17、護衛の依頼は訳あり?
傭兵ギルドから戻ってくると、寮長のドムさんが、宿舎のロビーで俺達を待っていた。
「キミ達、今、傭兵ギルドに行ったのかな?」
彼は、手に携帯機を持っている。
「うん、行ったよー。食堂で会った先輩に勧められたもん。寮長に言ってから出掛けるべきだったのかなー?」
スピカが、思いっきり不思議そうな表情をして、尋ねた。事前にそんな話は聞いてない。そもそも、何も説明を受けてないからな。
「いや、連絡が来るからいいんだけどね。ただ、いきなり護衛のミッションは、キツくないか?」
「ん? わかんない。でも、クールなオジサンが、私達になら頼めるって言ってたよー」
「それ、所長だよ。キミ達が何も知らないから、押しつけたんだな。はぁ、ったく」
ドムさんは、頭をガシガシと掻いている。イラついているらしい。俺達の寮長の仕事より、開発室の仕事の方がメインなのか。シャルル様が、ドムさんは適当だと、怒っていたもんな。
「押しつけられたの? 難しいミッション?」
「まぁ、ミッションが難しいというより、護衛対象が難しいんだ。はぁ、私が付き添わないといけないのかぁ」
「どう難しいのー? 変な人なの?」
「いや、まぁ、ロッコ族だからな。キミ達はまだわからないだろうが、最終転生後は長く生きるから、みんな癖が強くなるんだよ」
スピカは、首を傾げている。おそらく、他の人が受けたがらない厄介な人を護衛するというわけか。ロッコ族なら、護衛なんて不要だと思うが……傭兵ギルドに護衛を依頼するということは、訳ありか。
明日の11時に、傭兵ギルド前で待ち合わせだったな。確か、護衛対象は3人。クリスタル鉱山までの往復を護衛するという内容だ。未開地の森を通るから、魔物が出るらしいが、護衛対象の種族は聞いていない。
「とりあえず、明日の朝、10時にここで待ち合わせようか」
「ん? 傭兵ギルド前に11時って言われたよ?」
「11時ギリギリに行くと、遅刻だと言われるからな。はぁ、私も付き添いをするよ。今夜は、私はここに居ないから、何か用事があれば、フロントに言ってくれるかな?」
「うん、わかった〜」
ドムさんは、妙にドンヨリしている。護衛対象を事前に確認しておくべきだな。
◇◇◇
「作戦会議だよっ!」
3階の部屋に入ると、スピカが張り切っていた。これが、統率者か。レイシーは、すぐに防音結界を張ったようだ。慎重だよな。
「レイシー、さっきの依頼書を見せて。僕は、噂話を集めてみるよ」
噂話を集める?
マイルは、依頼書を受け取ると、手をかざした。紙が輝き、小さな光が、窓から外へと出て行く。精霊魔法か。マイルは、ロッコ族になる前は、精霊族だったんだよな。スピカと同じように、記憶の引き継ぎをしたようだ。
「ねぇ、シリウスの名前って、有名? 名前から、魔王シリウスだってバレるかなぁ?」
スピカは、マイルに尋ねた。
「その可能性は低いと思いますよ。シリウスという名前は、少なくないです。僕の知り合いにも10人くらい居ますし」
「だよね? だから魔王には、二つ名もあるんだもんね。うーむ、でも、バレると面倒かも。あっ、シリウスがバレても平気ならいいんだけど〜」
これは、スピカの誘導だな。だが俺としても、面倒なことは避けたい。
「傭兵ギルドで、俺は、お嬢ちゃんと間違われただろ? その方が好都合だと思った。仮面の魔王は、男だと知られているからな」
俺がスピカに合わせるようなことを口にすると、スピカはニヤニヤしている。術にかかったわけじゃないからな。
「そうね。シリウスさんは、5歳くらいの姿だから、性別もわかりにくいわ。女の子の服を着れば、バレることはないわね。この使命が終わって星に戻ったとき、私達は、先輩達に簡単に見つかると思うの」
レイシーは、何を心配している?
「出発した時代に戻るからだね。一番遠い未来から来たシリウスさんやスピカさんは、僕達が知る姿で戻るわけだからね」
あぁ、そういうことか。先輩達は、俺達が出発した1058年より古い時代に戻ることになる。その後、成長して見た目も変わるだろうから、俺達は、先輩達と街ですれ違っても、気づかないかもしれないな。
「スピカちゃん、全然わかんない」
は? 悪魔族は知能が高いはずだろ。考えるのが、面倒なのか。
「そうよね。スピカさんは、始まりの宿舎にいた時間が短いものね。寮長が、先輩達とは争わないように気をつけなさいって言ってたのよ。星に戻ったとき、とんでもない噂が広がっているかもしれないからって。使命が終わったら、出発した時代に戻るでしょ? 私達より、30年以上も古い時代に戻る先輩もいるのよ」
噂を心配していたのか。
ちょっと待て。俺が魔王になって少し経った頃に、戻る先輩もいるのか。おそらく、歴史を歪めないために、直接俺に干渉することはできないだろう。だが、他の魔王を上手く誘導すれば、ミラルのような小国は……。
「俺達よりも古い時代から来たロッコ族には、俺の素性は知られたくないな」
ポツリと呟いた独り言のような声を、3人はしっかりと受け止めたようだ。
「だよねー。シリウスは、特に大きな影響を受けるかもだもんね。シリウスが治めてた国も、30年前なら、かなり混乱してたよねー」
そうだな。俺の名が知れ渡るまでは、ミラルは頻繁に、襲撃を受けていた。
「明日の護衛対象の噂が、少し集まりました。共有します」
マイルが放った不思議な光る粒が、俺の頭の中にも入ってきた。やはり、護衛は不要だな。対象は、女性3人か。護衛ではなく、話し相手というか愚痴をぶち撒ける相手が欲しいのか。あ、違うな。
「お買い物が大好きっぽいねー。ふぅん」
スピカは、小悪魔的な笑みを浮かべている。
「傭兵ギルドの人って、大半が立派な装備を身につけた男性だから、ということかしら」
「お金持ちの女性が、好みの男を買うってことじゃない? アバターを身につけていると、みんな、イービー神みたいな綺麗な顔をしてるもん」
コイツ……。
レイシーが、せっかく、ぼやかして話したのに、スピカは、お構いなしだ。マイルが共有の術を使ったのも、話しにくい内容のためだろう。
傭兵ギルドとしても、こんな利用をやめさせたいから、俺達のような子供に押しつけるのか。まぁ、ドムさんに任せればいいな。
「シリウスさんは大丈夫だろうけど、マイルは狙われそうね」
10歳前後の子供だぞ? 少年にも手を出すのか?
「マイルさんは、綺麗な顔をしてるから、女の子のフリができるでしょ。ビクビクしなければ、大丈夫だよっ」
スピカの言葉も、気休めにしかならないよな。
俺達は、少し早い夕食を食べ、それぞれの個室で、早めに寝ることにした。




