21、通信用の銀色のペンダント
「シリシリ、これは何?」
「オジサンがくれたんだ。同じ部屋の子は4人だと言ったら、さすがに指輪4つは無理だからって。離れていても念話で連絡できるペンダントらしいよ」
砂絵のアイデアに喜んだ店員が、俺達に通信用のペンダントをくれた。この人工星の上にいれば、どれだけ離れていても、念話を届けられるらしい。
状態異常耐性の指輪をひとつだけもらうより、こっちの方が役立つ。値段的にもペンダント4つの方が安いから、店員も嬉しいだろう。
店員は、ペンダントの初期設定もしてくれた。この設定を終えると、同じ種類の他のペンダントには反応しないらしい。念話の混線を防げるようだ。小さなクリスタルが使われているが、シンプルな銀色のペンダントだ。
「わぁい! ちょっと大人になった気分だねっ」
は? 中身は大人だろ。
スピカは、すぐに身につけると、鏡の前でポーズをキメている。だが俺は、こんな金具の扱いはわからない。
「スピカ、これって……」
「シリシリは、ちっこいから、腕が回らないのかな? 長さも変えられるよっ。私が付けてあげるよっ」
スピカにペンダントを渡すと、付けてくれた。クリスタルが一瞬だけ、俺の魔力を吸収したようだ。
「もう少し長い方がいい」
「ん〜? シリシリは、ちっちゃいから、それくらいの方がバランスがいいよ。あー、マイさんは長すぎない? 私に任せてっ!」
マイルが必死に付けようとしていたのを、スピカが取り上げた。金具を調整して長さを変えていく。マイルだけでなく、レイシーのペンダントも、スピカが付けた。俺やマイルが男なのを隠すためだろう。
「スピカさん、ありがとう。これは、便利な魔道具ね。クリスタル鉱山の中でも、何も邪魔されないわ」
「うん、シリシリは良い物をもらったねー。女の子用のアクセサリーにしては、チェーンが太い気もするけど、通信用の魔道具だから、細くできないんだろうね」
レイシーは、シンプルなペンダントを気に入ったらしい。鏡に映る彼女の表情には、笑みが見える。
「店員さんが、2階のレストランでお食事をどうぞって言っているわ。昼食を食べましょう。私達は買い物をしたから、無料で利用できるの」
護衛対象の女性達は、多くの物を買ったようだ。携帯機に収納せずに、大きな袋に入れて持っている人もいる。
「スピカちゃん達は、お買い物してないよ」
「シリちゃんのアイデア料としては、通信用のペンダントでは安すぎるから、きっと、アナタ達も無料にしてくれるわ」
店員の方に視線を向けてみると、思いっきり営業スマイルをしていた。
「じゃあ、スピカちゃん達の付き添いの寮長は?」
「さぁ、どうかしら。ドムさんなら、私達の食事中に、ここで買い物をするんじゃない? 街に持っていけば、高値で買い取ってくれる店があるから、ある種の錬金術だもの」
錬金術? あぁ、金を生み出すという意味か。
「普通の人が、ここで買って、街で売るの?」
「ええ。クリスタルショップは、鉱山の外への配送はしてないのよ。だから欲しい人が買いに来るんだけど、街からだと、透明な森を通ることになるから、命懸けなの」
「ん? さっきの道は、魔物は襲ってこなかったよ?」
「私達が通ってきた道は、街の人は使えないわ。この人工星にいるほとんどの人には、私達の居住区に入る権限がないのよ」
「ふぅん、それで、普通の人がここで買った物を、街のお店が買い取るのね。だから街では、すごく高くなるのかぁ」
「ええ、スピカちゃんは、理解が早いわね」
「うんっ! 私は大人だからねっ」
スピカが胸を張ると、女性達はクスッと笑った。完全に、スピカのペースにハマっている。スピカは、どんな相手でも、扱うのが上手いよな。
◇◇◇
2階のレストランは、俺の想像とは違った。土産物屋のレストランは、期待できないと思っていたが、これは、俺の前世の感覚のせいだろう。
「この店、いいな」
俺が思わず呟いた言葉を、スピカは聞き逃さない。
店内は、穏やかな音楽が流れていた。それだけでも、不思議な懐かしさを感じる。全面ガラス張りの窓際の席は、ほとんど空きがない。昼食デートだろうか。
「シリシリ、気に入ったの? 聞いたことのない音楽が流れてるね。ゲームの音楽とは、ちょっと違うけど」
ん? ゲームの音楽?
「スピカは、音楽を知っているの?」
「うん、大聖堂で転生したときに、スピカちゃんがロッコ族になる前に遊んでいたゲームのことを思い出したよ。大聖堂で流れる音とは違って、いろいろな音が混ざってるのが、音楽でしょ?」
音楽の定義は、俺にはわからない。俺達の星には、たいした楽器はないからな。
「あら、スピカちゃんは、ロッコ族になる前も、ロッコロッコ星の住人だったの?」
女性達も、俺達の星をロッコロッコ星と呼ぶのか。イービー神の呼び方が、ここでは普通に使われるのだな。
「うん、そうだよっ。古いことはあまり覚えてないけど、わりと長寿の悪魔族だったよ」
スピカが、サラッと悪魔族だと言ったことで、女性達の表情が、少し警戒したものに変わった。長寿の悪魔族と言われたら、普通は巨人系を想像する。物理攻撃力が強い種族が、記憶を引き継いで魔導系のロッコ族に転生したら、かなりの戦闘力になる。だがスピカの前世は、サキュバスだ。物理攻撃力は低いが、巨人系より別の意味で厄介だと思う。
「へ、へぇ、そうなのね。シリちゃんも?」
「シリシリは、ロッコ族になる前は、アース星の人だったって。だから、ズルいの。私が知らないことを、いっぱい知ってるんだもん」
スピカがいろいろと暴露していたとき、俺達の席に料理が届いた。ランチプレートだそうだ。1階の店員が、注文をしていたらしい。
へぇ、洋食か。オムライスにはデミグラスソースがかかっている。その横には、数種のフライにタルタルソース、ポテトサラダはミニトマトを飾って、派手にしてある。ロッコ族を意識しているのだろう。聖都の料理は、派手な蛍光色だからな。
宿舎で食べた食事も、不味くはなかったが、このランチプレートを見ると、レベルが段違いだ。
まず、オムライスを食べた。かなり美味い。洋食屋のオムライスだ。白身魚のフライには、やはりタルタルソースだよな。あっ、スープもある。ポタージュスープか。これも懐かしい。
ん? スピカの視線を感じる。
「何? 食べ方がわからないの?」
「赤い実が乗ってる。これって、今朝の毒の実でしょ?」
は? あー、梅干しのこと?
「これは、ミニトマトだよ。野菜かな?」
「食べたら、口の中がキューってならない?」
「大丈夫でしょ。少し酸味はあるかもしれ……ちょ、スピカ!」
スピカは、自分のミニトマトを手でつかむと、素早く俺のポテサラに埋めた。コイツ……。




