20、クリスタルショップで砂絵
山道をグルリと反対側にまわると、ポッカリと空いた洞穴が見えてきた。ここがクリスタル鉱山の入り口か。
クリスタル鉱山は、深い森に隣接しているようだ。これが、さっき話していた透明な森だな。かなり多くの魔物が生息している。鉱山の入り口付近には結界があるから、入ってこないようだが。
「わぁっ! すご〜い! 綺麗だねっ」
洞穴に入ると、キラキラと輝く青い水晶のような物が、壁に埋まっているのが見えた。水晶ではなく、クリスタルだな。青いということは、水属性を帯びているのか。
「ここは、有名なクリスタルの採掘地よ。メインの採掘場は地下にあるの。目的のクリスタルショップは、洞穴の入り口にあるわ。この時間なら、混んでないはずよ」
女性達は、目を輝かせていた。買い物に来たのは、嘘ではないらしい。クリスタルショップは、ガラス張りの大きな店舗だ。1階は土産物屋で、2階がレストランか。
「すごく大きなお店だねー。全面ガラス張りだから、キラッキラしてるのかな」
「そうね。店内の照明が工夫されているのよ。スピカちゃんは、クリスタルショップは初めてかしら?」
「うんっ! 私は田舎だったから、こんなに大きなお店を見るのも初めてだよっ」
スピカは、すっかり護衛対象と仲良くなっている。他人の懐に入り込むのが上手いんだよな。
店内に入ると、女性達はそれぞれ見たい物が異なるのか、別々に行動している。スピカは、俺達の方へ戻ってきた。寮長のドムさんは、店には入らず、店の前で携帯機を操作している。
「シリシリ、私達も見ようよ〜。お姉さん達が、街で買うより、すっごく安いって教えてくれたよ」
お姉さん、か。
「スピカは、何か欲しいものでもあるの?」
俺は、女の子に見えるよう、口調にも気をつけた。だが、スピカは何も気にせず、キョロキョロしている。
「何を売ってるかわかんないけど、すっごく安いなら、買わなきゃ損だと思うよっ」
スピカは、女性達の影響を受けたらしい。買わなきゃ損だと言われたのか。
「シリさん、行商人のような客もいますね。安く仕入れて、街で売るのかもしれません」
マイルは目線で俺に教えてきたが、俺も気づいている。
「へぇ、じゃあ、行商人が仕入れる物が、街でよく売れるのかもね。行ってみようよ」
俺の話し方の変化に、マイルは戸惑い、必死に頷いている。やはり、彼には芝居はできないな。レイシーも、緊張しているようだ。ふたりは真面目だからな。
「ん? 流行ってる物? スピカちゃんが聞いてくるっ。レイシーさん、行こっ」
レイシーの緊張をほぐすためか、スピカは、レイシーの腕を掴むと、行商人らしき男性達の方へ行った。
「スピカさんの行動力って、すごいですね」
「何も考えてないんだよ。思いついたら即行動するからね。マイさん、私達は、あっちを見に行こうよ。魔道具があるみたい」
「は、はい。行きましょう」
俺はマイルを連れて、人が少ない方へと移動した。すぐ近くに人がいると、マイルは緊張してオドオドするからな。まぁ、初めての女装だから、当然か。
「キミ達は、未来から来たロッコ族だよね?」
魔道具コーナーに近寄っていくと、店員が話しかけてきた。また、マイルがオドオドしている。
「うん? 秘密だよ。オジサン、この魔道具って、どこで作ってるの?」
「秘密か。喋るなと言われてるんだな。この魔道具は、地下で作っているよ。店内の土産物も全部な」
「この鉱山には、イービー星の人は、立ち入れないんだよね? 作ってるのは、ロッコ族?」
「錬金術が使えるロッコ族もいるが、土産物の大半は、難民が作っている。採掘作業で出た物を加工しているから、作業員の家族が、小物作りをしている」
難民の働く場所か。
「ずっと地下で作業するのって、つらくないの?」
「地下を好む種族もいるからな。それに、クリスタル鉱山にいると、自然にエネルギーを吸収できる。だから、地下ではアバターを身につけない人も多いよ」
なるほどな。皮膚から吸収したいからか。アバターを身につけると、マナの吸収が難しくなるのかもしれない。
「お土産工場の見学って、できるの?」
「ツアーに申し込めば、できるよ。盗難の危険があるから、基本的に工房の見学はできないことになっている」
工場じゃなくて、工房か。
「どの魔道具がオススメですか?」
おっ、マイルが頑張っている。
「そうだな。お嬢ちゃんのような白魔導士なら、指輪はどうだい? クリスタルを使って、様々な効果を付与してある。状態異常耐性は、特に人気があるよ」
魅了耐性、眠り耐性、麻痺耐性、他にもいろいろあるが、値札を見て、マイルは、ため息を吐いた。このタイプの魔道具は、ひとつだけでは意味がない。いくつかを装備したくても、俺達に与えられた100万Gでは、ひとつしか買えない。
「結構な値段ですね」
「まぁね。街だと、この2倍以上の値段になっているよ」
店員は、俺達をカモだと思ってないか?
「マイさん、傭兵ギルドの報酬を貯めなきゃね。私は、これが欲しいなー」
俺は、店員の関心を、自分に向けさせた。マイルは、そろそろ限界だろう。
「お嬢ちゃんは、そんなもので何をするんだ? それは、ランプの灯りに使う燃料だよ」
俺が指差したのは、安い砂状のクリスタルだ。
「いろいろな色があるから、これで、砂絵が描けるでしょ? 透明なシートに接着剤で絵を描いてクリスタルを貼り付けていけば、絵の具みたいに使えるよ。やってみせようか?」
「あぁ、やってみてくれ。この透明な板でもいいか?」
透明な下敷きのような物を受け取ると、店員は、接着剤も出してきた。
落書き程度に、ハートマークを接着剤で描き、2色の砂状クリスタルをザザッとふりかけ、少し乾くのを待ち、板を立てる。すると、余分なクリスタルは机に落ちて、ハートマークの絵が残った。
「おおっ! こんな使い方ができるのか。しかも、クリスタルの輝きが美しい。これは、売れるぞ。クリスタルくずには困っているんだよ。ランプの燃料にしかならないものが、こんな使い方ができるとは!」
砂絵を知らないのか。俺は、前世の記憶が戻ったことで、いろいろな場面が突然浮かんでくる。今の俺の年齢の頃に、砂絵で遊んでいたようだ。
他の店員も集まってきた。大げさに騒いでいるから、護衛対象の女性達も、近寄ってきたじゃないか。
「見てくださいよ。このお嬢ちゃんが、クリスタルくずで、こんなに可愛い絵を描いてくれたんですよ」
「まぁ! クリスタルくずだとは思えないわね。額に入れて飾りたいわ。クリスタルなら魔法付与ができるから、簡易結界にもできるわね」
「おお! そうですな。お嬢ちゃんは2色を使ったが、クリスタルくずは、10色はありますよ。本当にありがとう! お礼に、好きな指輪を持って行ってくれ」




