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休日の過ごし方

「うう、頭が痛い。」


 茉乃が目を覚ますと、そこは柊の部屋のソファーの上だった。体にはタオルケットが掛かっていたが、服は昨夜のままだ。


「あれ、いつの間に帰ってきたんだっけ?」


 おいしいイタリア料理を食べて、ワインを飲んで、結城さんにたくさん飲まされて・・・そこから?


「覚えてない・・・」


 思い出そうとしてもそこから先が何も出てこない。これはもしや柊に相当迷惑をかけたのでは、と青ざめる。


 時計を見るともう八時だったので、柊の部屋に行ってみようかと思い立ち上がると、ダイニングのドアが開いて本人が入ってきた。


「あ」

「えっと」


 微妙な空気が流れる。柊は黙って冷蔵庫を開けていた。だが茉乃はここで負けてはいけないと思い、気合いを入れ直して声をかけた。


「お、おはようございます!あの、昨夜のことなんですけど・・・その、あんまり覚えていなくて。私どうやってここに帰ってきたんでしょうか?」


 柊は一瞬驚いたような表情になったが、すぐにいつもの笑顔に戻る。


「そっか、覚えてないのか。・・・昨夜はあの後君は酔い潰れてね。僕が一生懸命君を背負ってここまで帰ってきたんだ・・・すごいでしょ?褒めて褒めて!」


 たぶん背負ったりはしていないだろうしふざけた調子で話してはいるが、迷惑をかけたことに間違いはないだろうと、茉乃は素直に謝った。


「ごめんなさい。飲みすぎて人に迷惑をかけるなんて、本当に恥ずかしいです。特に柊さんにはいつもお世話になっているのに・・・。本当にほんとうに、申し訳ありませんでした!」


 深くお辞儀をしながら謝罪すると、柊が頬に何か冷たいものを当ててきた。


「ひゃ!冷たい!!」

「謝罪はいいから、これ、飲んで?」


 それはスポーツドリンクのような飲み物だった。茉乃は顔を上げてそれを両手で受け取った。


「もうああいう飲み方は駄目だよ。それと俺がいないところで飲むのも基本禁止。あんなの絶対見せられない・・・」

「え?」

「いや、こっちの話。とにかくこれは約束だから!いいね?」

「うう、はい、わかりました。」


 反省しきりの茉乃の頭をそっと撫でて、柊は自分もペットボトルを持って部屋に戻った。




 茉乃が隣の自分の部屋に戻ったのだろう、玄関のドアが閉まるバタン、という音が聞こえた。柊はベッドに寝転び、持っていたペットボトルで頭を冷やす。


(昨夜のあれ、覚えていなかったのか)


 残念なような、ほっとしたような、複雑な気持ちに自分でも戸惑う。


(駄目だ。冷静になるんだ。彼女は俺にそういうことを求めてはいない)


 柊はペットボトルを宙に浮かべ、指先でくるくると回しながら、気付いてしまった自分の気持ちをただ押さえつけることしかできなかった。





 その日は柊から夕食はいらないと言われ、茉乃は自分の部屋で、簡単なものを作って食べた。ちょっと寂しい気もしたが、彼にもまた色々予定があるのだろうと、勝手に納得して食事を終えた。



 翌日は特に何の予定も入っていなかったので、一人で散歩にでも出かけようと、すみれから貰った服の中で歩きやすそうなシャツワンピースを選び、スニーカーを合わせた。


 髪は低めのポニーテールを作り、少し膨らみを出していく。メイクは簡単に済ませ、朝早くから外に飛び出していった。



 近くに公園らしき場所があるのを覚えていたので、そこを目指して歩いていく。低い建物ばかりのこの街の景色にもだいぶ慣れてきて、少しずつ建物以外の景色にも目を向けられるようになった。


 道端に咲いた小さな花や、家々の庭の様子、歩いている人達や向こうとは違う道路標識など・・・ やはり少しずつ何かが違っているような気がして落ち着かなかった。



(そういえば柊さん、おとといからちょっと変だったな)


 ふと歩きながらそんなことを思い出す。ただ、どう変なのか、何に違和感を感じているのか自分でもよくわからない。人付き合いを避けてきたことで、そういう微妙な心情の変化をなかなか読み取れないのかな、と勝手に反省してみる。



 そしてしばらく歩くと、ついに目的の公園に到着した。


 そこは遊具などは無く、木のベンチがいくつかと、砂場とトイレと小さい四阿あずまやが一つあるだけの公園だった。


 ただ、周りは恐らく桜の木が取り囲んでいるので、春になればとても美しい公園なんだろうな、などと考えながらベンチに腰掛ける。


 本でも持ってくれば良かったと思いながら辺りを見渡すと、公園の入り口付近で手を振っている人の姿が見えた。


「あ、やっぱり!藤堂さんだよね?」


 近付いてきたのは沢木だった。茉乃は驚き、ベンチから立ち上がった。


「沢木さん!?」


 ニコニコと近付いてくる沢木に、一瞬だけ恐怖を感じる。柊とはまたタイプの違う、優しい表情のイケメンが近づいてきた。


「どうしたの、こんな所で?鈴村さんは一緒じゃないんだ?」

「はい。今日はこの辺りを探索してみたくて、一人で散歩しています。」

「そっか。いいね、散歩!」

「沢木さんは今日はどうされたんですか?」

「俺?俺はね、買い物。この近くのスーパーでセールやっててね。ちょっと遠いかなとは思ったけど、頑張って来てみたんだ。」


 よく見ると少し汗をかいている。茉乃はふと思いついて、持ってきていたリュックを開け、中から水筒を取り出した。


「これ、家で淹れてきた麦茶です。よかったらどうぞ!」


 カップ付きの水筒だったので、カップに注いで沢木に手渡す。彼は嬉しそうにカップを受け取った。


「ありがとう!遠慮なくいただくよ。」



 そうして日差しが強くなってきたところで、二人は四阿に移動して話を続けた。


 沢木は話題が豊富でゆっくりと優しい口調で話をしてくれるので、茉乃はすっかり打ち解けて、三十分もしないうちに「ヒロさん」「マノちゃん」と呼び合う仲になった。


「へえ、じゃあヒロさんは今二十七歳なんですね。」

「そうなんだ。この年になってから、鈴村さんにリーダーに抜擢してもらったんだ。彼はとても優秀だし、客観的に判断できる人だから、その評価は素直に嬉しい。」

「そう考えると、あの若さで出世したのってすごいことですよね?」


 沢木はうん、と言いながら上を見上げた。


「すごい人なんだ、あの人は。魔法術を学べる学校を飛び級で入学、卒業して、最年少でこの研究所に入った超エリートだよ。厳しい人だと思われがちだけど、俺はあの人を尊敬している。」


 そう言ってゆっくりと茉乃の方を見て微笑んだ。


「そうだったんですね。何だか意外ですけど、でも私も尊敬しているので、そんな話が聞けて良かったです!」


 茉乃はふんわりと沢木に微笑みを向けた。沢木の表情が少し驚いたようなものに変わる。


「マノちゃん。また機会があれば、こうしてゆっくり話ができないかな?」


 真面目な顔でそう話す沢木に、不思議に思いながらも茉乃は「もちろんです!」と笑顔で答えた。


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