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23、大神官様の『日記』

「あっ! シャルル様の『日記』が見れるみたい」


 宿で夕食を食べた後、4人で一緒に部屋に戻ると、スピカが突然、大声を出した。


「スピカ、みんな気づいてるぞ。だから、傭兵ギルドから帰って、すぐに夕食を食べたんだ」


「あれ? シリシリが女の子の喋り方を辞めちゃった〜。かわいくなーい」


 は? あぁ、マイルに、もう自由にしていいと言っているのか。レイシーが部屋に防音結界を張っても、マイルは、女装したままだからか。


「レイシーさんが防音結界を張ってくれたし、もう別に女のフリをする理由もないだろ」


 俺がスピカにそう反論すると、やっとマイルは、ホッとした表情をしていた。ずっと女装がバレないように、気を張っていたのだろう。



「クリスタル鉱山に行ったから、砂ぼこりで落ち着かない人は、先にシャワーすればいい。俺は、『日記』を読むからな」


「そうね。あっ、マイルが先にシャワーしなさいよ。化粧したままだから、落ち着かないでしょ。私は、紅茶を淹れるわ」


 レイシーは、マイルへの気遣いを忘れない。


「ええっ? レイシーさんって、紅茶を淹れることができるの? アース星の飲み物だよね?」


「スピカさんは、紅茶を知らないのかな? あぁ、そうだったわね。前の宿舎で、実習を受けなかったもんね。簡単よ、見ててね」


 レイシーは、ミニキッチンに立つと、蛇口をひねり、ポットに水を入れた。そして、魔道具の上に置き、スイッチを入れた。魔力を電気代わりに使うようだが、前世の感覚で懐かしさを感じる。


 ガラス製のポットに、ティーパックを人数分放り込むと、そこにポットで沸かした湯を注いだ。


 なるほどな。前の宿舎で習ったとおりにやっているようだ。街に行くと、アバターを身につけるから、魔法が不安定になるためかもしれない。



 レイシーが、ティーカップを用意したときには、シャワーを終えたマイルが出てきた。もう、少女には見えない。


「わっ! マイさんが、マイルさんになってる〜」


「スピカさんにやってもらった化粧は、洗い流しましたからね。ホッとしたけど、たぶん、これからも女装する方がいいですよね?」


「うんっ! 女の子のマイさんの方が可愛いもんね」


 スピカの的外(まとはず)れな返答に、マイルはふわっと柔らかな笑みを浮かべた。



「みんな、紅茶ができたよ。『日記』を読むんだよね?」


 あぁ、そうだった。スピカが変なことをしないか気になっていたが、やっと大神官シャルル様の『日記』を読むことができる。


 俺達は、レイシーが淹れてくれた紅茶を飲みながら、携帯機を操作し始めた。




 俺は、一番最初の画面をもう一度読んだ。


『これを読む皆さん、私の依頼を受けてくれてありがとう。これは、イービー神からいただいた記録帳の複写です。原本は私が所持しています。ここに記録していくことは、皆さんの記憶と少し異なるかもしれません。違うということは、皆さんが過去の人工星で頑張ってくれた成果です。読み返すと、最新の歴史に置き換わる可能性があるため、私は読み返しません。次のページからは、時系列に沿って、記録していきます。一番最後のページには、皆さんに与える能力のことを記録しています』


 次のページを開く。


『ここからは、スープラットの厄災の元凶となる人工星スープラについて、主要な記録を書きます。私は、人工星スープラに縁のある人を探し、時を遡って、ラグ塔へ送らねばなりません。その記録もここに残します。そして、過去から帰還した人達からの情報も、書き記すことにしましょう』


 その次のページからは、俺の知るスープラットの厄災の状況が記録されていた。そして、誰かを過去へ派遣した日には、その人数の記載がある。その数日後には、過去から戻って来た人が話した情報が書かれている。使命が終われば、出発した時代に、ちゃんと戻れるみたいだな。


 俺は、適当に読み飛ばしていく。個人の感想を書き留める必要があるかは疑問だ。だが大神官様は、無駄なことはしないだろう。


 ん? 記録の最後は、俺とスピカの名前がある。


『イービー暦1058年水の月の1日、スピカさんとシリウスさんの2人を派遣します』


 なるほど。ここまでの記録も、大神官様は同じように書いていたのだろう。だが複写になると、自分達以外の名前は、伏せられるのか。


 よく考えられている。ラグ塔で追い返される人もいるからだよな。使命が終わった後の妨げになるものは、隠されているわけか。



 俺は、他の人達の様子を眺めた。皆、真面目に読んでいるようだ。俺は、途中をスルーしたが、そう言えば、俺達が知る情報と食い違うこともあるんだよな。皆は、それを探そうとしているのか。


 これを渡した大神官様は、何を狙っているのだろう。もちろん、スープラットの厄災を阻止するためなのだろうが……。



「あれ? シリウスは、もう読んだのー?」


「いや、適当に読み飛ばした」


「むむ? どうして? 帰還した人達の報告って、大事なヒントだと思うよー。古い方は、みんなバラバラだけど、新しいのは、古い情報を参考にして動いた結果が書いてあるのが多いもん。えっと、未来の話はしちゃいけないから、レイシーさんやマイルさんには、具体的なことを話せないけど」


 あっ、そうか。スピカは、やはり賢いな。


「俺達を派遣するひとつ前の帰還者の話は、俺達しか読めない情報か」


「そうだね。それに関連する話をしている人がいるから、新しい方から読んでいくと、読みやすいかも」


 確かにな。


 俺は、ひとつ前の帰還者からの情報を読むことにした。このときの帰還者は、2人か。



『透明な森の魔物が進化して、魔族化した。だが、目立った統率者は居ない。透明な森で進化した魔族達は、賢い。あの付近には、ロッコ族の監視の目があることを理解している。そのため、大勢の魔族が、未開地へ流れた。僕達が気づいたときには、手遅れだった。魔族同士の大きな戦乱があちこちで頻発したため、僕達が制圧を試みたが、やり方を間違えたようだ。追い詰められた魔族達は、クリスタルを使った』


 やはり、透明な森の魔物が進化するのだな。魔族がクリスタルを使ったという意味はわからないが、ロッコ族への迎撃のつもりで、莫大なエネルギーを爆発させたのだろうか。


『クリスタル鉱山が、人工星スープラの爆発の起点のようです。ただ、何が直接の原因かは、わかりません。クリスタル鉱山や、その付近は、多くの悪意が渦巻いています。原因となり得るものは、無数にあるのではないでしょうか。人工星スープラの爆発は、偶然の不幸な出来事ではありません。爆発させようとする悪意が、この惨劇を引き起こすのだと考えます』


 は? 悪意? 魔族同士の戦乱でクリスタルが使われるように、仕組んだ奴がいるのか?



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