こえた。


(この部屋に他の人が入ってくるなんて珍しいんじゃない?)


 気になって振り返ると、そこにはあの大柄な男、沢登が立っていた。


「え!?」

「やあ、藤堂さんと言ったかな。ちょっとお願いがあるんだけどね。」

「ち、近寄らないでください!」

「悪いけど鈴村が側にいない君なんて私の敵ではないよ。大人しくついてきてくれれば悪いようにはしない。」


 茉乃は怯えながらも距離を取る。


「江口泉のことで、江口正之氏が少し話をしたいと言っている。二時間もあれば話は終わる。十七時前にはここに帰そう。」


 にじりよってくる沢登の目を見ながらゆっくりと後ろに退がる。だがもうそれ以上は本棚が邪魔して移動できなかった。


「わかりました。本当に十七時までに帰してくれるんですね。」

「ああ。」


 どうせ約束なんてしても無意味なのだろう。それ以上何も言わずに、黙って彼の指示に従った。



 さすがに二人で空を飛ぶことはできなかったようで、沢登は駐車場にある車に茉乃を乗せて移動した。



 三十分程でどうやら目的地に着いたらしく、降りるように指示がある。黒塗りのいかにもな車を降りると、高い塀と大きな門の目の前だった。


 そしてその門の向こうは、絵に描いたような美しい日本庭園が広がる大豪邸だった。



「さあ、江口様がお待ちかねだ。」


 急かされるように前に進み、広い屋敷内を歩かされる。庭の見える廊下を歩き、大きな障子を開いた。


「ここで待っていろ。」


 命令口調にイラッとしたが、お偉いさんだったと思い出し、茉乃は気持ちを必死で落ち着かせた。畳の匂いに少し癒されながら、大きな座卓の前の座布団に座り、ただひたすら待っていた。



 さらに十分ほど経ったところで、ついに江口正之という男が現れた。


 沢登が障子を開き、江口が静かに部屋に入る。そして上座に移動するとそこにあった座布団に胡座をかいて座った。高そうな和服に身を包み、威圧感は隠しきれていなかった。


 江口正之という男は泉の顔と共通する部分はほとんどなく、白髪混じりの髪、皺の深い目元と鋭い目つき、少し腹は出ているが、全体としてがっしりと鍛えた身体つきだ。線の細い泉の父親だと言われても、茉乃のはあまりピンとこなかった。



「君が藤堂さんかな。初めまして。江口です。いつも息子の泉がお世話になっているようだね。」

「いえ、こちらこそ、江口さんには大変良くしていただいております。」

「・・・そうか。」


 年配の女性がお茶を載せた盆を持って現れ、二人の前に置き、黙って退がる。


「喉が渇いたでしょう。遠慮なくどうぞ。」

「お気遣いありがとうございます。」


 だが茉乃は口をつけることはなかった。その様子を面白そうに眺めながら自分はそのお茶を啜る。



「それでね。話というのは泉のことなんだ。」

「はい。」

「泉は君のことを大層気に入っているようでね。もしよかったらなんだが、泉の嫁として、我が家に入ってはくれないだろうか?」


 茉乃は予想外のお願い事に驚き、江口の顔を穴が空くほど見つめてしまった。


「おや、こんな可愛いお嬢さんにそう見つめられると照れるねえ。さて、どうだろう。少し考えてみてはくれないかな。」


 そう言われて自分の非常識な行動にハッと気付き、目を伏せる。


(江口さんのお嫁さん!?ナイナイ、それはない!江口さんにも申し訳ないよ!!)


「あの、それは江口さんの勘違いではないでしょうか?私は江口さん・・・泉さんとはほとんど話したことはありませんし、こんな小娘に興味を持ってくださっているとも思えません。」


 江口は「ほう」と言ったっきりしばらく黙っていたが、おもむろに口を開いた。


「ではお嬢さん、泉の気持ちを試してみようか。」

「え?どういうことですか?」


 するとニヤリといやらしく笑いながら江口が手を軽く振り上げる。その瞬間、茉乃の周りに大量のつらら状のものが突き刺さった。


「きゃあ!!」


 思わず大声で叫ぶと、江口が立ち上がった。


「しばらくここで過ごしたまえ。もちろん後ほどもっと良い部屋に案内しよう。だが逃げるような真似をすれば、先ほどのつららがどこに刺さるかはわからんがね。」



 そうして茉乃は、あっさりと江口家に囚われてしまうこととなった。


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