7、未来から来たロッコ族の共通点
中庭の小屋に戻ると、スピカがニヤニヤしていた。
「さすが魔王だねっ! ミラール山系は、魔法を弾く強い魔物が多いから、シリウスなら剣も使えると思った〜」
「スピカ、俺の素性は黙っておくんじゃないのか?」
「誰もいないから、大丈夫だよー。盗聴の気配もないもーん! 私、お腹空いちゃった〜。でも、どれが食べ物かわかんないのー」
スピカは、窓の外が見えない席に座った。中庭では、あの少女が座り込む木に、大人が集まっている。瀕死の怪我をした彼女の治療だろう。
俺も、窓に背を向けて、スピカの横の席に座った。
「食べやすいバーガーだから、わかるだろ?」
「どれが飾りでどれが食べ物か、わかんない」
紙ナプキンで包んで、手が汚れないようにできるが、スピカは、紙まで食べてしまうか。
俺は立ち上がると、部屋の中にある手洗い場で手を洗った。スピカも真似をしている。
再び席に座ると、バーガーを両手でつかんで、かじりついた。子供の口に合わせてあるのか、食べやすい厚さだ。シャキシャキなレタスも入っている。やはり、懐かしいな。
「手づかみで食べるんだー」
「紙ナプキンを使えば、手が汚れないけど、スピカが紙まで食べそうだからな」
怒るかと思ったが、スピカは真顔で頷いている。本当に、どれが食べ物かわからないらしい。
ロッコ族の食事は、基本的に、その土地の植物や動物を、ジェル状に調理して食べる。ドロドロの料理を食べる国もあるが、大聖堂のある聖都では、固さや色を変えて楽しんでいる。
あぁ、そうか。ロッコ族の感覚で、バーガーを見ると、確かに料理には見えないな。とても地味で、不味そうに見える。聖都の料理はオシャレだが、日本人の感覚だと、逆にあれは食べ物ではないだろう。すべてが蛍光色だからな。
朝食を食べ終わり、ベタベタな手を洗っていると、寮長が小屋に入ってきた。あと2人分の朝食が残されたままだ。
寮長は、見知らぬ大人を連れて来た。彼は、ロッコ族ではない。イービー神でもないだろう。俺より弱いからな。
「シリウスさん、魔物を制圧してくれて、ありがとう。怪我はない?」
「大丈夫です」
寮長は、タオルを取り出すと、俺の口の周りを拭いてくれた。ソースがついていたらしい。恥ずかしい。でもスピカなんて、顔を洗っているからな。
「昨日、来た子か。魔導士なのに剣が使えるのか? 倒してくれた魔物は、どちらも魔法耐性が高いんだよ。だから、ロッコ族は苦戦する相手だ。しかも敷地内では、攻撃魔法は使えない」
「シリウスさんは、火を使っていたわよ。なぜ、発動できたのかしら」
寮長は、それが知りたいのか。敷地内で俺達がケンカをすると止められないと言ってたもんな。
「俺は、攻撃魔法は使っていません」
「いや、見ていた子供達からも、キミが魔法を使ったから、敷地内のバリアが弱まっているんじゃないかと、指摘があったぞ」
コイツは誰だ? この雰囲気からして、武術の先生か。休みだったのに急に呼び出されたから、髪がぐちゃぐちゃなのだろう。
「俺が使ったのは、火属性のバリアです。木の枝を強化したのも、火属性のバリアです」
「バリア? 火の玉がキミの身体の周りを回っていたと聞いたが、そんなバリアがあるのか」
魔王覇気を使ったことは、話さない方がいいよな。どう説明すべきか……話を逸らすか。
「バーラさん、このオジサンは誰なの? シリウスが頑張ったから、意地悪してるのー?」
はい? スピカは何を言ってる?
「あら、紹介をしてなかったわね。彼は、武術の先生なの。本名は隠されているし、通称はまだ内緒だから、お名前は秘密ってことにしておくわ」
訳ありか? あぁ、難民かもしれないな。
「ふぅん、わかった〜。武術の先生、シリウスは嘘はついてないよ? スピカちゃんは、人の嘘はわかるもん」
「そ、そうか。しかし魔導士が、あの魔物を倒してしまうなんてな」
スピカが、俺の方をパッと見た。何か言えってことか? だが、術の仕組みを明かすつもりはない。しかし、納得しないと出て行かないか。
「俺がいた国には、変な魔法を使う魔族がいたから、俺もそれが使えるだけです。そうしないと、死にますからね」
「そういえば、寒い山に住んでいたと話してくれたわね。寒冷地にいる魔族は、火属性の魔法を使えないと生きられないわ。あの星では、気候の良い場所には強い種族がいるから、弱い魔族は僻地に追いやられてしまうのよ」
僻地で悪かったな。俺は、ミラール山系にある小国ミラルの魔王だ。いや、魔王だった。俺の後継者となる側近をしっかり育てたから、ミラルは、俺が居なくても当分は安泰だろう。
小国ミラルは、様々な魔族が混在する国だ。俺の命の恩人である魔族の老婆に頼まれて、他国からの侵略を制圧したら、魔族を束ねる王になってしまった。
このような経緯で、ロッコ族が魔王になっている国は、俺が知るだけでも3つある。
友達だと思っていた奴らからは、魔族に利用されているだけだと、失笑されたんだったか。ロッコ族が魔族の王になることを、魔王堕ちと言う国もある。
まぁ、魔王には、いろいろなタイプがいるからだろう。ロッコ族を滅ぼそうとしている魔王もいるからな。
「では、お勉強を始めましょうか」
ん? 寮長が、パンと手を叩いたことで、ハッとした。武術の先生は、出て行ったようだ。
「バーラさん、シリウスが眠そうにしてるけど?」
「あら、朝ごはんを食べると眠くなっちゃうわね。少しお昼寝する方がいいかしら?」
は? 俺は考え事をしていただけだ。スピカが、それを適当にごまかしてくれたのか。
「シリウスは、勉強することが少ないのよね? どうして? アース星のことを知ってるから?」
「ええ、この宿舎では、人工星に慣れてもらうことが目標なの。ここでは、アース星で使う習慣の多くが取り入れられているわ」
「ゲームの舞台が〜とか言ってたよね?」
「詳細は、次の宿舎で学んでもらうのだけど、この人工星で生まれたゲームと共通点が多いの。もうすぐ20周年になるわ。アクションゲームと乙女ゲームが制作されている。最近は、乙女ゲームがメインね」
ん? 人工星スープラって、スープラ社のことか?
「あー! わかった。だから、前世の記憶が戻ったときに、ゲームの記憶が鮮明だったんだ〜」
「ええ、その縁を利用して、シャルルさんは、皆さんをこの人工星に派遣したのよ。じゃないと時を大きく遡ることはできないわ。前世で遊んだゲームの制作地だからこそ、その危機を救うために、過去へと時空を越えることが許されたのよ」
様々な時代から、この人工星に集められたロッコ族は、皆、スープラ社のゲームのプレイヤーだったのか。




