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二日目の買い物

 茉乃がこちらの世界に来て二日目。


 今日は午前中から再び買い出しに出ることになった。茉乃は一旦部屋に戻ってスーツケースを開け、荷物を整理していく。そして三十分後、渋い顔をして柊の部屋に戻ってきた。



「なになに、どうしたのその顔?」

柊が驚いたように茉乃の顔を見ている。

「いえ、その、おば、いえ祖母がですね。色々と変な服ばっかり詰めていたもので。」

「変な服・・・」


 柊は、今朝のあの茉乃の後ろ姿を思い出し、真顔になる。


「はい。あの、もしよかったら今日、服も買ってもいいですか?そんなに高いものじゃなくて良いので、安いお店があれば・・・」


 茉乃は申し訳なさそうにお願いしてみる。すると柊は両手で茉乃の手を取り、何度も小刻みに頷いた。


「行こう行こう!茉乃ちゃんにおすすめの店があるよ!ぜひ行こう!」

「は、はあ。ありがとうございます?」


 何だか不安しか感じない、と思いながら、手をそっと離して後ろに下がった。




 その日はまず家電を購入するため量販店に向かった。一人暮らし用の小さな冷蔵庫や洗濯機、電子レンジやポット、ドライヤーなどなど、生活必需品は揃えるとなると結構な金額となる。


「何だかすみません、全部買ってもらっちゃって。」

「いいのいいの!だって無理やりこっちに連れてきたのは僕なんだから。気にしないで。それより昨日みたいに買い忘れはない?」

「はい、大丈夫です。」

「そっか。じゃあ念願の寝具を買いに行こう!」


 そして次のお店で布団セットを購入し、車の後部座席いっぱいに詰め込んだ。


「さて、お昼ご飯を食べてから服の買い出しかな。何か食べたいものある?」

柊は助手席のドアを開けながら、茉乃に食べたいものを聞いてくる。

「柊さんは食べたいもの何かあるんですか?」

逆に質問を返すと不思議そうな顔をされた。

「あ、ごめん。あんまり女性に聞かれたことなくってさ。」


 それを聞いて茉乃はああ、と納得する。


「柊さん、モテそうですもんね。いつもはきっと気を遣って彼女さんの好みのお店にばかり行っているんじゃないですか?」


 恋愛経験が少なそうな茉乃にそう言われてちょっと面食らう。柊に悪戯心が芽生えてきた。助手席に乗り込んだ茉乃の側に顔を寄せ、上目遣いでニヤッと笑う。


「今はそういう人はいないよ。マノちゃんしか見えてないから。」


 茉乃は一気に顔を赤くした。そしてからかわれたとわかり憤慨する。


「柊さん、全体的にセクハラが酷いですよ!そういう人はおじさんぽいって言われて嫌われますよ!」

「おじさん・・・」


 ふん、と怒って前を向く茉乃を、ちょっと可愛らしいと思いながら苦笑する。


「おじさんかあ。まああちこち渡り歩いている間に、無駄に時間ばかり過ぎていたからなあ。でも一応この世界ではまだ二十五歳なんだ!まだ若い!」

「若い人はまだ若いなんて言いません!」

「えー、マノちゃん冷たいよー。」

「柊さんがからかうからです!」


 そんなたわいもないやりとりの後、相談して結局昼はファストフードで済ませることになった。




「それじゃあいよいよ服を買いに行くか!」

「柊さん、もし面倒だったら一人で買いに行きますけど・・・」

「面倒じゃないさ。マノちゃんの服、ちょっと気になってたからぜひ同行させてよ!」

「え、何か変ですかね、私?」


 今日はスーツケースの中から比較的地味なものを何とか引っ張り出して着ている。それでも何だか体の線が強調されているようで居心地が悪い。細身のパンツと少し長めのTシャツなのだが、襟ぐりが少し広いVネックなのが気恥ずかしい。いつもはもっと緩い感じ、ダボっと着られるような服が多かったから尚更だった。


「うーん、変てわけじゃないけど、もっとマノちゃんに似合う服を探そうよ。ほら、何事もチャレンジでしょ?」


 柊の言葉に少し説得力を感じつつも、何か裏があるのかと勘繰ってしまう。


「大丈夫、これでも僕、ファッションデザイナーの息子だから。」

そう言ってニコッと笑うと、車を発進させた。




 十五分後、無事目的地に到着する。そこは少し大きめの建物だった。高さはやはりこの世界では当たり前なのか三階までしかなかったが、道路に面した側は全てガラス張りの、綺麗なビルだった。


 一階、二階部分は店舗になっているが、どうやら同じ系列のお店らしい。年代によって階が違うようだった。


「ここ、ってもしかしてお高いお店なのでは?」

またかという顔で柊を睨むと、両手を上げて違う違うと否定する。

「ここは母のブランドの直営店。上は会社になっていて、たぶん母もいると思うよ。」


 茉乃は目を見開きビルを見上げた。


「やっぱりお高いお店じゃないですか!!こんな素敵なお店で私に合う服なんてありません!!本当にもう柊さん、金銭感覚がおかしい・・・」


 がっくりと肩を落として入口で立ち止まっていると、お店の自動ドアが開いて、いい香りをまとった綺麗で小柄な女性が茉乃に抱きついてきた。


「マノちゃん!うちのお店に来てくれたの?やだ嬉しい!!さあさあ入って。マノちゃんの服はぜひうちで準備してあげたいと思っていたの。早速来てくれて嬉しいわ!」


 そういうと腕を取りどんどん中に入っていく。


「す、すみれさん!?」


 茉乃は驚いて顔を見つめるが、腕は案外がっしりと掴まれていて逃げられなかった。



 そして茉乃が動揺している間に、アレもコレもと商品を選ばれて、次々試着をさせられた。試着室のドアを開ける度に、柊はニコニコと茉乃を見つめ、すみれは店員に次の指示を出す。


 気が付いた時にはもう、たくさんの紙袋が用意されていた。


「こ、こんなにたくさん買えません!!」


 あまりの光景に大口を開けて見つめていたが、これはまずいと思い何とかそれだけを口にすることができた。


「マノちゃん、お願いよ!息子しかいない私のために、娘がいたらしたかったことをさせてちょうだい!マノちゃんは本当にスタイルがいいから、なんでも似合うわ。そうそう、今着ているその服も、そのまま着ていってね!あ、もちろん靴も合いそうなものをいくつか用意したから、サイズと履き心地を確認してね。」


 今着させられているのは少しスリットの入った水色のワンピースだ。異素材が組み合わされていて素材の手触りもいい。決して下品な感じはないが、いつも着ているものに比べて体のラインがはっきりわかる服に、茉乃はどうしても落ち着かなかった。


「あの、私こんな素敵な服、本当に似合っているんでしょうか?」

「うふふ!大丈夫よ。マノちゃんはもう少し自分に自信を持って。元々のスタイルだけじゃなく、姿勢が綺麗だからとても似合うわ。うちの店の宣伝だと思って、遠慮なくもらってね!」

「ありがとうございます!」


 茉乃はこれ以上遠慮するのも失礼かと思い、本当に感謝しながら服を持ち帰った。


「マノちゃん、その服すごく似合ってる。」

「あ、ありがとうございます!何だかお母様にまでお世話になって申し訳ないくらいです。」

「いいのいいの。あの人はやりたいことをやっただけ。僕も嬉しいよ。本当はもう一つ連れて行きたいところがあったんだけど、それはまた今度にしよう。遅くなっちゃったし、明日は研究所に行きたいからね。」


 茉乃は荷物でいっぱいになった車の後部座席を眺めつつ、研究所ではできる限り頑張って働こう!と決意を固めていた。


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