5.ある男
「とても美味しかったです。紅茶のケーキ、持って帰ろうかしら」
「頼もうか」
「はい!」
テイクアウトもできる店で、スティーヴンが店主と話している間、お手洗いに行こうかとそばを離れた時、店の外にルーカスが見えた。
「あら?」
店の外に出ると、曲がり角を走っていく姿が見える。少ししか見れなかったが、右足を汚しているように見えた。慌てて追いかけると、泉のそばで横たわるルーカスがいた。あの時と同じだ。泉に魔除け作用があるのかと驚きつつ、ルーカスを抱き上げたらーー砂となって消えた。
「えっ?」
驚いて声を上げ周囲を見ると、周りは真っ暗だった。真昼のはずなのに、夜のように暗い。
「スティーヴン様?」
声が反響する。
「ジャジー?オスカー!ロゼッタ!」
声をあげても反響するだけで、誰も何も反応しない。というか、誰もいない。
なに、どういうことなの?
「ルーカス!」
影に向かって声をかけても、何も反応がない。
唖然としていると、頭に声が響いた。
ーー可哀想なシャーロット。
何度も聞いたことのある声が聞こえる。
ーー可哀想なシャーロット。
やめて。やめて、やめて、やめて!
脳内に響く声に怒鳴ると、ふと隣に男が立った。
「待っていたよ、シャーロット嬢」
ローブを被った男の口元がにやりと笑う。気味の悪い笑いに、一歩下がると、腰に手を回された。ぞわりと肌が逆立つ。振り払うと、男のフードが取れた。
ーー男には、目がなかった。




