国連決議
【二〇三七年一月二十二日 ヴァルト中央放送 夜のニュース】
「こんばんは。今夜は、国連安全保障理事会の歴史的な決議からお伝えします」
アナウンサーの背後のスクリーンに、ニューヨークの国連本部の映像が映し出された。
「国連安保理は本日、アーガスノルン・コーポレーションに対し、同社の技術が各地の汚染と住民の被害を引き起こした責任を問う非難決議を、全会一致で採択しました。あわせて、同社および関連企業への資産凍結、技術・部品の輸出入の全面禁止を含む、包括的な経済制裁に踏み切ることを決定しました。民間企業そのものを対象とする安保理の経済制裁は、史上初めてです」
画面が切り替わり、議場で演説する事務総長の姿が映った。
「三十年以上にわたり、この企業は世界の科学と産業の中心にいました。しかし今、ハロウフィールドの真実が明らかになりました。我々はもう、一つの企業の吐く息の中で生きることを受け入れない」
議場に、長い拍手が響いた。
「各国の反応です」
ヨーロッパの首脳が、記者団の前で笑みを浮かべていた。
「ようやく、あの会社の尻尾をつかんだ。民主主義が企業に勝つ日が来たのです」
街頭インタビューでは、若い男性が拳を握りしめて答えた。
「当然ですよ。何十年も騙されてきたんだ。全部の信号塔を止めればいい」
アナウンサーが原稿をめくった。
「一方、アーガスノルン社は、決議の採択から一時間後に声明を発表しました。短い声明です。全文をお伝えします」
スクリーンに、白い背景に黒い文字が表示された。
〈当社は、国際連合安全保障理事会の決定を尊重します。
決定に従い、制裁に参加する国々への当社技術の提供を、本日深夜零時をもって停止いたします。
対象には、医療用力場、防衛用力場システム、各地の汚染抑制のための信号が含まれます。
なお、すでに当社の管理下にある各セクターの住民の皆様の安全は、引き続き当社が責任をもってお守りいたします〉
スタジオに、一瞬、奇妙な沈黙が流れた。
アナウンサーは、もう一度だけ原稿に目を落とした。そこには、読み上げる予定のない一行が、走り書きで付け加えられていた。
彼は、少しためらってから、それを読んだ。
「……汚染抑制のための信号。つまり、これまで各地の汚染の広がりを抑えていたのは、アーガスノルン社だったということになります」
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【二〇三七年一月二十三日 国際通信 速報】
制裁参加国で医療用力場が停止 手術中の患者に影響
欧州の三都市で汚染拡大の兆候 政府は「確認中」
【同日 速報】
市場で同社株が急落、その後急騰
投資家「制裁で困るのは、どちらなのか」




