16.婚約破棄
「もう大丈夫よ。一人にしてくれてありがとう」
扉を開けると、ジャスミンが申し訳なさそうな顔で立っていた。
「もう、無茶しちゃダメでしょう!」
抱きしめて、高い頭を撫でると、ジャスミンが鼻を啜った。ほろほろと涙をこぼし、そのまま床に座り込んだ。
「心配かけてごめんなさい。でも、おあいこね」
「ごめんなさい」
「謝れて偉いじゃない!」
大袈裟に褒めて笑うと、ジャスミンはさらに泣いた。悔しい、と言った。弱い自分が、悔しいと。
ーーそんなの、わたくしも、一緒よ。
いつか、そんな会話をした。一緒に強くなろうと。なのに、過去と同様の場所に戻され、二人して身動きが取れなくなってしまった。
「…強く、なれるのかしら」
ぽそりと呟けば、後ろから声がした。
「なりたいと、そう望むのなら」
スティーヴンだった。スティーヴンの腕に、包帯が巻かれている。
嗚呼、そうか。輸血の相手は、スティーヴンだったのか。
納得して、頭を下げる。
「血をくださって、ありがとうございます」
「魔王だからな。俺の血縁も皆んな稀血だ」
こちらの様子を見ていたサーリスに、ジャスミンを預ける。
「疲れているようだから、温かい紅茶をお願い」
「私は…」
「ジャジー、今日はもう休みましょう。怖い目にあったわね、もう大丈夫よ。もう大丈夫。わたくしも、ここにいるわ」
「…はい…」
くたりと体の力を抜いたと思ったら、寝てしまったらしい。サーリスにジャスミンを預けて、スティーヴンに向き合う。
「スティーヴン様、お話があります」
「明日にしないか。疲れただろう」
「いえ、今しなければなりません」
シャーロットはグッと唇を噛んでから、笑った。
「婚約を、解消してくださいませ」
スティーヴンが目を見開いて、固まった。
「わたくしは、お養父様に手紙を書いて、ジャスミンとオルシャキアに帰ります。貴方とは、もう会いません」
「何故、そんなことを言う」
「わかりませんか?」
口を開いて、閉じた。覚悟を決めて、嘘を言う。
「このままでは、ジャスミンもわたくしも、幸せになれないからです。沢山、危ない目に遭いました。もう懲り懲りです。なのでーー」
なので、終わりにしましょう。
そう言った声は、震えなかっただろうか。そうだといいな、と笑った。




