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15/17

15、悪役令嬢の役割があるという

「俺に与えられた能力は、意味不明なんだ」


「何て書いてあったのー? スピカちゃんなら、わかるかもしれないよ」


 3人の視線が、一気に俺に集まる。俺が魔王だったという暴露話を聞いたことで、マイルは親しげな表情に変わったが、レイシーは、まだ引きつっている。



「オトメンって、何?」


「へ? シリウスはそんなことも知らないのー? 女子力の高い男の人のことだよ」


 は? 女子力の高い男? 俺が首を傾げていると、マイルが口を開く。


「この人工星で制作されるゲームは、配信済みなのはアクションゲームや乙女ゲームばかりだけど、乙男(オトメン)ゲームも制作中らしいですよ。シリウスさん達が合流する前に、寮長から説明がありました」


「女性が好きそうなことを好む男性のことを、オトメンって呼ぶよ。乙女ゲームをプレイする男性って意外に多いみたいだし、定義はかなり広いと思う」


 レイシーも、まだぎこちないが、会話に参加してきた。ロッコ族にありがちな魔王に対する偏見というより、仮面の魔王に関する噂を聞いていたから、俺が怖いのかもしれない。



「シリウス、それで、シャルル様から与えられた能力って、何なのー?」


「オトメン……」


「ん? オトメンの話でごまかさないでよーっ。昼食時間が終わっちゃうよー」


 コイツ……。


「だから、オトメンだって!」


 あっ、しまった。キツイ言い方をしたせいで、3人同時に、目を見開いて固まっている。そんなに仮面の魔王が怖いのか。魔王ラズキリーの名前を出したのは、失敗だったかもしれない。



「シリウス、みんなで昼食を食べに行こ〜」


「そ、そうね。昼食は、14時までに食堂に入らないといけないみたいだわ」


 ん? 急に何だ? 話を変えたのか。


「始まりの宿舎とは違って、毎日の行動は、自分で決めないといけないみたいですよ。行きましょう」




 ◇◇◇




 食堂は、1階にあった。


 俺達が入り口に立つと、従業員が首を傾げ、中へと促す。今日来たばかりだとは気づいてないらしい。子供の姿をしているロッコ族は、見分けがつかないのか。


「あのー、私達、さっき来たばかりなの。どこの席に座ってもいいの?」


 さすが、動じないスピカだ。


「まぁ、ごめんなさい。さっき、5人くらいのグループが来られたから、勘違いしていたわ。今日は、2室でしたね。ご案内します」


 従業員は、少し慌てている。


 初めて来たロッコ族は、集団行動をするものなのだろう。始まりの宿舎では、すべての食事は、一緒に食べていたからな。


 いろいろと説明しているようだが、俺は、食堂の中を見回していた。俺のこの姿は、便利だ。話を聞かずに、キョロキョロしていても、特に警戒されることはない。


 かなり広い食堂だ。4人掛けのテーブル席が多いが、半分の2人で使っている。2人掛けは、おひとり様か。


 大人の客の方が圧倒的に多いが、未来から来たロッコ族には、見慣れているのだろう。チラッと視線を向けた後は、無関心だ。逆に、子供の姿をしている人達の方が、俺達をチラチラと見ている。キョロキョロしている俺は、やたらと見られる気がした。小さいからか。



「シリウス、こっちだよー。チビっ子の席が埋まってるみたいなんだけど、大丈夫かな?」


 スピカが、椅子の横に立っていた。椅子には、座布団が重ねられている。従業員が持ってきたらしい。


「大丈夫だ。スピカは、座れよ」


 俺は、バランスの悪い椅子に座った。グラグラする。浮遊魔法を使おうかと思ったが、ロビーに貼ってあった館内案内に、共用部での魔法の使用禁止のお願いがあったことを思い出した。仕方ない。


 子供用の席は、全然足りないのだろう。3階には、20室の部屋があるが、この食堂には、低いテーブル席は、窓際の5つだけのようだ。



「シリウスは、ちっちゃいから、背の高い椅子があればいいねー。後で、ドムさんにお願いしてみる?」


「は? 俺だけが小さいわけじゃないだろ?」


「シリウスさんが、ダントツで小さいですよ。それだけ、成長の余地があるということですよね」


 マイルにそう言われると、反論できなくなる。スピカになら、言い返せるんだけどな。




「随分と小さな子がいるわね。その椅子では、食事どころじゃないでしょう。ちょっと、貴女! 創造魔法はできるかしら?」


 突然現れた女性に、俺は驚いた。アバターを身につけているのだろうが、恐ろしく魔力が高い。それに、服装も特徴的だ。高そうなドレスを着ている。


「すみません、難しいですね」


「じゃあ、私が使うわ。文句は言わせないわよ?」


 従業員が頷くと、その女性は魔力を放った。俺の横に、お子様用の椅子が4つ現れた。そのうちのひとつは、明らかに俺専用だな。


「ありがとうございます。皆さん、椅子を入れ替えますね」


 俺達が立つと、従業員が椅子を入れ替えていく。俺以外も、座布団を重ねていたようだ。


「これくらいの準備は、事前にやっておきなさいよ。見に来てみて、よかったわ。ドムさんは、本当に適当なんだから! ん〜、少し高かったかしら? ちょっと失礼」


 はい? 俺は、ひょいと持ち上げられ、俺専用の椅子に座らされた。俺は、こんなお嬢さんに持ち上げられるほど軽いのか。


「あら、キミは魔力が高いわね。高さが合わなくなってきたら、自力で調整してちょうだい」


 ポンポンと頭を軽く叩かれて、俺はハッとした。このお嬢さんは……この魔力は……。


「ありがとうございます、シャルル様」


 俺がそう言うと、彼女は目を見開いた。


「へぇ、キミは、未来の私の魔力を記憶していたのね。だけど、ここでは身分差はないの。それに、今の私は、キミ達を知らないわ」


「はい、理解しています」


「それなら、いいわ。あー、それと、私は、街では悪役令嬢を演じているからね。未来の私とは、全く別人だと思ってちょうだい。じゃあねー」


 俺が頷くと、シャルル様は、ふわっと笑った。大神官シャルル様とは全く違う姿だが、同一人物なのだと感じる。




「シリウス、すごぉい! どうしてわかったの?」


「持ち上げられたし、頭に触れられたから、さすがにわかる」


「なるほど、そっかぁ。スピカちゃんも、シャルル様に頭ポンポンされたいな〜」


 俺達の声が聞こえたのか、少し離れた席にいるロッコ族も、食堂から出て行くシャルル様を、ジッと見ていた。


 しかし、悪役令嬢か。嫌な役割だろうな。だが、街では大事な役割かもしれない。



 運ばれてきた昼食は、町中華の定食のような料理だった。結構、美味い。


 箸を使って、炒め物を食べていると、スピカが俺の真似を始めたようだ。しかし、そのうち、ぶっ刺し始めた。それなら、フォークを使えよ。


 俺が無言でフォークを渡すと、スピカは、ブスッと膨れっ面をして受け取った。ふっ、ガキかよ。



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