6、宿舎の門を突き破った魔物
「スピカが、魔物の大群が降るって言ったら、本当に降ってきたな」
軽い冗談を言ってみたが、スピカの表情は真っ青だった。多くの魔物が、この小屋に向かってくるためか。
「スピカさんとシリウスさんは、朝食を食べていてください」
ん? 寮長の額には汗がにじんでいる。彼女は、戦闘が苦手か?
「中庭に魔物が飛び込んで来ることは、よくあるんですか?」
「武術の先生がお休みの日には、なかったと思うわ」
なるほど。俺は、中庭にいる魔物を刺激しないように、ゆるいサーチをした。ほとんどはザコだが、2体が簡易サーチを弾く。
ちょうどいい。転生前後の身体の違いが確認できる。
「俺が追い払ってきますよ」
「シリウスさんが?」
ホッとしたようだな。やはり、戦闘は苦手か。
「はい、この身体を試してみたいので、ちょうどいいです」
「それは危険だわ。まだシリウスさんは、人工星のことを何もお勉強してないもの」
「大丈夫ですよ。大神官様から、新たに6つの命を与えると言われましたし」
俺の言葉に危うさを感じたのか、寮長は首を横に振っている。彼女には、未来から来た俺達を、無事に次の宿舎に引き渡す責任があるためか。
「バーラさん、まお……じゃなくて、シリウスなら大丈夫だよー。あんな寒い山にいたから、強いはずだもん」
スピカは、俺の素性を寮長にも話さないように、気をつけているんだな。まぁ、オルフル様からの忠告は、絶対に守るべきだ。
「寒い山? ですが……」
中庭には子供達が出てきた。何か言い争っている。杖を構えて、魔物と対峙している人達もいる。
昨夜、あの食堂にいた人達の戦闘力は、だいたいわかっている。少し強い少女もいたが、他の皆はスピカよりも弱い。
「杖を構えている子がいるよ。ここで、魔法の発動ができるの?」
ん? スピカが妙なことを言った。
「宿舎を覆う結界内は、人を傷つけるような強い魔法は発動できないわ。未来から来た人達がケンカをすると、私達には止められないためなの」
魔法が使えない? 結界を消すこともできないのか? 簡易サーチは人を傷つけないから使えたのか。じゃあ、あの少女には無理だな。
「攻撃魔法が使えないから、寮長が困っていたんですね。やはり、俺が行ってきます」
「シリウスさん、危険よ! 皆さんは魔導士でしょ? 状態異常の効きにくい魔物も含まれているわ」
魔物と対峙している人達から、様々な種類の魔法が放たれている。ほとんど効いてないし、発動しなくて慌てている人もいる。
「わかりました。では、行ってきます」
俺がそう答えた瞬間、あの少女が魔物に突き飛ばされた。中庭の木に激突し、そのまま座り込むように倒れた。
あれは死んだかもな。
子供の身体は軽いから、簡単に突き飛ばされるのか。
「ひぇ! シリウス、やめておく方が……」
「スピカは、黙って見てろ」
俺は、中庭の小屋の壁をすり抜けて、外に出た。
「キミ! ダメだ! 建物に入れ! 今、武術の先生を呼んでいるから! この敷地内では、攻撃魔法が使えないんだ!」
料理人っぽい人が、2階から叫んだ。魔物の侵入を阻止するために宿舎にバリアを張っているようだ。
しかし、魔物は、さらに増えている。
中庭に出ていた人達は、ひとりが突き飛ばされたのを見て、ほとんどが宿舎に入ったようだ。
だが、スピカより弱い男が、まだ中庭にいる。ガタガタと震えているが、杖を構えて、何かの魔法を使っているようだ。
俺は、バリアに体当たりしている魔物達の方へと、歩いていく。
途中で、風魔法を使って、木の枝を2本切った。歩きながら、木の枝から短剣を作っていく。
「坊や! そんな木の枝では何もできない。早く小屋に戻るんだ!」
うるさいな。俺には新たな命が6つもあるんだ。
魔物達は警戒している。まだ俺に襲いかかってこない。知能が高いということだな。
それなら……。
『魔王覇気! 烈火!』
俺の身体から溢れた魔力が、複数の炎玉となって俺の周りをクルクルと回り始める。両手に持つ短剣も、炎を纏ってスーッと伸びた。
魔物達は炎玉に驚いたようだ。バリアを壊そうとしていたザコ達は、体当たりをやめた。
俺が近づいていくと、ジリジリと後退していく。
だが、簡易サーチを弾いた2体は、逆にやる気を出したらしい。見たことのない獣だが、近づくと、かなり大きいと感じた。いや、俺が小さいのか。
ウォォン!
ガルルルッ!
ふん、状態異常を起こす咆哮のつもりか? そんなものは、魔王覇気を纏う俺に効くわけねぇだろ。
さらに、距離を詰めていく。
逃げるなら放っておくつもりだったが、やる気を出しているから仕方ない。まぁ、群れを率いているボスは、逃げないか。
来た!
鋭い爪で、俺を引き裂こうとしたらしい。だが、炎玉に当たって、パッと飛び退いた。
ふふん、サーチ妨害が剥がれたな。炎玉に突っ込むことは、俺の魔力に触れるということだ。
あの悪魔系の魔物よりも、物理攻撃力は高そうだ。だが、当たらなければ関係ない。物理防御力は、見た目に反して、低い。
俺の間合いに入った。即座に短剣を構える。魔力で長さを補ってあるから大丈夫だろう。
俺の頭を狙って、もう一方が、上から降ってきた。
キャィン
炎玉の回転の向きを変えたら、簡単に当たった。魔物のくせに、戦い慣れてないのか?
落ちてくる魔物をサッとかわし、その勢いのまま、間合いに入った魔物に斬りつけた。
ザシュッ!
そして、落ちてきた魔物の方へと、瞬時に切り返し……。
シュッ!
なんだ、この程度で倒せるのか。
俺は、ザコの大群に視線を移した。これをすべて狩るのは、さすがに疲れる。追い返すか。
『俺達の棲家を壊しに来たのか?』
言語を理解できるかはわからないが、念話には、術を乗せた。俺の怒りの感情は理解するだろう。
ザコの大群は、完全に固まっている。フリーズを起こしたか。
『去れ!』
そう告げると、ビクッと身体を震わせ、一目散に逃げていった。わりと知能は高いようだ。
俺は、魔王覇気を解除した。
「シリウスさんよね。ごめんね、ありがとう」
木に激突した少女は生きていたようだ。死んで転生するなら、転生場所は安全な場所だ。
ガタガタ震える彼が、彼女が死なないように、回復魔法をかけていたのか。一瞬だけ、魔力の流れが見えた。
「俺は、こういうことには慣れているから、気にしなくていい。キミの怪我は酷いようだが……」
俺も回復魔法を使おうかと考えたが、やめた。回復し続けている彼に、逆恨みされると面倒だ。
「誰かが回復してくれてて死ななかったみたい。だけど、まだ動けないというか、痛くて死にそう」
「そうか……」
かなりの重傷だ。しかし……。
「レイシー、大丈夫か」
回復魔法をかけていた彼が、駆け寄ってきた。小屋から寮長も出てくる。あとは、任せよう。




