第20話 あかねとの再会
「羽生さんのお部屋は、二階の角部屋を用意しました」
キヨが鍵を渡してくれた。真鍮製の古い鍵で、持ち手に魚の紋様が彫られている。
「一番景色の良い部屋ですよ。海も山も見えて、朝日が綺麗なんです」
「ありがとうございます」
「夕食は六時半頃にお出しします。それまで、ゆっくりお休みください」
他の宿泊客も、それぞれの部屋に案内されていった。皆、すっかりリラックスした表情をしている。
慎一が二階へ上がろうとすると、あかねが声をかけてきた。
「慎一くん。荷物を置いたら、少し、散歩でもしない?」
「いいよ。でも、君は疲れてないか」
「大丈夫。むしろ、島に帰ってきて、元気になったくらい」
あかねの笑顔は、本当に生き生きとしていた。大学で見た、いつも何かに怯えて伏し目がちだった彼女とは、まるで別人だった。島に着いた瞬間から、彼女は、するすると、生気を取り戻していく。乾いた植物が、水を吸い上げるように。喜ばしいことのはずなのに、慎一の胸の隅に、なぜか、説明のつかない小さな影が差した。
部屋は、予想以上に快適だった。八畳の和室で、窓からは海と山の両方が見える。畳は青く、布団は清潔で、隅にはエアコンまで据えられている。机の上には、湯気の立つお茶と、茶菓子、それに島の観光パンフレットが、きちんと並べられていた。客が来ると、最初から、分かっていたかのように。
慎一は、荷を解こうとして、ふと、手を止めた。
簞笥の上に、小さな置物があった。木彫りの、魚のような、人のような、判然としない形。よく見れば、それは、両手を合わせて祈る人の姿が、下半身だけ魚に変わりかけている、奇妙な像だった。慎一は、しばらくそれを見つめてから、視線を、窓の外の海へ移した。
考えすぎだ、と思った。
荷物を置いて、一階へ降りると、玄関で、あかねが待っていた。普段着に着替えた彼女は、いっそう寛いで見えた。
「お待たせ。近くに、夕日が綺麗な場所があるの。案内するね」
二人は、宿を出て、海岸へと向かった。




