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16、傭兵ギルド

「アナタ達も、今日来たのね?」


 食後のお茶を飲んでいると、子供の姿をしたロッコ族に囲まれた。わりと強い奴もいる。俺に話しかけたように見えたが、スピカが素早く反応する。


「うん、そうだよー。この宿舎では、自分達でやることを決めなきゃいけないって聞いたけど、何をすればいいのかなぁ? まだ『日記』は読んでないの」


「基本的には、各部屋ごとでグループ行動をしているわ。この居住区での単独行動は、推奨されてないの。『日記』を読めば、やるべきことはわかるはずよ」


 スピカと話している少女は、周りを気にしながら喋っているようだ。ロッコ族の宿屋だから、気にしなくていいと思うが……。


「開かないんだもん」


「あっ、そっか。始まりの宿舎では、開かなかったわね。えーっと……」


 少女が思い出そうとしていると、別の少女が口を開く。


「傭兵ギルドで、ミッションを受ければいいよ。この町のことを知らないと、『日記』に書かれたことを理解できないと思う。すべては合理的に計算されている。確か、『日記』の解除条件は、傭兵のランクアップよ」


 傭兵のランクアップ?


「レベルじゃなくて、ランク上げをすればいいの?」


「ええ、登録ランクは、ウッドランクでしょう? 所定の条件を満たせば、アイアンランクに上がるわ。そうすれば、『日記』は開くはずよ」


 傭兵レベルではなく、登録ランクか。


「わかった。ありがとう!」


 スピカに合わせて、俺も一応、軽く頭を下げておいた。彼女達は、先輩だからな。



「あぁ、さっきのグループにも聞いたんだけど〜」


 少し強い少女が口を開いた。なぜか俺をジッと見ているが、俺は気づかないフリをする。


「なぁに?」


「この中に、最終転生前に魔王落ちしていた人はいないかな?」


「魔王落ち? わかんない。何かあったの?」


 スピカは、芝居が上手い。サキュバスだったからな。


「何かというほどでもないけど、魔王落ちしていた人は、信用できないからね」


 あっ、マイルとレイシーの視線が、俺に向いた。ふたりは素直というか、真面目だからな。当然、その質問をした彼女の視線も俺に向く。



「アナタは、魔王落ちしていたのね?」


 怨みのこもった目つきだな。俺が返事に困っていると、スピカが口を開く。


「魔王の話はしないであげて。魔王ラズキリーの軍隊に攻め込まれたことがあるみたい」


 スピカは小声だ。しかも、俺の名前は出さない。


「まぁっ、ご、ごめんなさい。嫌な思い出よね? あんな殺戮魔王に……。今のは、忘れてちょうだい。あっ、傭兵ギルドは、大通りの真ん中あたりにあるわ」


 俺達を取り囲んでいたロッコ族は、自分達の席に戻っていった。さすが、スピカだ。



「じゃあ、みんな、傭兵ギルドに行こっ!」


 スピカが元気よく立ち上がった。俺は、笑いをこらえるのに必死だ。あの少女は、俺が魔王ラズキリーに殺された経験があると思っただろう。まぁ、実際のところ、あの戦いで命をひとつ失ったけどな。




 ◇◇◇



 宿舎を出た俺達は、大通りを歩いて、傭兵ギルドへと移動した。俺が特に小さいためか、チラチラと見られる。ほとんどの人がアバターを身につけているから、種族は不明だ。未来から来たロッコ族を送り返したい連中が紛れている可能性もある。


「あっ、ここだよねー? みんな、カッコいい装備だよ。私達、追い返されないかな?」


 確かに。


 傭兵ギルドの前で、立ち止まった俺達に、迷惑そうな視線が集まる。あぁ、彼らは、俺達のことを知らないのか。ただの子供だと思われている気がする。この町にも、子供がいるみたいだからな。



 レイシーが、重そうな扉を開けた。


「おっと、なんだ、お嬢ちゃん達は? 父ちゃんを捜しに来たのなら、こんな時間にここには居ないぜ?」


「私達は、子供じゃないから」


「あはは、そうかよ。あぁ、お嬢ちゃん、孤児だったらごめんよ。傭兵ギルドなら、年齢に関係なく登録できるぜ」


 なぜか、俺が頭を撫でられた。お嬢ちゃんに見えるのか。ふぅん、それなら、その方が好都合だ。少なくとも、俺の素性はバレない。魔王シリウスの名前は知らなくても、仮面の魔王が無口で冷徹な男、だということは有名だ。



「シリシリ、行こっ!」


 は? シリシリ? 


 スピカは、俺の手を掴むと、中へ入っていく。俺の名前を出さないようにしているのか。スピカが俺をそう呼んだことで、他のふたりも目配せをしている。さっきの食堂での少女の質問が、頭に残っているのだろう。




「私達、一緒にミッションを受けたいのっ」


 スピカは、受付のカウンターで、笑みを振り撒いている。かわいい子供のフリをしているのか。


「こんな時間だと、良い依頼は残ってないけど……初めて見る顔だね。登録に来たのかな?」


「登録はあるよ。ウッドランクだって。アイアンランクにしたいのー」


 やはり、スピカは子供のフリをしている。だが、ギルド職員には、俺達がロッコ族だということは、バレているだろう。あぁ、他の人達に見せているのか。



「初めてのミッションかな? 説明をするので、カウンター内のお部屋に案内するわね。ジュース飲む?」


 職員も、子供に話すような喋り方だな。


「わぁい! 飲む〜っ!」


 スピカは、めちゃくちゃ嬉しそうな顔をして、ぴょんぴょん飛び跳ねている。サキュバスだった頃も、相手に合わせて、コロコロとキャラを変えるのが得意だったよな。


 笑顔の職員に案内され、俺達は奥の応接室のような小部屋へ移動した。




「えーっと、この居住区の子かな? それともロッコ族?」


 ジュースを持った職員と一緒に、戦闘力の高い男が入ってきた。いかにも傭兵という感じだな。多くの命を奪ってきた者に特有の冷めた目をしている。


 スピカは、ジュースに飛びついているから、俺が喋るか。


「未来から来たロッコ族です。宿にいる先輩から、傭兵ギルドでミッションを受ければいいと、教えてもらいました」


 ふっ、やはりな。彼の表情が、警戒したものに変わった。未来から来たロッコ族と聞いて、ヘラヘラしている方がおかしい。俺達の目的も知っているだろう。


「そうか。キミ達は、全員が魔導士だね?」


 俺が軽く頷くと、彼はファイルをペラペラとめくり始めた。そして、いったん通り過ぎたページに戻ると、テーブルにファイルを置いた。



「ウッドランクには任せないのだが、キミ達なら良いだろう。獲得できる経験値が高いから、このミッションひとつで、アイアンランクに上がる。どうだろうか?」


 レイシーがすぐに、依頼書らしき物に目を通している。


「明日の鉱山への移動の護衛ですか。転移魔法は使わないのかしら」


「クリスタル鉱山だからね。魔法厳禁なんだ。少し離れた森の中に転移小屋はあるが、逆に時間がかかる。途中の森は、自由に魔法を使ってもらって構わない」



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