18.その前に
「俺には一生、女はいらない」
それは、スティーヴンの口癖だった。テオドールが手配した夜会も碌に出やしない。側近も第一王子という立場のため、口酸っぱく婚約者を、と言ってはいたが、本人の問題だ、強制はできなかった。そんな彼が、一目惚れに等しい惚れ方をして、学園から帰ってきた時には、一同愕然としたものだ。今までの苦労は、という気持ちと同時に、どんな相手だろうと一同興味深々だった。いざ、出会ってみるとなんと勇ましく、されど可愛らしい少女だということ。
「俺は彼女を必ず振り向かせて見せる」
なんて、そんなことを言うものだから、困惑した。オスカーが、「女はいらないんじゃなかったんすか」と揶揄うと、「考えが変わった。それくらいに惚れたんだ」と平然と言うものだから、それからは誰も批判の声は上げなかった。
偵察でシニアンに向かった時も同じことを言っていた。グルーストに婚約者の話をされた時、「俺には女はいらない」と言っていたが、グルーストは、「必ず、運命の人に会うことになる」と予言していたのだ。それが当たって、当の本人は苦笑いだ。
「スティーヴン様、どうされました?」
読書中に物思いに耽っているのを、オスカーに勘付かれた。
「いや、皆に心配をかけたなと思ってだな」
「はぁ」
間抜けな声を出して、隣にいたロゼッタに耳打ちをしている。
「魔王様がなんか言ってますよ」
「ほんと、シャーロット様と出会ってから変わったわね」
「聞こえてるぞ」
二人に怪訝な顔を向けると、二人とも咳払いをして姿勢を正す。
「でも、珍しいですね。スティーヴン様が何やら思い耽っているのは。シャーロット様のことですか?」
「いや」
お前らのことだ、と言おうとしてやめた。また物珍しい顔をされるのも癪だ。読んでいた本を閉じて、執務室の椅子へ座る。まだやらなければならない仕事は山積みだが、早く終わらせてグルーストと酒でも交わそう。明日の朝、シニアンを断つ予定だから、可愛い妃の自慢でもしてから、別れよう。
そう決めて、書類に手をつけた。




