15、悪役令嬢の役割があるという
「俺に与えられた能力は、意味不明なんだ」
「何て書いてあったのー? スピカちゃんなら、わかるかもしれないよ」
3人の視線が、一気に俺に集まる。俺が魔王だったという暴露話を聞いたことで、マイルは親しげな表情に変わったが、レイシーは、まだ引きつっている。
「オトメンって、何?」
「へ? シリウスはそんなことも知らないのー? 女子力の高い男の人のことだよ」
は? 女子力の高い男? 俺が首を傾げていると、マイルが口を開く。
「この人工星で制作されるゲームは、配信済みなのはアクションゲームや乙女ゲームばかりだけど、乙男ゲームも制作中らしいですよ。シリウスさん達が合流する前に、寮長から説明がありました」
「女性が好きそうなことを好む男性のことを、オトメンって呼ぶよ。乙女ゲームをプレイする男性って意外に多いみたいだし、定義はかなり広いと思う」
レイシーも、まだぎこちないが、会話に参加してきた。ロッコ族にありがちな魔王に対する偏見というより、仮面の魔王に関する噂を聞いていたから、俺が怖いのかもしれない。
「シリウス、それで、シャルル様から与えられた能力って、何なのー?」
「オトメン……」
「ん? オトメンの話でごまかさないでよーっ。昼食時間が終わっちゃうよー」
コイツ……。
「だから、オトメンだって!」
あっ、しまった。キツイ言い方をしたせいで、3人同時に、目を見開いて固まっている。そんなに仮面の魔王が怖いのか。魔王ラズキリーの名前を出したのは、失敗だったかもしれない。
「シリウス、みんなで昼食を食べに行こ〜」
「そ、そうね。昼食は、14時までに食堂に入らないといけないみたいだわ」
ん? 急に何だ? 話を変えたのか。
「始まりの宿舎とは違って、毎日の行動は、自分で決めないといけないみたいですよ。行きましょう」
◇◇◇
食堂は、1階にあった。
俺達が入り口に立つと、従業員が首を傾げ、中へと促す。今日来たばかりだとは気づいてないらしい。子供の姿をしているロッコ族は、見分けがつかないのか。
「あのー、私達、さっき来たばかりなの。どこの席に座ってもいいの?」
さすが、動じないスピカだ。
「まぁ、ごめんなさい。さっき、5人くらいのグループが来られたから、勘違いしていたわ。今日は、2室でしたね。ご案内します」
従業員は、少し慌てている。
初めて来たロッコ族は、集団行動をするものなのだろう。始まりの宿舎では、すべての食事は、一緒に食べていたからな。
いろいろと説明しているようだが、俺は、食堂の中を見回していた。俺のこの姿は、便利だ。話を聞かずに、キョロキョロしていても、特に警戒されることはない。
かなり広い食堂だ。4人掛けのテーブル席が多いが、半分の2人で使っている。2人掛けは、おひとり様か。
大人の客の方が圧倒的に多いが、未来から来たロッコ族には、見慣れているのだろう。チラッと視線を向けた後は、無関心だ。逆に、子供の姿をしている人達の方が、俺達をチラチラと見ている。キョロキョロしている俺は、やたらと見られる気がした。小さいからか。
「シリウス、こっちだよー。チビっ子の席が埋まってるみたいなんだけど、大丈夫かな?」
スピカが、椅子の横に立っていた。椅子には、座布団が重ねられている。従業員が持ってきたらしい。
「大丈夫だ。スピカは、座れよ」
俺は、バランスの悪い椅子に座った。グラグラする。浮遊魔法を使おうかと思ったが、ロビーに貼ってあった館内案内に、共用部での魔法の使用禁止のお願いがあったことを思い出した。仕方ない。
子供用の席は、全然足りないのだろう。3階には、20室の部屋があるが、この食堂には、低いテーブル席は、窓際の5つだけのようだ。
「シリウスは、ちっちゃいから、背の高い椅子があればいいねー。後で、ドムさんにお願いしてみる?」
「は? 俺だけが小さいわけじゃないだろ?」
「シリウスさんが、ダントツで小さいですよ。それだけ、成長の余地があるということですよね」
マイルにそう言われると、反論できなくなる。スピカになら、言い返せるんだけどな。
「随分と小さな子がいるわね。その椅子では、食事どころじゃないでしょう。ちょっと、貴女! 創造魔法はできるかしら?」
突然現れた女性に、俺は驚いた。アバターを身につけているのだろうが、恐ろしく魔力が高い。それに、服装も特徴的だ。高そうなドレスを着ている。
「すみません、難しいですね」
「じゃあ、私が使うわ。文句は言わせないわよ?」
従業員が頷くと、その女性は魔力を放った。俺の横に、お子様用の椅子が4つ現れた。そのうちのひとつは、明らかに俺専用だな。
「ありがとうございます。皆さん、椅子を入れ替えますね」
俺達が立つと、従業員が椅子を入れ替えていく。俺以外も、座布団を重ねていたようだ。
「これくらいの準備は、事前にやっておきなさいよ。見に来てみて、よかったわ。ドムさんは、本当に適当なんだから! ん〜、少し高かったかしら? ちょっと失礼」
はい? 俺は、ひょいと持ち上げられ、俺専用の椅子に座らされた。俺は、こんなお嬢さんに持ち上げられるほど軽いのか。
「あら、キミは魔力が高いわね。高さが合わなくなってきたら、自力で調整してちょうだい」
ポンポンと頭を軽く叩かれて、俺はハッとした。このお嬢さんは……この魔力は……。
「ありがとうございます、シャルル様」
俺がそう言うと、彼女は目を見開いた。
「へぇ、キミは、未来の私の魔力を記憶していたのね。だけど、ここでは身分差はないの。それに、今の私は、キミ達を知らないわ」
「はい、理解しています」
「それなら、いいわ。あー、それと、私は、街では悪役令嬢を演じているからね。未来の私とは、全く別人だと思ってちょうだい。じゃあねー」
俺が頷くと、シャルル様は、ふわっと笑った。大神官シャルル様とは全く違う姿だが、同一人物なのだと感じる。
「シリウス、すごぉい! どうしてわかったの?」
「持ち上げられたし、頭に触れられたから、さすがにわかる」
「なるほど、そっかぁ。スピカちゃんも、シャルル様に頭ポンポンされたいな〜」
俺達の声が聞こえたのか、少し離れた席にいるロッコ族も、食堂から出て行くシャルル様を、ジッと見ていた。
しかし、悪役令嬢か。嫌な役割だろうな。だが、街では大事な役割かもしれない。
運ばれてきた昼食は、町中華の定食のような料理だった。結構、美味い。
箸を使って、炒め物を食べていると、スピカが俺の真似を始めたようだ。しかし、そのうち、ぶっ刺し始めた。それなら、フォークを使えよ。
俺が無言でフォークを渡すと、スピカは、ブスッと膨れっ面をして受け取った。ふっ、ガキかよ。




