19、護衛のミッション
朝食の後、宿舎のロビーに移動すると、まだ10時にはなってないが、もう、寮長のドムさんがいた。
彼は、大きなため息を吐くと、フロントの従業員にいくつかの指示をして、無言で、宿の扉を開けた。本気で嫌そうだな。今の俺達なら、その理由もわかる。
俺達は、無言で外に出た。
ドムさんに先導される形で、傭兵ギルドまで歩いた。昨日の案内のときとは、まるで別人だ。彼の後ろ姿は、闇のオーラを背負っているようにさえ見える。
俺達が傭兵ギルド前に到着したのは、所定時間の30分以上前だと思う。だが、制服を着たギルド職員と、派手な服の女性3人は、既に俺達が来るのを待っていたようだ。
「まぁっ! ドムさんが、私達を護衛してくれるの?」
「貴女達の護衛を引き受けたのは、私が世話をする子ですからね。初ミッションだから、私はただの付き添いですよ」
「あら? 女の子ばかりじゃない。男の子がいると、所長が言っていたけど?」
俺達を物色するような目で見る女性達。ふぅん、随分と暇らしいな。一方で、ドムさんは困っている。俺達の性別も何も把握してないだろう。
「お姉さん、私達じゃ護衛できないって思ってる? 私は、状態異常魔法が使えるよ〜。シリシリは、ちっこいけど強いよっ」
おっ、スピカが拗ねたフリをしている。
「いえ、最終転生を終えて未来から来たロッコ族だもの、そんな心配はしてないわよ。しかしアナタは、とても小さいわね」
俺の顔をジロジロと見る女性。だが、俺は簡易結界を使っている。多少の思念系の術なら弾くはずだ。
「なぜか、こんなに小さかったんだよ。大聖堂で、スピカに見下ろされて、すっごくカチンときた」
「あら、ふたりは仲良しなのね。でも、小さな子供の姿になったということは、それだけ成長の余地があるということよ?」
「大神官様にも、同じことを言われたけど……」
俺は、何もわかってないフリをしておくことにした。その方が、こういう女性は扱いやすい。
「あーあ、シリシリが、また拗ねちゃったぁ」
スピカは、俺の頭をポンポンと叩く。これは、マジでムカつくから、さっと手で払った。
「あらあら、喧嘩しちゃダメよ。最終転生を終えたロッコ族は、両極端なのよねー。シリシリちゃんとスピカちゃんは、感覚も子供になっちゃったわね」
「シリシリじゃなくて、シリ」
「ふふっ、シリちゃんね、覚えたわ」
俺は、ツーンと顔を逸らした。女性達は、クスッと笑っている。まぁ、こんなもんだろ。保護欲をかき立てると、色欲は弱まるだろうからな。
「マイさんとレイシーさんは、一番後ろをお願いねっ! 護衛は、対象を間に挟んで守るんだよっ」
町の門を出ると、スピカは、妙に張り切り始めた。
「わかったわ」
レイシーが素早く返事をして、マイルと一緒に後ろに下がった。その前には、寮長のドムさんがいる。彼が壁になってくれるだろう。
「シリシリ、右前方に魔物がいるよ」
「どこ?」
「ちゃんと見てっ」
うるせーな。当然、俺には見えている。だが、襲ってくる様子はないから、放置でいいだろ。
「スピカちゃん、シリちゃんの背丈だと見えないのよ。でも、これだけの人数がいれば、襲ってくる魔物は少ないわ。これが透明な森だと、見つけ次第、こっちから攻撃しないといけないんだけどね」
「お姉さん、透明な森って、なぁに?」
「今、向かっているクリスタルショップの向こう側は、透明な森と呼ばれているのよ」
「むむ? 透明な木が生えてるの?」
「昼間は、普通の森に見えるわね。夜になると、地中に埋まっているクリスタルの輝きで、木々が透き通るわ。夜になると魔物も活動しないから、恋人との散歩には最適よ」
「へぇ、面白そうっ」
スピカは、途中から護衛を忘れて、護衛対象の女性達とおしゃべりに夢中だ。しかも、話題が、どんどんエロ方向に進んでないか? まぁ、サキュバスだったスピカとしては、普通の世間話のつもりかもしれないが。
彼女達が向かっているのは、クリスタル鉱山にある店らしい。クリスタルの採掘地は、地下にあるが、その洞穴の入り口付近に、クリスタルショップがあるという。
洞穴は、透明な森の方から行くとわかりやすいが、透明な森には、多くの魔物がいるそうだ。転移魔法陣のある小屋からクリスタル鉱山までの道は、護衛が本当に必要らしい。
歩きながら携帯機の『地図』を見てみると、洞穴の向きを考えて、透明な森に転移魔法陣の小屋を作ったのだと予測できる。転移魔法陣が放つマナに魔物が引き寄せられるから、透明な森には魔物が集まるのだろう。
この環境だと、魔物は強くなるよな。転移魔法陣は、稼働時に多くのマナを放つ。しかも、地中にクリスタルが埋まっていて、夜になると木々が透明に見えるほど輝くなら、それを吸収できる魔物は、進化を繰り返すかもしれない。
先に派遣された先輩達だけでは人工星の爆発を阻止できないから、俺達が派遣された。だが、先輩達がこれからやることは無意味ではないと、オルフル様は話していた。原因は、一つではないのだろう。それなら、イービー神が簡単に阻止したはずだ。
俺達がやるべきことは、これから『日記』を読んで考えることになる。この場所のことも頭に入れておかないとな。魔物の進化については、ロッコ族はあまり知らないだろう。ロッコ族が考えているより、魔物は狡猾だし、予期せぬ進化をすることもある。
「えー? 入り口は、反対側なの? こっちに作ればいいのにぃ」
スピカの叫び声で、俺は、集落のような場所に入ったことに気づいた。何だ、ここは? 昼なのに、夜の街のような、怪しい店や時間貸しの宿屋だらけだ。
「クリスタル鉱山は、様々な決まりがあるらしいわよ。それに、ここに入り口を作られると、逆に困るわ。この隠れ集落を、大勢の人が通ることになるもの」
「ふぅん、あっ、そっか。一夫一妻制の習慣があるなら、面倒なことになりそう。自由にすればいいのにねー」
コイツ……。
「あらあら、スピカちゃん、そういう部分だけは、大人の感覚があるのかな? アバターを身につけていれば、男性側が子供を作ろうとしない限り、妊娠しないのよ」
「それって、男の子に主導権があるみたいで、嫌だなー。せっかく、アバターって美形なのに。うん? アバターを身につけていても子供ができるの?」
「ええ、できるわよ。ほとんどは女の子が生まれるけどね。アバターだと、ほんの数日で出産できるの。子供が欲しくなる前に、イイ男をたくさん探しておかないとね」
なるほど、それで、男遊びか。
だが、スピカの話術にハマっている女性達は、怪しい店に入ろうとはしなかった。
寮長のドムさんが、明らかにホッとしている。しかし、帰り道、かもしれないけどな。




