8、魔物が入り込んだ理由
それから夕方まで、寮長は俺達に、人工星に関する情報を話して聞かせた。スピカは頻繁に首を傾げていたが、俺としては、いくつかの疑問点がスッキリした。
この人工星では、様々なゲームが制作されていて、ゲームに登場する街やキャラなどが、実在するらしい。そのため、ゲームユーザーの観光地となっているそうだ。
スープラ社のゲームは、地球よりも先に、魔法の存在する多くの星に配信販売されているという。そんな星の人達からすると、地球の価値観は珍しく、貴重な体験ができると、人気があるらしい。
俺としては、アクションゲームの制作舞台の方が、興味を引かれる。だが人気があるのは、乙女ゲームの舞台となる街に、アバターを身につけて滞在することらしい。いわゆる、体験型のレジャー施設か。
俺が前世でやっていたアクションゲームには、日常シーンは少なかったが、学生の頃に付き合っていた彼女とプレイしていた乙女ゲームは、キャラの名前は外国人なのに、日本っぽい物が登場する学園ものだった。
彼女から、乙女ゲームをプレイすれば女の子の気持ちがわかる、と言われて始めたが、乙女ゲームには様々な違和感があって、結局、彼女と別れるまでに、エンディングにはたどり着けなかった。
人工星には、ゲーム舞台となった多くの街があり、そのほとんどでは、地球でユーザーが多い国の料理の店があるという。だから宿舎の食事は、ファミレスのような料理ばかりなんだな。昼食はカレーライスだったし。
「1日は24時間です。ひと月は30日、1年は12ヶ月、すなわち360日になっています。1年の日数はアース星とは異なりますが、各月ごとの日数が異なると、観光客にはわかりにくいためです」
寮長が、さらに時間と分と秒の説明をしたところで、夕食時間を案内する念話が聞こえた。
「もうすぐ夕食ですね。それでは、今日のお勉強はここまでにしましょう。明日、試験があります。各部屋に置いてある本で、復習しておいてください」
そんな本、あったか? あぁ、部屋の清掃があると言っていたから、これから置くのかもな。
本来なら3日ほどに分けて学ぶ話を、1日で一気に済まされたようだ。俺としては、ダラダラと話されるより、短い方がいい。だが、スピカは……。
「私は先に行っていますね。スピカさんとシリウスさんは、一旦お部屋に戻りますか?」
「戻りましゅ……」
ふっ、スピカはキャパオーバーらしい。
「俺も戻ります。服を着替えたいので」
「わかりました。では夕食時間まで、ゆっくりしてね」
◇◇◇
『夕食ができました。皆さん、食堂に来てください』
寮長からの念話が聞こえた。俺は部屋を出て、スピカが出て来るのを待つ。
さっき小屋から戻ったとき、ミニテーブルの上に、数冊の本が置かれていた。パラパラと眺めてみて、寮長からの話は、この人工星に関する情報をわかりやすく要約したものだと気づいた。
俺は一応、さっと目を通しておいた。街に関するルールは意味不明だったが、寮長は何も話さなかったから、次の宿舎で学ぶことなのだろう。
寮長が話していた、街の中ではアバターを身につけて行動する、という部分については、詳細を読んでおいた。観光客は、自由にアバターを組み、着用するようだ。まぁ、アバターを組むのは、ゲームでもよくあることだが、それを身につけられるのは面白そうだ。
アバターを身につけて街を歩く行為は、他人になった気分、いや生まれ変わったような気分になるのだろう。神による転生のない星や、長寿な種族には、楽しい体験なのだろうな。
この人工星が、観光地として成功している理由が、アバターにあると説明されている。人工星には共通の言語があるようだ。アバターには言語変換機能もあるから、様々な種族との意思疎通ができるらしい。
へぇ、これも、イービー神の技術なのか。具体的に開発をしているのは、ロッコ族らしい。この開発室というのも面白そうだな。
俺達はアバターを身につけてないが、人工星の共通言語が理解できるのかもしれない。ロッコ族が開発しているからか? あっ、大神官シャルル様が与えると言っていた能力は、この共通言語の変換能力かもな。
「あっ、シリウスがいた〜」
スピカは、俺の顔を見て、ホッとしたような笑みを浮かべた。スピカも服を着替えたようだ。彼女らしくない、紺色のシンプルなワンピースだ。
「スピカが騒ぐと困るからな。行くぞ」
「騒がないよー。頭の中が、こんがらがってるもん。喋ると覚えたことが、口から出ていきそう」
「は? スピカの記憶はツバなのか? あー、ヨダレか」
「私、ツバを飛ばしたり、ヨダレ垂らしたりしないもんっ!」
「今、ツバが飛んだぞ」
「ひぇ〜っ! 覚えたことが飛んでったぁ〜」
コイツ……。
食堂に移動すると、俺達が一番遅かったようだ。皆は、もう着席している。だが……。
「シリウスさん、ごめんなさい!」
3人の少女が立ち上がると、なぜか俺に謝った。この3人とは、話したこともない。
俺は、意味がわからなくて、首を傾げる。
転生して子供に戻ったメリットだな。これだけで、単純にわからないとアピールできる。以前の俺なら、首を傾げると、妙に深読みされて、バカにしていると勘違いされることもあったからな。
「シリウスさん、この子達が、あの魔物を招き入れたのよ。休みだからって、森の中に行くからよ」
瀕死の重傷を負っていた少女が、そう教えてくれた。怪我はもう大丈夫のようだな。名前は、レイシーと呼ばれていたか。
「魔物を招き入れたのか?」
「違うよ! あ、違わないかも。ご、ごめんなさい! 私達は、魔法が効かない魔物に遭遇しちゃったから、宿舎に逃げ帰ったの。宿舎には結界とかバリアがあるから、魔物は入れないって思って……」
魔物に追われて逃げ込んだのか。
「追われるようなことを、アナタ達がしたからでしょ! 魔物でも、子供を殺されたら怒るに決まってるじゃない! レベル上げなら、強い魔物を狙いなさいよ」
レベル上げ?
「はーい、皆さん、ケンカしないでね。夕食が冷めてしまうわ。今夜は、焼き魚よ。難しいけど、お箸を使ってみましょう。これも大事なお勉強よ」
寮長がそう声をかけると、立ち上がっていた人達は席に座った。俺達も、空いている席に座る。
これは、サバの塩焼きだろうか。まさか、箸を使うなんてな。しかも割り箸だ。懐かしい。
寮長が、箸の使い方を説明している。そうか、だから焼き魚にしたのかもな。皆は、箸を割ることにも苦戦していて、ケンカのことを忘れているようだ。
「では、いただきます」
「いただきます!」
みんなの、箸との戦いが始まった。




