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魔法術研究所へようこそ

 翌日。茉乃は自分の部屋で支度を済ませ、玄関の姿見の前に立つ。


「これならそんなに派手じゃないし、仕事っぽいかな?」


 特徴の少ない白いシャツと濃いグレーのパンツを履き、低めの黒いパンプスを合わせて立つと、いつもより大人っぽい自分がいた。


(メイクはまだまだだなあ。今度すみれさんに会ったら相談してみようかな)


 これまで全く興味を持っていなかった『おしゃれをする』という行為に自分が少しでも関わっていると思うと、何だかくすぐったい気持ちになる。


 気持ちを切り替えて黒いバッグを持つと、忘れ物が無いか確認をして外に出た。



「おはようマノちゃん。」


 柊は準備万端の様子でもう廊下に立っていた。ただ前日までと違うのは、眼鏡をかけていたのとスーツを着ていたことだ。


(何かちょっと印象が違う。背が高いから余計スーツ姿が似合っているな)


 そんなことを考えながら茉乃も挨拶をした。

「おはようございます。今日はよろしくお願いします。」

「こちらこそ!と言っても今日はほぼ挨拶だけだからそんなに緊張しないで。何人かに会わせることになるけど、僕より立場が上の人はそう多くないから。」


 茉乃は改めて柊が凄い人なのかもと考える。今日の服装、というよりちょっと高級そうなスーツがしっくり馴染んでいる様子を見ても、少なくとも立派な大人なんだなとしみじみ感じていた。




 車に乗って向かった先は、昨日見たあの研究施設のような建物だった。やはり見た目通りの場所だったんだということと、ここは結構高い建物なんだなということに気付かされる。


「柊さん、街中はみんな三階位までしかないのに、この建物は六階まであるんですね。」


 柊は駐車場から歩きながら答える。


「ああ、それはね、政府関連の施設はある程度集中して置かれているのと、五、六階までの高さならOKってことになっているから。でも一般の人が住んでいる場所は高い建物建てちゃいけないんだよね。マノちゃんのいた世界はみんな建物が高くて最初は驚いたよ!」

「へえ。でも何でダメなんだろう?」

「うーん、それはまあ色々あるんだけど、また夕食の時にでもゆっくり話すよ。さあ着いた。」



 昨日出た入口に到着し、中に入る。何人か研究員かなと思われる人に遭遇したが、白衣ではなかった。


「あれってなんていうか・・・」

「あれ?ああ、魔法使いのローブって感じ?」

「そうそう!映画とか本で見るような!」

「あはは、まあそうだね。でも見た目の問題ではなくて、魔法術の研究って結構危険も多いから、あれは身を守るための防護服みたいなものなんだ。白いと汚れちゃうからああいう黒っぽい色になっているんだよね。」


 建物も内部も近代的なのに、なぜか歩く人達はみなファンタジーな感じで違和感しかない。段々と見慣れていくのかな、などと考えながらエレベーターに乗り、最上階に着いた。



「今から行くのが僕の上司、というかこの研究所の所長で一番偉い人。怖い人じゃないから心配しないで!」

「ううう、緊張する。」

「大丈夫。僕がいるから。じゃあ、先に入るよ?」


 コンコンコン、と素早くノックをすると、柊は小さいすりガラスの付いたドアを勢いよく開けた。



「所長、戻りました。」

「・・・鈴村、まだ入っていいとは言ってないぞ。お、そちらが例の異能持ちの方かな?」


 所長と呼ばれた男性は、四十代前半位に見える、穏やかそうな顔立ちの人だった。ローブではなく、スーツ姿だが上着は脱いで近くの壁に掛けてあった。


「は、初めまして。藤堂茉乃と申します。わからないことだらけですが、よろしくお願いします!」


 今日は声を抑えて挨拶ができたと少しほっとして顔を上げると、男性は優しく微笑んで立ち上がった。


「初めまして。この国立魔法術研究所の所長で佐藤宗介さとうそうすけと言います。怖かったでしょう、こんなところまで・・・。あなたのような方を見つけられたことは奇跡でしかない。世界が違うことで不安も多いと思いますが、あなたの安心、安全を第一に私達も研究を進めていくので、これからどうぞよろしくお願いします。」


 丁寧に頭を下げられて茉乃は戸惑う。


「そんな、私は大丈夫です!あの、頭を上げてください!昨日から確かに驚きの連続ですけど、ひ、鈴村さんには良くしていただいていますし、出来ることは何でもしますので!」


 佐藤は頭を上げて再び微笑んだ。


「ありがとう。今日はこの後研究室に行くのかな?今日は挨拶だけで構わないから、顔だけ出しておいてほしい。ちょっと風変わりな研究員もいるが、皆いい仲間なんだ。よろしくね。」


 それだけ話すと今度は柊に向き直った。


「鈴村、後はよろしく頼む。・・・あれ、まだ九時半だよな。何で今日はそんなにシャキッとしてるんだ?」


 不思議そうな顔で佐藤がそう尋ねるのを、茉乃はどういうことなんだろうと思って聞いていた。


「あー、ちょっと事件がありまして。早起きっていいなって思うようになったので。」


 柊の目が泳ぐ。


「お前が早起き!?まさか!天変地異の前触れか?」

「やめてください。むしろ救世主を連れてきたんですから!」

「・・・まあいい。とにかく後はよろしく。」


 柊は茉乃を連れて所長室を離れた。何か聞きたそうにしている茉乃に気付き、後ろを振り返った柊は、少し気まずそうに言った。


「さっきの話は気にしないで。大したことじゃないから。じゃあこのまま階段で一つ下の階に行こう。」


 結局何の話かわからないまま、茉乃は柊と共に階段で下の階に移動していった。


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