↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
51/52

第51話 港へ

慎一は立ち上がった。


逃げる。あかねを連れて、本土へ帰る。まだ、間に合うかもしれない。


「一緒に行こう。君も」


あかねは首を振った。


「私は、もう、無理。体が、ここから離れられない。でも、あなたは、まだ。早く」


慎一はノートと、わずかな荷物を掴んだ。塩の包み――島へ渡る船を降りるとき、漁師の甚助が「お守りだ」と言って握らせてくれた塩――を掴み、夜の道へ飛び出した。


港まで、走った。


夜の島は、静かだった。家々の灯りは、どれも温かく灯っている。すれ違う島民は慎一を見ても、咎めなかった。「こんばんは」と、穏やかに会釈さえした。誰も、追ってこない。誰も、引き止めない。


それが、かえって恐ろしかった。


船着き場に着いた。渡海丸が、舫われている。慎一は操舵室を覗いた。船長の甚助が、いた。


「甚助さん! 本土へ。今すぐ。頼む」


甚助はゆっくりと振り返った。日に焼けた、皺深い顔。彼は気の毒そうに、首を振った。


「すまんな。今夜は、霧が出る。明日も、明後日も。祭りが終わるまでは、船は出せん」


「霧なんて、出てない!」


慎一は海を指した。だが――いつのまにか沖から、白い霧が、音もなく這い寄ってきていた。みるみる港を包み、本土の灯りを覆い隠していく。


「ほら、な」


甚助は静かに言った。


「無理して出れば、座礁する。何人も、そうやって死んだ。あんたを、死なせたくない」


船首で、古い鈴が、霧の風に揺れて、ちりん、と鳴った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。