5、スープラットの厄災のこと
翌朝、少し早く目覚めた俺は、シャワーを浴びた。
神による転生の後、前世の記憶を思い出したことで、いろいろなことに戸惑いを感じる。シャワーの扱いなどが説明を読まなくてもわかるのは、便利だが。
そもそも、この人工星に関する知識は、俺にはほとんどない。今、俺達がいるイービー歴999年に、俺は生まれた。そう考えると変な気分だな。俺が様々な情報に興味を持つようになった頃には、この人工星は爆発した後だ。
人工星に溜められていた膨大なエネルギーが宇宙に放出され、様々な魔力災害を大規模な範囲に引き起こした。それが、スープラットの厄災だ。俺がいた1058年には、いくつもの恒星が暴走し、十を超える星系が滅び、その被害は今も広がり続けている。
イービー神が協力すれば解決できる気もするが、一度失敗した事案への再干渉はできない規律がある、と聞いたことがある。
おそらく、未来から俺達を呼び寄せる前に、イービー神がスープラットの厄災阻止のために行動したのだろう。そして、失敗した。だからもう、彼らは直接介入できないのか。
そんなくだらない規律は、滅すれば良いのにな。
しかし、何が原因で、この人工星は爆発するんだ? スープラットの厄災の始まりは、人工星の爆発だ。だが、簡単に星が爆発するか? まぁ、ラグ塔のガラス張りの部屋には、強度に疑問を感じたが、塔が壊れても星が爆発するわけがない。
今日この後、人工星爆発に関する情報を得られるのだろうか。未来から俺達が来たことで歴史が変わるなら、爆発が6年後とは限らない。
あぁ、そうか。オルフル様や多くのイービー神が居るのは、爆発時の住人避難のためか。
俺は、濡れた身体を風魔法で乾かした。うむ、問題なく、魔法も使えるな。
神による転生では、記憶や能力の引き継ぎは完璧に行われる。今の5歳児の俺には、魔王だった頃の戦闘力が引き継がれているはずだ。
そういえば、大神官シャルル様が、新たに6つの命と能力を与える、と話していた。それほど、この人工星は危険だということだな。
どんな能力が与えられたかを、知る方法はあるのだろうか? まぁ、戦闘時になれば、感覚的にわかるか。
それより、服だな。
携帯機は、操作しようとイメージすれば、俺の手の上に現れる。その点も、アイテムボックスのようなものだ。
画面を開くと、アイコンが増えていた。左から右へと、追加された順に並んでいる。『日記』『地図』『財布』『タンス』か。
俺は、『タンス』に触れた。
『シリウスさん、おはようございます。標準的な子供用の服が入っています。他に入手した服があれば、こちらに収納してください。洗濯機能もありますので、汚れ物もそのまま収納すれば、6時間後にはクリーニングが完了します』
説明文が、メールのように出てきた。収納方法が図解されている。携帯機を服に向けて、ピッとするだけらしい。自動クリーニングか、便利だな。
成長することを考えているのか、様々なサイズの子供服があるようだ。下着もちゃんと入っている。まるでカタログ販売だ。あー、この感覚も前世のものか。遠い記憶だが、必要なときには引き出せるんだな。
適当に選んだ服は、性別不明な物になった。
幼い頃のトラウマは消えてないらしい。この人工星に、幼い少年を狙う、あの悪魔系の魔物がいたとしても、今の俺なら、逆に瞬殺できるはずだがな。
『おはようございます。スピカさんとシリウスさんは、円卓の部屋に来てください。朝食を食べながら、お勉強を始めますよ』
寮長からの念話が聞こえた。円卓の部屋ということは、中庭にある小屋のことだな。俺はもう、館内の地図は頭に入っている。5歳児に転生したことで、記憶力がグンと上がった気がする。
部屋を出ると、スピカは居なかった。彼女の気配を探ると、まだ自室にいるようだ。ウロウロと移動しているから、今の念話で、慌てて飛び起きたのかもしれない。
待っててやるか。
扉を閉めると、カチャッと音がした。一応、施錠されるらしい。まぁ、別に何も置いてないけどな。
「わぁっ! シリウスも今、起きたのー? びっくりしたよね。念話って、すごく大きく聞こえるもの」
いつものスピカだな。服も、大聖堂で会ったときのような派手な物を着ている。
「おはよう。どうせ、場所がわからないと言うと思って、待っていた」
「嘘〜っ! まお……じゃなくて、シリウスがそんな優しいことを言うなんて、空から魔物の大群が降ってくるんじゃない?」
「は? そんなものが降ってくるわけないだろ」
俺が、さっさと歩き始めると、スピカは慌てて、後ろをついて来た。おそらく彼女は、俺が待っていたことで、ホッとしたのだろう。サキュバスだった頃の彼女は、弱くはないが、戦闘力が高いとは言えなかったからな。
あっ、そうか。昨夜、無言だったのは、寮長が話した罪人のことを怖がっていたのか。
俺は、イービー神が大勢いるなら大丈夫だと思っていたが、イービー神には、いろいろな規律がある。もしかしたら、罪人が暴れた時には、俺達が制圧しないといけないのかもしれない。
ふっ、俺としては、相手がロッコ族なら恐怖は感じない。逆に、楽しそうだけどな。
「あれ? 中庭に出たよ?」
「あの小屋が、円卓の部屋だ。館内地図を見てないのか?」
「シリウスだって、何も見てないじゃないのー。あっ、バーラさんが居る〜」
スピカは、小屋に入ろうとする寮長の姿を見つけると、元気よく走っていった。完全にガキになっている。
「おはようございます。朝食を食べながら、人工星について、お勉強しましょう」
部屋の中には、大きな丸いテーブルがあった。20席以上はあるようだ。その一部に、4人分の朝食がセットされている。もう一人来るのか。
「また、見たことない料理だぁ」
「この宿舎では、主にアース星の料理を食べてもらっているわ」
「シリウスの前世の星の料理? どうして?」
「この人工星の役割は、知っているかしら? 様々なゲームが生み出される舞台であり、難民の受け入れをしている避難所でもあるのよ」
避難所はわかるが、ゲームが生み出される舞台?
「スピカちゃんは、初耳だよー。そういえば、ラグ塔には、見たことのない種族がたくさんいたよ。あの人達が難民なのねー」
「最上階かしら? それなら、旅行客だと思うわ。難民は宇宙船で来ることが多いの」
「ふぅん、ゲームが生み出されるってどういうこと?」
「そのままの意味だけど、詳しくは次の宿舎で学んでもらうわ。この宿舎は、人工星に慣れることに……」
寮長が言葉を止めた直後、グラッと揺れた。
そして、大きな窓からは、門を突き破って飛び込んで来る魔物の群れが見えた。




