24、帰還者の情報
「シリウス〜っ! スピカちゃん、わかんない」
スピカは、大神官シャルル様の『日記』をすべて読み終えたようだ。俺は、スピカが何を言いたいのか、わからない。
「どういう意味だ?」
「明日から何をすればいいか、ぜーんぜん、わかんないよぉ〜。えーっと、レイシーさんとマイルさんは、この人工星が爆発する日より、未来から来てる?」
スピカは、テーブルに突っ伏していた。眠いのかもしれないな。もう、深夜0時だ。
「ええ、私は……あぁ、そうだったわね、何年から来たかを話してはいけないんだったかしら。今がイービー暦999年だから、爆発は6年後よね? 私は、もっと先の時代から来ているわ」
「何年から来たかを聞いちゃダメなの?」
「自分達より先の未来から来た人には、『日記』で、いろいろとバレちゃうからだと思うわ。おそらく、感想や意見が書かれているから、それを本人が知ると、何かの弊害があるんじゃないかしら」
確かに、そうだな。帰還者が書いた記録を読めば、何を思い残したのか、何を失敗したかが明らかになる。そこに至るまでの過程で、被害を減らす行動をするかもしれないから、余計な情報は逆効果になる恐れがある。
オルフル様が話していたのは、これだな。大神官様の『日記』に書かれた情報を歪めると、せっかくの情報が無駄になるからだ。
「スピカさん、僕も、人工星の爆発よりも、先の未来から来ていますよ。爆発までのこの星に関する情報は、シャルル様が記録された流れを知っています。いくつか、少し違うと感じましたが、それは、僕より先に派遣された人達が変えた部分でしょう」
「そっか。じゃあ、爆発の頃までの話は、未来の話だけど大丈夫だねっ。私とシリウスは同じのを読んだと思うんだけど、ん〜、わかんなくなっちゃった」
コイツ……。
スピカは、眠くなったらしい。わからないんじゃなくて、眠いだけだろ。仕方ないな。
「俺達が読んだ内容は話せないが、今日、俺が感じたことなら話しても大丈夫だよな?」
「護衛ミッションのことですか? それなら大丈夫だと思いますよ」
レイシーとマイルは、しっかりと頷いたが、スピカは、適当に手をヒラヒラさせている。寝落ち寸前か。
「クリスタル鉱山に行くとき、透明な森に危機感を感じた。多くの魔物がいたことに気づいたか? 夜になると、木々が透明に見えるほど地面が輝くなら、それを吸収し続ける魔物は、進化するはずだ」
「魔物の進化に関する情報は、『日記』にも、いくつか出てましたね。僕も、クリスタル鉱山で膨大なエネルギーを感じました。透明な森には強い魔物がいるようですから、シリウスさんの言う通り、進化が起こる条件が整っていると思います」
レイシーは、『日記』を読み返している。俺達の最新情報に魔物の進化の話が書いてあったと、気づいたのだろう。
「シリウス〜、悪い人の話も、いっぱい出てきたよぉ」
コイツ……。
「あはは、スピカさんが、ヒントをくれましたね。おふたりだけが見れる情報には、透明な森の魔物の進化と、悪意ある人達がいることが、書かれていたのですね」
マイルは、確認したいらしい。
「マイル、その質問には、シリウスさんは答えられないわ。特定するようなことは禁止よ。私達の帰る場所が変わったらどうするのよ? 何人もの帰還者が、元の時代に戻れなくなったじゃない」
へぇ、そんなことも書いてあるのか。
「そうでしたね。あはは、今のは無かったことにしてください」
俺は、軽く頷いておいた。だが、ふたりには、俺達だけが読める最新の情報が何に関することか、わかっただろう。
そうか。ひとつ前の情報を読んで行動するために、大神官様は、こんな記録を残したのだな。重要な引き継ぎ事項だ。先輩がやり残したことを潰していけば、いずれは、スープラットの厄災を阻止できる可能性があると、大神官様は考えたのか。
しかし、もう俺達で最終かもしれないよな。これ以上、この時代と離れてしまうと、時を遡った転移が難しくなるようだ。俺達でさえ、期日に間に合わなかったし、その後、誰かが来たという話も聞かない。
「シリウスさん、どう動きましょうか。私は、レベルアップも兼ねて、透明な森や未開地のミッションを受けるべきだと思います」
レイシーは、真っ直ぐに俺を見つめる。意味深に何度か頷いていた。なるほど。レイシーの最新の情報にも、透明な森や未開地のことが書かれているのか。
「僕も、いいですか?」
「マイルさんも、最新の情報を読んだ上での提案かな?」
「あっ、あはは。まぁ、そうですね。僕としては、この町の大通り以外の場所が、気になります」
寮長のドムさんは、大通りから外れた場所をうろつかないで欲しいみたいだったな。
「マイルさん、大通りを外れると危険だと、寮長が話してたよな? 未来から来たロッコ族をすべて殺して追い返そうとする人達がいると」
「はい。その人達には、寮長も含まれるんじゃないかと考えました。初めてここに来たとき、大通りを案内してくれたけど、時々、目つきが怖かったんですよ」
ドムさんが敵ということか? まぁ、あり得るな。
「スピカちゃんは、町の中を探検したいなー。眠すぎるから寝るね。あとは、シリシリに任せる〜」
スピカは、手をヒラヒラと振ると、寝室に入って行った。なるほど、スピカも俺と同じく、ドムさんを疑っているか。
ドムさんが、俺達のミッションに付き添ったのは、初回のためだと言っていた。だが、傭兵ギルドの所長は、寮長に付き添いをとは、言わなかった。ドムさんは、俺達が、女性3人とどんな話をするかを、気にしていたのかもしれない。彼は、クリスタルショップで俺達から離れたが、盗聴くらいできるだろう。
ん? 盗聴?
俺は、携帯機を見て、ハッとした。時計を見ると、もうすぐ2時だ。確か、0時から6時は、携帯機のメンテナンス時間だ。前の宿舎でサッと読んだ本に、街での記録が行われないと、書いてあった気がする。
「レイシーさん、防音結界は、携帯機を通じて傍受できる場合には、どの程度の効果があるかな?」
「えっ? あ、携帯機は、記録の魔道具でもあるわね。もしかして、ここでの相談が聞かれてしまったのかしら」
「今はメンテナンス時間だから、大丈夫だと思いたいね。でも、俺達の女装がバレている、とは感じなかったな」
「そうね。防音結界が効いていたのかしら。だけど、気をつける方がいいわね」
俺達が話していると、マイルが何かの術を使った。
「今夜は休みましょう。夜中から朝にかけて、付近の精霊に探ってもらいます」
「私は、防音結界は、維持しておくわね」
俺が軽く頷くと、レイシーは寝室に入って行った。結界は、寝てても維持できるのか。




