18、少女に見えるように
翌朝、俺はシャワーを浴び、適当に選んだ服を着た。寝室は個室だから何も気にしないが、シャワー室は共用だから、短時間で済ませた。
俺はなぜ、こんなに気を遣うんだ?
神による転生を受ける前は、俺は誰かに遠慮することはなかった。そもそも、魔王だったからな。妙な協調性があるのは、日本人だった記憶が戻ったせいだろうか。もしくは、意味不明なオトメンという能力か?
あの後も、スピカでさえ、オトメンの話をしない。マイルとレイシーは、俺が個別能力を隠している、と考えている気がする。
「おはよー。シリウス、早いね〜。あれ? かわいい服を着ないの? 女の子のフリをするんでしょ」
「スピカ、おはよう。これでいいだろ。昨日だって、俺は、傭兵ギルドで少女と間違われたからな」
「ふぅん、でも自分のことを、俺って言うのはダメだよ。マイルさんの僕ならギリギリ大丈夫だけど」
「それなら、僕、もダメだろ」
「ボクっ娘もいるからね。たぶん、マイルさんは演技をさせると失敗するタイプだよ。シリウスは、できるでしょ? 仮面の魔王は、感情を隠すから不気味だって有名だもん」
「それが威厳に繋がるからな」
「シリウスが無表情だから恐れられていたわけじゃないよ? ミラール山系の魔物までもが、完全に魔王シリウスに従っていたからだよ。シリウスの前の魔王は、そこまでのチカラはなかったもん」
チカラがなかったから、殺されたんだ。
「前の魔王は、獣系の魔族だからな。相性の悪い魔物は従わないだろう。その点、俺はロッコ族だからな」
「まぁ、そうかもねー。あっ、シリウスのことは、他の人がいるときは、シリシリって呼ぶね。名前を聞かれたら、シリって答えてねー」
スピカは、そんな話をしながら、俺の髪をいじっている。まぁ、好きにさせておくか。
「おはようございます。わっ! シリウスさんは、完璧に女の子ですね。僕は、どうすれば……」
マイルが起きてきた。濃いピンク色のワンピースを着ているが、違和感がある。やはり年齢的に、少女には見えないか。
俺が女の子? 頭に触れると、髪の一部を編んであることがわかった。こんなことは俺には出来ない。
「おはよう。マイルさん、その服は護衛向きじゃないよ。いつものような服でいいよ。マイルさんは、きっと、自分のことを僕って言っちゃうから、ボーイッシュな女の子を目指そう」
「えっ、あ、言葉遣いにも気をつけないといけませんね」
「急には出来ないから、いつも通りでいいよ。シャワーを浴びてきて。シャンプーの香りは、女子力を上げるからね」
スピカの謎理論だが、マイルは頷き、シャワー室へ入った。少し汗の臭いがしていたからな。
「私が一番遅かった? ごめんなさい、おはよう。シリウスさんは、可愛い髪型ね」
レイシーが起きてきた。
「どんな感じか、まだ見てないが」
「横の髪を後ろに編み込んであるわ。茶色のゴムで止めてあるだけなのが、逆に自然な感じね」
俺は気になり、姿見のある扉の方へ行く。
正面から見ると、横の髪を後ろで結んであるように見えるが、後ろ姿はわからない。まぁ、いいか。
「シリウスのことは、シリという名前にするよ。シリシリって呼ぶけど。マイルさんはどうしよう?」
「シリさんね、わかったわ。じゃあマイルは、マイでいいんじゃない? ロッコ族には少ない名前だけどね」
「マイルさんの名前自体が少ないもんね。精霊族には多いのかな? うん、マイさんでいいね」
マイルの呼び方が決まったところで、彼がシャワーを浴びて出てきた。少女のフリをすることを意識しているためか、赤いシャツを着ている。さっきのワンピースよりはマシだが、まだ少し違和感がある。
「呼び方は、マイさんになったよ。ん〜? どうして赤いシャツなの? 護衛は目立っちゃダメでしょ」
「あっ、いや……」
「いつもの服でいいよ。仕上げは、スピカちゃんに任せなさいっ」
スピカにそう言われて、マイルはシャワー室に戻った。そうか、違和感の原因は色か。彼はいつも、淡い色の服を着ていたからな。
しばらくすると、マイルは、完璧に少女に見えるようになった。スピカが、彼に薄化粧をしたのだ。前髪には髪留めを付け、おでこを出している。ショートカットの少女だな。
「スピカさん、すごいわね。化粧の道具はどこから出てきたの?」
「これは、スピカちゃんのアイテムボックスから出したけど、『タンス』にも化粧品はあったよ」
スピカにそう言われて、レイシーは携帯機を操作し始めた。
「あっ! 備品のところね? 全然、気が付かなかったわ。私も出そうかな」
レイシーに釣られたのか、マイルも携帯機を操作し始めた。
しかし、スピカもアイテムボックスを持ってきたか。
俺も全財産の入ったアイテムボックスを装備している。だが、少し不安があるため、まだ、神による転生の後は開けていない。
俺達は、この人工星に着いてすぐに渡された携帯機で、監視されているらしいからな。よほどの緊急事態じゃない限り、オルフル様の許可を得てからの方がいいだろう。ちょっと物騒な武器も入っているし。
「あっ! 早く、朝食を食べなきゃ。10時に集合だったよね?」
部屋には時計が掛けられている。もうすぐ9時だ。慌てるスピカに急かされ、俺達は食堂へと移動した。
◇◇◇
「あら、アナタ達は、みんな、女の子だったの?」
食堂の入り口で、昨日会った先輩達と一緒になった。俺は、どう答えるべきかわからず、目を逸らした。
「シリシリねー、今朝すごく早く起きてたよ。変な夢を見たみたい」
スピカが、俺にギリギリ聞こえる小声で、適当な話をしている。先輩達は、慌てたらしい。まるで、昨日話した魔王のことで、俺が眠れなかったような印象を抱かせたな。
「ごめんなさい。無神経だったわ。私達は、もうすぐ街に行くから、少しピリピリしていたの。あの子は、怒ってるかしら」
「大丈夫だよ。この後は、傭兵ギルドのミッションだから、気分も変わると思うよー」
「そう、がんばってね」
「うん! ありがと」
先輩達は、俺達とは離れた席に座った。完全に、スピカに騙されている。まぁ、俺も慣れるまでは、何度も騙されたけどな。
朝食は、急ぐ人も多いためか、おにぎりとサラダだった。スピカは、おにぎりを見たのは初めてか。
「シリシリ、これって、腐った葉っぱ?」
「海苔だ。海藻の一種だな。手づかみで食べるんだ」
俺が食べて見せると、スピカも真似をしている。そして、この世の終わりのような顔をした。何だ? スピカの手元をみると、赤い物が見えた。俺の方は、昆布だったが。
「毒の実が入ってた……」
「それは、梅干しだ。疲れが取れるよ」
「毒だよ。口の中がキューってなって、疲れが増えたぁ。うげぇー」
おい、吐くなよ?




