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18/25

18、少女に見えるように

 翌朝、俺はシャワーを浴び、適当に選んだ服を着た。寝室は個室だから何も気にしないが、シャワー室は共用だから、短時間で済ませた。


 俺はなぜ、こんなに気を遣うんだ? 


 神による転生を受ける前は、俺は誰かに遠慮することはなかった。そもそも、魔王だったからな。妙な協調性があるのは、日本人だった記憶が戻ったせいだろうか。もしくは、意味不明なオトメンという能力か?


 あの後も、スピカでさえ、オトメンの話をしない。マイルとレイシーは、俺が個別能力を隠している、と考えている気がする。




「おはよー。シリウス、早いね〜。あれ? かわいい服を着ないの? 女の子のフリをするんでしょ」


「スピカ、おはよう。これでいいだろ。昨日だって、俺は、傭兵ギルドで少女と間違われたからな」


「ふぅん、でも自分のことを、俺って言うのはダメだよ。マイルさんの僕ならギリギリ大丈夫だけど」


「それなら、僕、もダメだろ」


「ボクっ娘(こ)もいるからね。たぶん、マイルさんは演技をさせると失敗するタイプだよ。シリウスは、できるでしょ? 仮面の魔王は、感情を隠すから不気味だって有名だもん」


「それが威厳に繋がるからな」


「シリウスが無表情だから恐れられていたわけじゃないよ? ミラール山系の魔物までもが、完全に魔王シリウスに従っていたからだよ。シリウスの前の魔王は、そこまでのチカラはなかったもん」


 チカラがなかったから、殺されたんだ。


「前の魔王は、獣系の魔族だからな。相性の悪い魔物は従わないだろう。その点、俺はロッコ族だからな」


「まぁ、そうかもねー。あっ、シリウスのことは、他の人がいるときは、シリシリって呼ぶね。名前を聞かれたら、シリって答えてねー」


 スピカは、そんな話をしながら、俺の髪をいじっている。まぁ、好きにさせておくか。




「おはようございます。わっ! シリウスさんは、完璧に女の子ですね。僕は、どうすれば……」


 マイルが起きてきた。濃いピンク色のワンピースを着ているが、違和感がある。やはり年齢的に、少女には見えないか。


 俺が女の子? 頭に触れると、髪の一部を編んであることがわかった。こんなことは俺には出来ない。



「おはよう。マイルさん、その服は護衛向きじゃないよ。いつものような服でいいよ。マイルさんは、きっと、自分のことを僕って言っちゃうから、ボーイッシュな女の子を目指そう」


「えっ、あ、言葉遣いにも気をつけないといけませんね」


「急には出来ないから、いつも通りでいいよ。シャワーを浴びてきて。シャンプーの香りは、女子力を上げるからね」


 スピカの謎理論だが、マイルは頷き、シャワー室へ入った。少し汗の臭いがしていたからな。




「私が一番遅かった? ごめんなさい、おはよう。シリウスさんは、可愛い髪型ね」


 レイシーが起きてきた。


「どんな感じか、まだ見てないが」


「横の髪を後ろに編み込んであるわ。茶色のゴムで止めてあるだけなのが、逆に自然な感じね」


 俺は気になり、姿見のある扉の方へ行く。


 正面から見ると、横の髪を後ろで結んであるように見えるが、後ろ姿はわからない。まぁ、いいか。



「シリウスのことは、シリという名前にするよ。シリシリって呼ぶけど。マイルさんはどうしよう?」


「シリさんね、わかったわ。じゃあマイルは、マイでいいんじゃない? ロッコ族には少ない名前だけどね」


「マイルさんの名前自体が少ないもんね。精霊族には多いのかな? うん、マイさんでいいね」


 マイルの呼び方が決まったところで、彼がシャワーを浴びて出てきた。少女のフリをすることを意識しているためか、赤いシャツを着ている。さっきのワンピースよりはマシだが、まだ少し違和感がある。



「呼び方は、マイさんになったよ。ん〜? どうして赤いシャツなの? 護衛は目立っちゃダメでしょ」


「あっ、いや……」


「いつもの服でいいよ。仕上げは、スピカちゃんに任せなさいっ」


 スピカにそう言われて、マイルはシャワー室に戻った。そうか、違和感の原因は色か。彼はいつも、淡い色の服を着ていたからな。




 しばらくすると、マイルは、完璧に少女に見えるようになった。スピカが、彼に薄化粧をしたのだ。前髪には髪留めを付け、おでこを出している。ショートカットの少女だな。


「スピカさん、すごいわね。化粧の道具はどこから出てきたの?」


「これは、スピカちゃんのアイテムボックスから出したけど、『タンス』にも化粧品はあったよ」


 スピカにそう言われて、レイシーは携帯機を操作し始めた。


「あっ! 備品のところね? 全然、気が付かなかったわ。私も出そうかな」


 レイシーに釣られたのか、マイルも携帯機を操作し始めた。



 しかし、スピカもアイテムボックスを持ってきたか。


 俺も全財産の入ったアイテムボックスを装備している。だが、少し不安があるため、まだ、神による転生の後は開けていない。


 俺達は、この人工星に着いてすぐに渡された携帯機で、監視されているらしいからな。よほどの緊急事態じゃない限り、オルフル様の許可を得てからの方がいいだろう。ちょっと物騒な武器も入っているし。



「あっ! 早く、朝食を食べなきゃ。10時に集合だったよね?」


 部屋には時計が掛けられている。もうすぐ9時だ。慌てるスピカに急かされ、俺達は食堂へと移動した。




 ◇◇◇




「あら、アナタ達は、みんな、女の子だったの?」


 食堂の入り口で、昨日会った先輩達と一緒になった。俺は、どう答えるべきかわからず、目を逸らした。


「シリシリねー、今朝すごく早く起きてたよ。変な夢を見たみたい」


 スピカが、俺にギリギリ聞こえる小声で、適当な話をしている。先輩達は、慌てたらしい。まるで、昨日話した魔王のことで、俺が眠れなかったような印象を抱かせたな。


「ごめんなさい。無神経だったわ。私達は、もうすぐ街に行くから、少しピリピリしていたの。あの子は、怒ってるかしら」


「大丈夫だよ。この後は、傭兵ギルドのミッションだから、気分も変わると思うよー」


「そう、がんばってね」


「うん! ありがと」


 先輩達は、俺達とは離れた席に座った。完全に、スピカに騙されている。まぁ、俺も慣れるまでは、何度も騙されたけどな。




 朝食は、急ぐ人も多いためか、おにぎりとサラダだった。スピカは、おにぎりを見たのは初めてか。


「シリシリ、これって、腐った葉っぱ?」


「海苔だ。海藻の一種だな。手づかみで食べるんだ」


 俺が食べて見せると、スピカも真似をしている。そして、この世の終わりのような顔をした。何だ? スピカの手元をみると、赤い物が見えた。俺の方は、昆布だったが。


「毒の実が入ってた……」


「それは、梅干しだ。疲れが取れるよ」


「毒だよ。口の中がキューってなって、疲れが増えたぁ。うげぇー」


 おい、吐くなよ?



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