4、人工星にいるロッコ族
夕食の呼び出しの念話が聞こえて、部屋から出ると、スピカが俺を待っていた。携帯機の操作方法に慣れず、食堂の場所がわからないと言う。
俺は、携帯機の『地図』を開き、宿舎内の館内図に切り替えた。現在地もわかる。スマホのマップアプリの詳細版だな。
スピカは、無言で、俺の後ろをついてきた。さっきまでとは、雰囲気が違う。休憩の間に、大神官シャルル様の『日記』を読んだのだろうか。俺は『地図』で付近の様子を探っていたから、まだ読んでいない。
「皆さん、未来から来たお友達が増えて、9人になりましたよ。合流してもらう準備のため、明日は、皆さんはお休みです」
ワッと歓声が上がった。休みが嬉しいらしい。
「明日の試験は延期だね」
あぁ、試験の延期が嬉しいのか。見た目は、皆、10歳前後に見えるが、中身は俺達と同じく、大人のはずだ。しかし、その表情や行動は、まるで年相応の子供だな。男は少ない。俺を含めても、2人か3人だ。
「さぁ、夕食にしましょう。いただきます」
寮長が声をかけると、皆は手を合わせた。ロッコ族には、こんな作法はない。だが、俺は知っている。
「いただきます!」
声を揃えて、そう言うと、皆は一斉に食べ始める。まるで、小学生の給食だ。これも前世の記憶か。しかし地球の……いや、日本の文化だよな? しかも言語は、ロッコ族が使うモノではないし、日本語でもない。だが、なぜか理解できる。
「スピカさんとシリウスさんも、どうぞ。徐々に慣れていけばいいからね」
寮長は、優しい人だな。
俺はコクリと頷き、フォークを手に取った。
ん? スピカの視線が気になるが、俺はそれどころではない。夕食はハンバーグ定食か。まるで、日本のファミレスのようだ。
「未知の料理だから、戸惑っているのね。今夜はハンバーグよ。この宿舎では、人工星に慣れてもらうことを目標にしているの。明日から、お勉強しましょうね」
寮長は、子供に話しかけるように喋っている。
あぁ、そうか。俺は、最終転生までに60年近くの時間を生きたが、他の人は、そうとは限らない。スピカのように、ロッコ族になる前の記憶の引き継ぎをした者もいるだろうし、逆に、子供のまま最終転生を迎えた者もいるかもしれない。だから、見た目通りに扱うのか。
あ、いや、この人工星に慣れるためだと言っていたな。俺達の素性を知らない人達に子供扱いされるから、それに慣れさせるためだろうか。
「こんな岩みたいな物が食べ物なの? あっ、シリウスは食べてるー」
「まぁっ、シリウスさんは上手ね。前世はアース星だったのかしら。ここには、アース星の記憶を持つ人は居ないのよ」
アース星?
「俺は、この料理を知っていますが、アース星という星は知りません」
俺がそう答えると、寮長は携帯機の操作を始めた。食事中にマナー違反だろ。あ、これも、前世の感覚か。
「アース星の人は、国によって星の呼び方が違うみたいね。アースで通じないなら、ティエラ、テラ、テール、地球という呼び方もあるわね。他には……」
あ、そのアースか。
「アースでわかります。アース星という言い方は、初めて聞いたので、別の星かと思いました」
俺がそう答えると、寮長は、ホッとしたような笑みを浮かべた。真面目な性格らしい。
「良かったわ。シリウスさんは、アース星の記憶があるのね。それなら、この宿舎で学ぶことは少ないわ。スピカさんは、違うみたいね」
スピカは口を開こうとしたが、他の人達の視線に気づくと、軽く頷いただけだった。なんだか調子が狂う。
食事が終わると、俺達の星の聖都の飲み物が出てきた。白くて少し甘い飲み物だ。すると、やっとスピカの表情には、笑みが戻っている。
「皆さん、スピカさんとシリウスさんは、一番遠い未来から来られたようです。だけど、決して、未来の話を聞いてはいけませんよ。この使命が終わったときに、元の世界に戻れなくなりますからね」
寮長は、オルフル様と同じことを話した。好奇心旺盛な人もいるためか。
「じゃあ、僕達だけでは失敗するってこと? シャルル様が、また派遣したんだよね? 僕も遠い未来から、期限ギリギリに到着したから、もう誰も来ないはずだって聞いたよ」
「そのお話は、私にはわからないわ。新たに来たシリウスさんには、アース星の記憶があるようだから、これからの使命に必要なのかもしれないわね」
「それなら、もうひとりの子は、要らないんじゃないの?」
子供の言葉は残酷だな。せっかく笑顔を見せていたスピカが、萎縮している。まぁ、舐められないように、キツイ言い方をしているのかもしれないが。
「要らない人を、シャルルさんは派遣しないわよ? さぁ、キミ達は先に部屋に戻って、休んでちょうだい。疲れているでしょう。神による転生直後は、いろいろと不安定で疲れやすいんだけど、聖堂から出ると、時を遡った移動はできなくなるの。だから即座に、時空転移をしたのよ。かわいそうだと進言してたんだけど、さすがのシャルルさんも、遠い未来には忘れちゃうのね」
大神官シャルル様を、ディスってないか?
「私達って、いつ、シャルル様に会えるの?」
何を言っているんだ? あー、いつ帰れるかという話か。
「皆さんが、次の宿舎に移ったら、シャルルさんに会う機会もあるかもね」
は? もう、帰れるのか?
「イービー暦999年のシャルル様って、どんな感じなんだろ? 私達を送り出したときは、すっごい美人だったよ」
大神官様が、人工星にいるのか?
「おそらく、姿は違うはずよ。次の宿舎で学ぶことが含まれるから、私には話せないわ。一番最初に到着した人達は、もう次の宿舎も出て、使命を開始したわよ」
「ふぅん、ロッコ族は、全部で何人いるの?」
「未来から来た人は、数十人かな? 既に人工星を出た人もいるから、正確な数は、私にはわからないわ」
「バーラさんみたいに、ずっとここにいるロッコ族は、たくさんいるの?」
「そうね。人工星の開発に協力した人で、まだ残っているのは百人くらいかしら? あっ、そうだわ。もうそろそろ罪人が来るわね」
罪人? あぁ、人工星への流刑か。特殊な環境で、人格を矯正するんだよな。俺が生まれる前から始まった事業だと聞いたことがある。この人工星に軟禁するのか。宇宙船での移動だから、到着には時間がかかるのだろう。
イービー神が大勢いるなら、何も問題はないはずだが、まさかロッコ族の罪人が、スープラットの厄災を引き起こすんじゃないよな?
寮長から罪人の話を聞いたことで、皆、無言になっている。未来から来た皆は、当然、この事業のことを知っているだろう。
俺は、また笑顔の消えたスピカを促して席を立ち、部屋へと戻った。スピカは、ずっと無言だった。




