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第41話 二代の医師
診察室の奥に、鍵のかかっていない書庫があった。床から天井まで、研究ノートが並んでいる。背表紙の日付は、古いもので一九八〇年代に遡る。
慎一は一冊を抜き取り、ページを開いた。
医師・水野久遠の、記録だった。
津見港で代々続く医院の二代目。彼は対岸の八雲島で、不審なことが続いているのに気づいていた。島から本土の病院へ運ばれてくる者がいない。島民は病気になっても島で完結する。そして時折、島を訪れた本土の人間が、そのまま戻らない。
久遠は、地域の医師として、それを調べ始めた。
ノートには、几帳面な字で、失踪者の記録が並んでいた。釣り客。測量技師。新聞記者。民俗学の研究者。――みな、八雲島へ渡ったきり、消えていた。警察に届けても、「島へ渡った記録はない」と言われる。渡海丸の船長は、首を振るだけだった。
『島民は誰も嘘をついていない。ただ、全員が、同じことを黙っている。』
久遠は、そう書いていた。
『これは、犯罪ではない。もっと古い、もっと静かな何かだ。島ぐるみの、千年の習慣だ。』
ノートの記述は、ある年を境に途切れていた。最後のページに、こうあった。
『明日、島へ渡る。今度こそ、祓水祭を、この目で見る。妻には、すぐ帰ると言った。』
水野久遠はそれきり戻らなかった。




