沢木の決意
沢木が連れてきてくれたのはよくある居酒屋、というよりもちょっと大学生が通いそうな食堂という風情のお店だった。
壁にはびっちりと料理の写真が貼ってあって、料理の名称の代わりに番号が振ってあった。名前を知りたい場合はタブレットのようなもので音声を確認しながら選ぶらしい。
沢木に促されて壁際の二人席に座った。
「本当にお酒はいいの?生ビールとかここのメニューとすごく合うよ?」
「前回結構酔っ払っちゃって、あまりお酒強くないみたいなんでやめておきます。」
苦笑しながらそういうと、「そう、残念」と言いながら沢木は二人分のウーロン茶を注文していた。
(ん?何が残念なんだろう?)
ふと不思議に思ったが、沢木におススメのメニューをいくつか提案されたので、その疑問は自然とどこかに行ってしまった。
「じゃあ、ウーロン茶で乾杯ね!お疲れさま!」
「お疲れさまです!」
少しずつ色々なメニューを注文し、二人で分け合いながら料理を楽しんだ。どれも本当に美味しくて、茉乃は終始、美味しい!を連発していた。
「マノちゃんが気に入ってくれてよかったよ。俺も楽しいし嬉しい。」
「ヒロさんはいつも夕飯はどうしているんですか?」
「そうだなあ、まあ自炊はほとんどしないかな。たまに飯を炊いておかずを買ってきてとか、そんな感じ。茉乃ちゃんは料理するんだよね。」
「はい、家庭料理くらいしか作れませんけど。もう歴だけは長いんです。」
沢木が身を乗り出してテーブルで頬杖をつく。
「いいな。今度俺にも何か作ってよ。」
「え?あ、じゃあ、今度皆さんでうちに来ますか?あ、でも調理器具はほとんど柊さんの部屋の方だしな・・・」
テーブルがガタン、と揺れた。
「柊さんの部屋?」
「え?」
沢木の顔が少し怖い。
「あの、はい。柊さんのマンションでお世話になるって決まった時、夕食を作ることでお返しって言うことになったんです。あ、今日はさすがに難しいですけど。」
考え込む沢木に茉乃はどうしていいかわからずお茶を飲んだ。
「そうなのか。そんなに毎日一緒に過ごしているんだね。ねえ、マノちゃん。」
「はい!」
「この後もう少し付き合ってくれない?」
「え、でも・・・」
柊に言われたことを思い出す。
「少しだけだよ。ね?その後すぐ家まで送る。」
「・・・わかりました。」
沢木の笑顔が茉乃には怖いくらい綺麗で、その場は結局目を伏せてしまった。
食事を終えて会計を済ませる。どうしてもと言われて今日は奢ってもらうことになった。
「何だかすみません!送ってもらうだけでも申し訳ないのに、ご飯までご馳走になって・・・」
「いいのいいの!気にしないで。」
そして沢木は車には戻らず、駐車場と反対方向に歩き出す。
「どこに行くんですか?」
「ん?すぐそこ!ほら、あそこにちょっとだけ夜景っぽいものが見える場所があるから、そこで涼んでから帰ろう。」
「はい。」
元々お店のあった場所も少し高台にあったようで、少し歩くと下の方に住宅街が広がっていて、その街明かりを眺められるような、公園とも呼べないようなスペースがあり、木の柵とベンチと自販機だけが置いてあった。
自販機でジュースを買って、景色が見える方を向いてそこに座る。
「あのね、マノちゃん。」
茉乃はその声に含まれている何かを敏感に察して逃げたくなる。
「は、はい?」
沢木が真剣な目で茉乃を見つめた。
「俺、君のことが好きなんだ。」
茉乃の思考は完全に停止した。
「マノちゃん?聞いてる?」
「き」
「き?」
「聞こえません!」
真っ赤になりながら顔を伏せてついでに目も閉じた。沢木がじっと自分を見つめている気配だけが伝わってくる。
「ごめん。突然こんなこと言って。でも、もう薄々気づいてたでしょ?俺の気持ち。」
「気づいてません!」
「嘘」
「・・・」
沢木がそっと茉乃の両肩に触れる。ビクッと体を震わせたが、その手を離してくれることはなかった。
「マノちゃん、もう一回言うよ。俺は君のことが好きなんだ。最初から可愛いなとは思っていたけど、今はそれだけじゃない。君の一生懸命なところとか、一緒にいて話しやすくて楽しいところとか、今はあの時よりも好きなところがいっぱいあるんだ。」
肩に触れる力が強くなる。
「あの、私は」
「まだ答えを出さないで!今混乱したまま答えたら、絶対マノちゃんは断るでしょ?もっとよく俺のことを見て欲しい。だから今は言わないでくれ。」
「でも!」
顔を上げるとそこには沢木の真剣な顔があった。顔が良すぎて反射的に恐怖心が湧き上がる。
「そんなに怖がらないで。先のことはわからないけど、マノちゃんさえ良ければ俺は君とずっと一緒にいたいと思ってる。まだ二年もあるんだから、ゆっくり考えて。ただし!」
最後の大きな声で再びビクッとする。
「積極的にアピールはするから、そのつもりで!」
(困る!困るよ!!どうしよう・・・)
人生初の、本気の告白に戸惑い、茉乃はジュースを握りしめたまま再び俯いてしまった。




