25、大通りの散策
翌朝、俺達は、食堂で遅めの朝食を食べた。
「今日は、チビっ子は居ないねぇ」
昨夜、一番早くに眠ったはずのスピカは、大きなあくびをしている。朝食は、俺達の星の田舎料理だから、食べやすいためだろう。食べるというより、飲むという方が正確か。色とりどりのドロドロな液体だからな。
「そうね、大人しか居ないわね。朝食には遅い時間になったからだと思うわ」
「ふぅん、この後はどうするー? スピカちゃんは、この町の化粧品を見に行きたいよ」
「それなら、『タンス』の備品のところにあるでしょ?」
「お店に並んでるのを見たいのーっ」
スピカとレイシーは、不思議な芝居を始めた。朝食前に、マイルに化粧をしながら、打ち合わせをしていたからな。俺は、すぐにシャワー室に入ったから、詳細は聞いてないが。
「ねぇ、シリシリは、どう思う?」
「ん? 化粧品には興味はないけど、アース星っぽい物があるのかは、気になる」
「じゃあ、アース星っぽい物を探しに行くー?」
俺は、考えるフリをして、まわりをグルッと見回した。未来から来たロッコ族は居ないが、俺達の会話に聞き耳を立てている大人は、それなりにいるようだ。単純な興味か、もしくは、俺達の動きを見張っているのか。
「昨日の報酬で、どれくらいの物が買えるのか、気になりますね。物価に関しては、前の宿舎では詳しく教えてもらえなかったですし」
マイルは、精霊達から情報を集めたはずだよな。だが起きてから、その話はしていない。ということは、やはり携帯機は、音声も記録してしまうのか。
「そうだね! マイさん、それ、すっごく大事だよ。この宿舎の外だと、ごはんを食べるのもお金がかかるからね」
スピカは、思いっきり頷いている。確かに、食事の心配は必要だな。魔法袋のような物は売ってないのだろうか。
俺としては、携帯機という魔道具は、イマイチ信用する気になれない。俺達が、この携帯機を使って監視している人達に逆らうような行動をすると、操作できなくなる可能性もある。
「とりあえず、買い物だね。私は、魔法袋みたいな魔道具が欲しいけど、高価だろうな」
「ん? シリシリ、携帯機に新しいのが増えてたよ? たぶん、魔法袋かアイテムボックスだよ」
は? 携帯機に新しいアイコン?
携帯機を出してみると、『財布』の下に『倉庫』というアイコンが増えていた。
「これは、いつ増えたの?」
「今朝だと思うよっ。容量の制限は書いてないけど、たくさん入れると、魔力が無駄に取られるみたい」
俺は、『倉庫』に触れてみた。
『シリウスさん、おはようございます。傭兵ランクが上がったため、倉庫を開放しました。倉庫には、服とお金以外の物を入れることができます。倉庫内の量が増えると、維持のための魔力量が多く必要になりますので、お気をつけください』
確かに、容量のことは書いてない。おはようか。新たな機能は、携帯機のメンテナンス時間が終わった朝に、追加されるのか。『宿屋』の追加は、この町に来たときだった気がする。説明書きが出るモノは、朝に追加なのか、もしくは無関係か。
俺は、その構造や習性が理解できないモノは、結構いつまでも、気になる癖がある。ロッコ族として生き延びるためには、抜け道や法則を知る必要があったからだろう。
携帯機という魔道具は、あまりにも不気味だ。スマホの形をしているが、完全に別物だからな。
◇◇◇
「わっ! あの店、かわいいっ!」
朝食後、俺達は部屋には戻らず、そのまま外出した。大通りを歩いているだけだが、スピカはテンションが高い。レイシーも、それに合わせているようだ。
俺は、マイルと並んで歩いている。今日も女装しているマイルは、昨日ほどではないが、少しぎこちない。だが、外出に緊張しているように見えるだろうから、問題はない。
大通りの店の人達は、話しかけては来なかった。未来から来たロッコ族には見慣れていても、馴れ合うつもりはないのだろう。
「シリシリ、これって、アース星の物だよね?」
スピカが、突然、立ち止まった。物価を調べるんじゃなかったのか? まぁ、俺が言ったことを覚えていただけかもしれないが。
「何? 知らないよ」
「嘘だぁ〜っ。ゲームに出てきたもん」
「あっ! スピカさん、その杖は精霊物語ですか?」
精霊物語?
「そうそう! これは、主人公がもらう杖にそっくりでしょ? 乙女ゲームは、ほとんどがアース星を舞台にしてるもん」
マイルが、急にイキイキし始めた。彼は、乙女ゲームをプレイしていたのか。ロッコ族になる前は、精霊族だったから、興味を惹かれたのかもしれないな。
「アース星には、そもそも魔法がないよ。魔法使いは、架空のファンタジーだから」
「あっ、そうだった。でも魔法がないなんて、すっごく不便だよね。スピカちゃんなら、すぐに人生詰んでしまう自信がある」
どんな自信だよ?
「魔法はないけど、戦乱は起こる。いろいろな兵器があるからね。ロッコロッコ星と、たいして変わらない」
「ふぅん、そんな勉強はしなかったけど〜。この杖、いくらかなぁ?」
スピカは、店内に入って行った。おそらく、杖以外の何かが、気になったのだろう。大きな声で値段交渉を始めたが、折り合いがつかないらしい。
俺達も、店内を眺める。
すると店の奥から、微かな魔力を感じた。俺達をサーチしているらしい。気づかないフリをして、歩き回っていると、裏口から人が出る気配を感じた。
なるほど、そういうことか。
スピカは、漏れる思念を拾って、この店に入ったようだ。マイルも気づいたようだが、店の入り口近くから、動かない。他の杖を見ているフリをしている。
レイシーは、スピカを諦めさせようと、説得を始めた。彼女は気づいてないな。その方がいい。レイシーは、すぐに顔に出る。
「この杖が、30万Gだなんて、高すぎるよぉ。杖としては、子供用でしょ?」
子供の姿をしたスピカが、そう言ってもな。
「お嬢さん、この杖は、デザイン料が高いんだよ。だが、ゲーム舞台の街で売っている物とは違って、実用的だ。ちゃんとマナを制御できるよ」
「でも〜、30万Gもするなら、買えないよぉ」
完全に子供のフリをしているな。あの女性達に、スピカと俺は、神による転生で、感覚まで子供になったと言われたから、その設定でいくのか。
「スピカさん、もう諦めましょう。あっ、そうだわ。また、傭兵ギルドで仕事を受注すればいいのよ」
レイシーがそう言うと、スピカは、半笑いの変な顔をした。ニヤけたのをごまかしたな。
「スピカ、お店の人に迷惑だよ。ほら、町の探検に戻るよ。昼食を食べる店を探すんじゃないの?」
俺がそう言うと、スピカは、クルッと向きを変え、何事もなかったかのように、店の入り口へと戻っていった。




