↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワールド・セネカ  作者: FRIDAY
参 騎士(自称)
PR
35/51

実戦経験の差

 空間に満ちるのは風だった。


 向日(むかえび)のクライトも、吉野のセネカも、既に視認できる速度を超えている。ただ疾風と旋風のみが入り交じり、覇を争う。

 その中心に、再び吉野と向日が対峙(たいじ)していた。


「――ふふ、本当にクライトの速度に互角についてくるとは。どうやら左腕が使えなくなっているようだったけれど、そのくらいは何でもないってかい?」

 不敵に向日は笑うが、吉野は身構えを崩さない。


「何でもなくは、ないさ。ただ……頑張ってるだけだ」

 だから、俺も頑張らないとな。


 低くそう言って、吉野は一歩、向日に迫る。成程、と向日は笑った。

「人形は人形で、こちらはこちらで戦おうというわけだ。いいとも。これぞまさしく正々堂々、騎士道精神だ。君もわかっているじゃないか」

「そんなものは知ったことじゃないけどな」

 言いながら、吉野は秋東(ときとう)から借り受けた短剣を抜く。ほう、と向日は感心の声を上げた。

「一応、魔装(まそう)は持っているわけか。さすがに人形遣いの常識は知っているとみえる……自分の身は自分で守れ、だ」

 常識だったのか。ぶっちゃけ知らなかった吉野だが、いずれにせよ秋東には後で重ねて礼を言わねばなるまい。


「そういうそっちは、何も持ってないのか? まさか丸腰ってわけでもないだろう」

 人に常識を語っておきながら、武器らしきものを何も取り出さない向日に油断なく言う。短剣など初めて手にする吉野だから、身構えは完全にイメージだ。確か、アクション映画なんかではこんな感じ。

 でもアレ、今更気が付いたけれど、そういえばこの短剣、発動の仕方は知らないような。


「僕かい? 勿論(もちろん)、持っているとも。とっておきの魔装がね」

「なら何で取り出さないんだ。出し惜しみか?」

「出し惜しみ……そうだね。あっさり披露してしまうのは勿体(もったい)なくはある」ちらっと秋東へ視線を送りつつ、向日は笑う。「言わばこれは、秋東さんに僕の有用性を示す絶好のプレゼンテーションだ。僕としては、最高に格好良く見せつけたいところなわけ。騎士として、当然だろう?」

「……だんだんと、あんたの騎士道精神とやらが胡散臭(うさんくさ)くなってきたが」

 向日も武器を持っているというのなら、条件は対等だ。遠慮する必要はない。

 秋東の短剣、雷撃の発動方法はもう訊く暇などないが、そこは何とかする。だから、


「――行くぞ」

「こちらこそ!」


 どちらともなく相手へ向かって一歩を踏む。そのタイミングは、ほぼ同時だった。

 しかし、二歩目からは既に、経験の差が如実に現れている。

 素人同然の吉野は、未だスピードに乗り切れず、助走に過ぎず。

 歴戦であろう向日は、二歩目で早くも疾走だった。

 彼我(ひが)の距離は、主に向日によって詰められる。けれど、

 ……速度は問題じゃない!

 肝要なのは、交戦の瞬間だ。そこでアクションを間違えさえしなければ、速度の差など大したことはない。だから吉野は、向日へ向かって短剣を引く、が、

 ……素手のままなのか!?

 この瞬間に至っても、向日の両手は空を掴んでいる。しかもそのまま、向日は固く握った拳を引いていく。

 打撃の構えだ。


「……くっ」

 吉野の行動は、やはり実戦経験のなさによる判断ミスだった。

 相手が素手であろうと、ここで刃を引くべきでは決してなかったのだ。

 だが、そもそも殴り合いの喧嘩すらしたこともない吉野は、素手の相手に対して武器で斬りつけるという事態に、咄嗟に剣先を迷わせてしまった。

 その一瞬が、命取りになる。

「――バカッ!」

 遠くから、悲鳴のような秋東の罵声が聞こえた気がした。

 視界に映るのは、正面から、もはや一メートルもない近距離で、引き絞られた向日の拳――いや、違う。


 刃だ。


「なっ……」

 瞠目する。瞬時に状況が判断できない。

 空手(からて)のまま引かれたはずの、打撃を繰り出すはずであった向日の拳は、空ではなく柄(つか)を、握っていた。

 肘を引いたのは、決して殴打のための助走距離ではなく――抜刀。

 空間から刀を抜くための動作に、過ぎなかったとでも言うように。

 刹那(せつな)、向日が笑う。



 咄嗟に身を捻(ひね)るも間に合わない吉野の身を、向日の長刀が貫(つらぬ)いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。