9、はじまりの宿舎の終了試験
翌朝、やはり早く目が覚めて、シャワーを浴びた。
眠りが浅いのは、宿舎が安全だと思えないためだろう。結界があっても簡単に魔物が入り込むし、俺達の世話役は、敷地内での戦闘が難しいみたいだからな。
髪を乾かし、今日の服を出そうと携帯機の画面を開くと、アイコンが増えていた。横一列は、4つまでか。新たなアイコンは、『日記』の下にある。
とりあえず、『タンス』から服を出した。新しいアイコンに気を取られていると、適当に選んだはずなのに、また性別不明な物になった。まぁ、いいか。
新しいアイコンは『評価』だった。服を着ながら、少し嫌な気分になる。俺の出来を、誰かに評価されるのか。
椅子に座り、『評価』を開いてみた。
ん? 下の方にタスクバーがあって、切り替えができるようだ。一番最初の画面は、何も表示されていない。タスクバーの左から順に開こうか。
次の画面は、傭兵ギルド?
──────────────
【名前】シリウス
【役割】傭兵(レベル1)
【登録ランク】ウッドランク
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あぁ、昨日、レベル上げがどうのと言っていたのは、これか。俺達の役割は、傭兵なのか?
その次の画面を開くと、また何も表示されない。タスクバーには、ステイタスと書いてある。ゲームのように、自分の戦闘力が数値化されるのだろうか。
朝食を知らせる念話が聞こえた。俺は、一番最初の画面に戻して『評価』を閉じた。
部屋を出て、スピカを待つことにした。まだ見ていないアイコンを開いてみようか。とはいえ、大神官シャルル様の日記は、隙間時間に読むべきではないだろう。
俺は、『財布』を開いた。
『シリウスさん、おはようございます。初回特典ボーナスとして、100万Gを支給します。なお、街へ行くとログインボーナスも支給しますが、アバター未着用の未開地では、ログインボーナスは発生しません。お金を引き出したい場合は、銀行機能のある宿屋でお願いします』
未開地? あぁ、そんなことを言っていたな。この人工星は、まだ半分も開発が終わっていない。手付かずの場所を未開地と呼んでいるらしい。
ゲーム内の通貨は、Gだったな。携帯機の『財布』は、電子マネーのように使えるらしい。電子決済ではなく魔力決済らしいが、街に行かなければ、使う機会もないだろう。
「あーっ! シリウスだぁ〜」
スピカが部屋から出てきた。寝てないのか、目の下にクマがある。あの本で勉強していたのか?
「おはよう。寝てないのか?」
「うん、今日、試験があるからね。一定の成績が取れなかったら、次の宿舎に進めないって聞いたもん」
「寮長は、簡単な試験だと言っていたじゃないか」
「私には簡単じゃないかもしれないもん。早く行こ。朝ごはんを食べながら、携帯機の扱いを復習するから」
スピカがこんなに真面目だとは知らなかった。あぁ、悪魔族だった習性かもな。プライドが高いから、落第点を取って次の宿舎に進めない、なんてことには耐えられないのかもしれない。
◇◇◇
「おはようございます。朝食の後、10時から試験をしますよ」
食堂には、大きな時計が掛けられている。時計の見方を昨日話していたか。前世の記憶がある俺には常識だが、ロッコ族にとっては未知の道具だ。
朝食時間は、皆、必死な顔をしていた。部屋から本を持ってきている人もいる。俺だけが、場違いな気がしてきた。だが、ある種の優越感を感じる。前世が日本人で良かった。
勉強しながら食べる人が多いことを想定したのか、朝食は、中華粥だった。5歳児の身体の俺には、量が多すぎる。だが、スプーンで食べられるから、スピカも食べやすいようだ。
「それでは、皆さん、携帯機を出してください」
ん? 携帯機? 皆が携帯機を出すと、寮長は自分の携帯機を操作している。
「では、『評価』を開いてください。試験問題が届いていますか?」
朝、起きてすぐに見た『評価』の一番最初の画面には、【はじまりの宿舎の終了試験】というタイトルが表示されている。この宿舎は、はじまりの宿舎というのか。
「皆さん、届いているようですね。では、これから試験を始めます。問題はたくさんありますので、途中で飲み物や軽食を提供しますね。16時になると強制終了になりますから、テキパキと解答してください。それでは、始め!」
チカチカと点滅するボタンに触れると、注意事項が出てきた。タッチミスをすると修正できないらしい。次へに触れると、問題が出てきた。
うわっ、500問もあるのか。6時間で500問ということは、1問に1分使うと間に合わない。だが、基本的にマルバツ問題か3択だから、大丈夫か。
問題は、どれも簡単なものだ。まるで、文字が読めるかを試されているようだな。いや、集中力の試験か。似たような問題も出てくる。やはり集中力の試験、いや修行か?
俺は、飲み物を飲みながら、ポチポチと解答していき、12時頃には試験が終了した。早く出来た人には、昼食が出されている。スピカも、俺の1時間後には終わって、魂が抜けたような顔をしていた。
団体行動の訓練なのか、最後の人が終わるまでは、食堂を出ることが認められなかった。ロッコ族には、これが一番キツイかもな。
「はい、皆さん、試験は終了です。まだ、15時ですよ。早く終わりましたね。結果が出るのは、携帯機のメンテナンス後の、明日朝6時になります」
やっと解放された。だが、まだ誰も席を立たない。
「合格した人は、明日、次の宿舎に移動することになりますので、夕食は、外の森でバーベキューをします。皆さん、杖を装備して、17時に門に集合してください」
外の森でバーベキュー?
送別会のつもりだろうか。
寮長は、すぐに食堂から出て行った。
「送別会かしら? 8日しかいなかったけど」
「違うよ。最終試験だよ。私は、前回の試験が不合格だったから、2度目なの。前回は、命が減った人が何人もいたよ」
命が減った? あ、死んだということか。落第したという少女は、暗い表情をしていた。
「なぜ、送別会で死ぬ人がいるんだ?」
俺は、思わず口を挟んだ。
「シリウスさんは大丈夫だと思うよ。私達の使命は、スープラットの厄災の原因を調査して、その発生を阻止することでしょ? 戦闘能力の低いロッコ族は、使命の邪魔になるのよ」
「調査と戦闘力に、何か関係があるのか?」
「まだ、シャルル様の『日記』を読んでないのね。でも、その方がいいかもね。今、読める部分は、読んでも意味がないもの」
読んでも意味がない?
「私はシャワーするから、部屋に戻るね」
昨日瀕死の傷を負った少し強い少女が、食堂を出ていくと、皆も、暗い表情で、次々と出て行った。




