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柊の魔法術講習

 マンションに戻るまでの車内は、終始ぎこちない雰囲気に包まれていた。時々感じる沢木の視線を、感じないようにするだけで精一杯の茉乃がいた。



「マノちゃん、着いたよ。」


 車がマンションの前に停まる。


「あの、今日はありがとうございました。それと、ご馳走様でした。」

「うん。」

「・・・おやすみなさい。」


 ドアを開けようとした時、沢木がそっと手に触れる。


「おやすみ。マノちゃん。好きだよ。」

「!?」


 茉乃は急いで車の外に出て、無言で頭を下げる。そしてゆっくり顔を上げると、沢木は笑顔になり、帰っていった。




(どうしようどうしよう)



 茉乃は動揺したままマンションのエントランス付近をウロウロしてしまう。すると後ろから聞き慣れた声が聞こえた。


「何かあったでしょ、沢木と。」

「ひ、柊さん!?」


 振り返るとそこには真顔の柊が腕を組んで立っていた。


「いえあの、えっと」

「そんなに動揺してたら何かあったってのが丸わかりだよ。とりあえずここにいたら邪魔になるから、部屋に行こう。」


 柊が茉乃の手を握ってエレベーターに乗り込む。そのまま手を離してくれることはなく、柊の部屋のソファーまで連れられて座らされた。


「で、何があったの?」

「・・・」

「まさか・・・言えないこと!?」

「言えないことって何ですか!?」

「だからそれを聞いてるんだけど、え、本当に?」

「よくわからないけどきっと柊さんの想像とは違うと思います!!」


 二人に沈黙が訪れる。


「マノちゃん。何があったか話して。」

「ヒロさん・・・沢木さんに、好きって言われて・・・」

「ああ、やっぱり。」

「断ろうと思ったら、もう少し自分のことを見て欲しいからって止められて。どうしようどうしよう。」


 柊が手を離し、茉乃の隣に座る。


「マノちゃんが沢木を好きだとしても、できれば俺は止めたい。君が遊びで誰かと付き合うような子じゃないのはよくわかっているから、たぶん二年後に辛い思いをするのは目に見えてるから。」

「柊さん・・・」


 柊がそっと頭を撫でた。


「マノちゃん、沢木のこと、好きにならないって言ったよね?」

「はい。とても素敵な人ですけど、でもやっぱりあんなにかっこいい人だと、心のどこかで受け入れられなくて。」

「じゃあいいんだ。でももし好きになっていく兆候があったら・・・俺が全力で止めるから。」


 茉乃は顔を上げた。なぜか柊の声がいつもと違っているように感じた。


「だから沢木のことも、他のどの男のことも、好きにならないで。」


 それはどういう意味ですかとは、どうしても今の茉乃には聞けなかった。





 自分の部屋に帰る前、柊の言葉に気まずくなった茉乃は、できれば沢木のこととは関係ない話でお茶を濁そうと、今日の午前中に魔法術を使う練習をしたことを話した。


「へえ。それで全然できなかった、と。」

「はい。そもそも私に魔法が使える、と思ってはいなかったんです。でもやるならきちんと挑戦してから諦めたいので、コツとかあったら柊さんに教えて欲しいなって。」

「うーん、そうだなあ。」


 柊が立ち上がって右手を少し振る。すると茉乃の周りにふわっとした風が取り巻いた。


「すごい!」


 風が吹いている状態で柊が茉乃に近づくと、彼女の手を取り、その風に触れさせる。


「風、感じる?」

「はい!」

「どんな感覚?どんな気持ち?」

「えっと、涼しくて、優しくて、夏の高原で感じるような心地よい風です。」

「じゃあ今度はそれを口にしながら手をゆっくり振ってみて。」


 柊が手を離し、少し距離をとる。茉乃は消えてしまった風を追い求めるかのように手を伸ばし、


「涼しくて優しくて、夏の高原で感じるような心地よい風・・・」



 そう口にして、目を閉じて、その手を振った。



 ふわっと、先ほど感じた風よりも少し冷たい空気がその場に流れていく。


「マノちゃん、目を開けてごらん。」


 茉乃が目を開けると、柊が人差し指で何かを描き、その空間に綺麗な花びらのようなものが何枚か現れた。そして、今部屋の中に流れ始めた風に吹かれてゆっくりと舞い踊っている。


「できたみたいだね。」

「・・・これ、私が?」

「そうだよ。」

「すごい、信じられない!」


 柊がニコニコと微笑みながら再び人差し指をぐるっと動かすと、風も花びらも消えていった。茉乃は興奮で顔を上気させながら、柊の手を無意識に握って喜んだ。


「すごいすごい柊さん!さすが天才ですね!!最高の先生です!まさか自分がこんなことができるなんて・・・ありがとうございます!!」


 柊も嬉しそうに手を握り返し、茉乃が戸惑うほどの魅惑的な微笑みを返した。そしてその後の言葉に、茉乃の笑顔は一瞬で硬直した。


「マノちゃんのためならどんなことでもするよ。いつでも、俺だけを頼って。」



 そしてその日はだいぶ遅くなってしまったので、手を離し、お礼を述べて茉乃はすぐに部屋に戻った。


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