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柊の朝、茉乃の朝

 柊は朝に弱い。


 起きられない。目覚ましは大体月一で買い換える(無意識に魔法術で破壊している)。起きてもしばらくぼーっとしている。そして午前中は死んだ魚のような目を眼鏡で隠して(つまりバレバレ)仕事をしているため、部下達からはかなり恐れられている。


 数少ない同僚や先輩方はよくその事情を知ってくれているため基本放置されているが、あまりに酷い時は帰らされることもあった。



 そしてその朝も、いつもと変わらず、・・・とはならなかった。なぜなら、その日は茉乃が起こしに来てくれたからだ。


「あのー、おはようございます。ごめんなさい起こしちゃって・・・昨夜聞きそびれちゃったんですけどもしかして朝食って食べたりします?」


 ドアを数センチだけ開けて、中を見ることなく声を掛けてくる。時計を見るとまだ無事で、時刻は七時だった。


「うーん、俺朝は食べない。」


 ガーゼのタオルケットから頭だけ出してもそもそ返事をする。すると茉乃は「わかりました!」と小さく返事をして、そっとドアを閉めた。




 柊は何かをふと思い出して、ガバッとベッドから飛び起きた。これまでの人生で最速の起床だったはずだ。


(もしかしてマノちゃん、昨夜のパジャマのままかな?)


 我ながら変態っぽい思考だなとは思ったが、佳乃からの荷物である大きなスーツケースを開けた茉乃が、パジャマの類を見て青くなったり赤くなったりしている様子を昨夜見かけたのだ。


『絶対に、リビングには来ないでください!!』


 茉乃にそう言われて、もちろん女性が寝ている部屋に夜間入るなんて馬鹿なことはしないが、どうしてもそのパジャマが気になっていた。


(あれほど隠すなんて、佳乃さんよっぽど変なパジャマを入れたのかな?)


 好奇心に負けて目を覚ました柊は、そっと、まずはダイニングの方に向かう。柊の寝室から廊下を通ってダイニングにも直接入れる。引き戸になっているそこをそーっと開けて中を見ると、柊は一瞬で固まった。


(うわ、佳乃さんそれはまずいって。あんな・・・ていうかマノちゃんスタイル良かったんだ。体型カバーのためなのかダボっとした服を着ていたから気づかなかった!)


 そこには、カーテンを開けて外を眺める、薄いピンクのキャミソールとショートパンツ姿の茉乃が立っていた。


 髪をゆるくアップにしているので首筋から背中にかけての綺麗なラインが見えた。そして真っ直ぐで長い足が、白く細く、その短い布の下に伸びていた。


(まずい!これ以上は見たらいけない!部屋に戻ろう!)


 慌てて部屋に戻りドアを閉めた。そして今見たものを心の中で反芻する。


(いやだめだ、反芻はしないしない!寝よう!)


 しかし一度覚醒してしまった意識は、もう夢の中には戻りたがらなかった。





 茉乃は昨夜、祖母の佳乃が詰めてくれた荷物を引っ張り出した。翌日自分の部屋に戻ってから開ける予定だったが、現時点で下着も着替えもパジャマも無い。仕方なくリビングの端の方でこっそりスーツケースを開けてみた。


 何着かの服や下着、靴下などの奥に、日用品に隠れてパジャマが入っていたが、これが問題だった。


(何これ?私こんなの持ってないけど!?)


 いくら探しても普段使っているパジャマは入っていなかった。どれも夏向けの、かなり露出度の高いパジャマしかなく、もう諦めてその中でも一番シンプルなキャミソールのセットを選んだ。


 ただ今夜だけは柊の家のリビングをお借りするため、申し訳ないとは思ったが、


『絶対に、リビングには来ないでください!!』


とお願いをして、一人だけで朝を迎えることに成功した。



 翌朝柊は、朝食は食べないと言っていたのでゆっくりとリビングで時間を過ごして、その後お風呂場の脱衣室で着替えをした。メイクは簡単にしかしないのですぐ終わり、朝食の準備をする。と言っても食パンを焼いて昨日のサラダの残りを食べるだけだ。


 

「マノちゃん、おはよう。」

「あ、おはようございます!昨夜はソファー、貸していただいてありがとうございました。」

「ああ、うん。大丈夫。」


 柊の様子が少しおかしい気がしたが、まあいいかと残った食パンの耳を口に放り込んだ。



「マノちゃん、コーヒー飲む?」


 柊が茉乃のすぐ側に立って、上から顔を覗きこんでいた。


「あ、はい、じゃあいただきます!」


 朝の気だるい感じの柊に少し動揺したが、ありがたくコーヒーを頂戴した。気が付けば柊が茉乃の目の前の席に座り、頬杖をついている。


「ねえ、マノちゃんて実は悪女だったりする?」

「はい?生まれてこのかた、そんなものには全く縁はございませんが。」

「そっかあ。天然は厄介だな・・・」


(何の話?柊さん朝はダメな人なのかな?)


 結局柊はその日以降、なんだかんだで七時過ぎには目が覚めてしまう体質に変わってしまったのだが、茉乃はそんなことは露ほども知らないままだった。


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