4.アーティファクト
やっと手に入れた。ーーやっと。
これで、俺の夢が叶う。
男は、ほくそ笑んだ。
「お嬢様、リュカ第一王子殿下がおいでなさいました」
「え!?」
フローリー家の執事、ロバートがシャーロットの部屋の扉をノックした。ジャスミンと顔を見合わせ、慌てて用意をする。その間、客間に通して通してもらうこととする。
「なんでリュカが?もう王城は婚約破棄の報告が…?」
「わかりません。スティーヴン様が書類を送ったということはあり得ませんし…」
(あり得ない…のかしら。)
ぎゅっとドレスの裾を握る。
(嫌だわ、わたくしったら。そちらの方が好都合じゃないの。)
ふっと肩の力を抜き、今はリュカについて考える。何かあったのだろう。すぐに行かなければ。
「ロバート、用意できました」
「では、こちらに」
ロバートの案内の元、屋敷の客間へ急いだ。扉を開けると、リュカがソファーに座っていた。
「ロティー姉さん!」
こちらを見るなりすぐ、飛びついてきた。何か慌てた様子で、困っているようだ。
「どうしたの。まずは落ち着いて」
「う、うん」
リュカはソファーに再度座り、深呼吸をした。
「なぜ、わたくしがここにいるとわかったの?」
「ルーカスだよ。僕もお友達になったんだ。ルーカスが、ロティー姉さんが帰っちゃったって泣いてたから…あっ」
余計なことを言った、とバツの悪い顔をしてリュカが口を噤む。
「大丈夫よ」
「ご、ごめんね、あの、父上には言ってないからね」
「わかったわ。それで?どうしたの」
スティーヴンのことだ、この国の第一王子になったリュカに護衛をつけても不思議では無い。そう思い、話を続けるよう促す。
「兄上が…倒れたんだ」
「え?」
「公表はされてない。医者によると、魔力暴走らしい」
「魔力暴走!?そんな危険な…!」
「大丈夫、頑丈な結界の中にいるから。でも、もう兄上の体力も、魔力も尽きかけてて」
泣きそうなリュカが、カバンの中からなにやら取り出す。
「これ、持っていたんだ。兄上が」
「これ…は…」
ハンカチーフの上に置かれた、なにやら悪魔のような形の小さな像だ。
「呪具かしら…?」
「これは…!」
ロバートが声を上げ、はっと我に返り詫びの礼をした。
「ロバートさん、これが何かわかるの?」
「…ええ。それは、アーティファクトかと」
「アーティファクト?」
リュカがこちらを見てた。
「…聞いたことがあるわ。人為的につくられたもの…この場合は呪具、かしら」
ロバートの方を見ると、彼は一つ頷いた。
「かなり昔からある呪具のようですねぇ…。いえ、わたくし、昔からこのようなものが趣味でしてねぇ…」
「詳しく調べられるかしら」
「はい、お任せください。リュカ殿下、お預かりしても?」
「あ、うん」
ロバートに呪具を手渡し、リュカはまだ落ち着かないような様子で、ちらりとシャーロットを見る。
言いたいことはわかった。
「会いに行きましょう。サミュエル…様に」
殿下、ではない。王位を剥奪されたのだ。だかといって呼び捨ても良く無い。妥協した名で呼び、リュカに微笑む。
「スティーヴン様の力を借りたかったのでしょうけれど、まずはわたくしに任せて頂戴」
「シャーロット様!危険です!それにあんな男…!」
「ダメよ、ジャジー。リュカの前で」
ジャスミンは黙って、リュカに頭を下げる。
「いいんだ、兄上のしたことは許されるべきことでは無いから」
そう言って、リュカが頭を下げた。
「シャーロット嬢、頼みがあります。兄上…サミュエルを助けてください」
「リュカ第一王子殿下、承知いたしました」
その場で淑女の礼をした。




