14、個別能力と魔王になった話
「シリウス、ふたりとも大丈夫だよ〜。あのことを話してもいいんじゃない?」
マイルの頭から手を離すと、スピカは妙なことを言った。何の話だ? 俺は、自然と首を傾げる。
「何かを暴露するってこと? ちょっと待って」
レイシーは、手から魔力を放った。防音結界か。彼女は、慎重だよな。スピカとは真逆だ。
「もういい? 私から話すね。シャルル様の『日記』の最後に、個人宛てのお願いがあったよね? 私には、信じた仲間を守ってくださいって、書いてあったの」
大神官シャルル様の『日記』の最後?
俺の場合は、最後のページには、魔王に殺された経験のある人がいると記されていた。あとは、与えられた個別能力が、意味不明なオトメンということくらいだ。
「スピカさんは、サポート役なのね。マイルも同じみたい。私は、スープラットの厄災を阻止するようにと、締めくくられていたわ」
あっ、俺も、同じだ。
「レイシーさんの役割は、アタッカーね。シリウスも同じだよね? どう考えても、ちっこいシリウスは、今より強くなるもん」
「俺も、スープラットの厄災を阻止してください、と書かれていたが……与えられた能力はよくわからない」
オトメンって何だ?
「個別能力? 私は、統率者だったよー。たぶん、仲間をまとめる能力だと思う〜。責任重大なのかもって、ちょっと怖くなってた」
スピカが統率者? それってリーダーだよな? まぁ、相手が誰でも動揺しない性格は、リーダー向きか。
「僕は、救護者でした。逃げたくても、仲間がいたら逃げられないらしい。だけど、即死状態のダメージを受けた人の、命を減らさないことができる能力だとわかった。だから、僕が適任なんだと思う。僕は攻撃魔法より、治癒魔法の方が得意ですからね」
マイルは救護者か。それで、あんなに震えていても、中庭から逃げなかったんだな。
「私は、暴君だって。確かに、神による転生の前は、他人に注意なんて出来なかった。だけど、暴君というイメージとは違う気がしてるの。なんだか、正義感を振りかざす変な人みたいな感じで、すぐに対立してしまうわ。私の心の中と、口から出る言葉が違うの」
レイシーが暴君? 暴君というより、真面目な委員長のような感じだ。そうか、大神官シャルル様が与えた個別能力は、個人の弱点や欠点を補う能力か。
そう考えると、スピカが統率者というのも納得できる。サキュバスだった頃の彼女は、いろいろなことを引っかきまわすタイプだったからな。
「シリウスは?」
「へ? あ、俺?」
ちょっと待て。3人が俺を見ている。スピカには、見えるんじゃないのか? いや、違うな。サキュバスの能力は、個体差もあるだろうが、記憶そのものではなく、価値観や感覚を覗くものだ。
「うん、みんなで共有する方が、これからの作戦に役に立つはずだよ。あっ、シリウスが、大聖堂に行く前のことも、話して大丈夫だよ。オルフルさんが話しちゃダメって言ってたのは、他の人達のことだと思うよ」
あぁ、魔王だった話か。
「もしかして、そのためにスピカは、マイルさんの考え方を調べたのか?」
「うん、そうだよー。考え方とはちょっと違うんだけど、そこは秘密だからね〜」
まぁ、話しにくいのだろうな。スピカが妙な言い方をするから、レイシーが怪訝な表情だ。暴君、発動か?
「じゃあ、レイシーさんとマイルさんにも、話しておく。スピカは、神による転生の前から知っているからな」
俺が話し始めると、ふたりは神妙な表情で頷いた。そこまで大袈裟なことではないのだが。
「マイルさんも経験あると言っていたが、俺は、幼い頃、悪魔系の魔物に、しつこく狙われた。そのときに会った魔族の婆さんに、女のフリをすればいいと教えられた。彼女が、髪を伸ばす魔法で、今の姿のように変えてくれたことで、俺は生き延びることができたんだ」
そこまで話して、ふたりの反応をチラッと見た。同じような同情的な表情をしている。少し似てるな。
「俺が、それなりに戦えるようになった頃、その魔族の婆さんが住む国が、他国から侵略を受けて、王やその親族がすべて討たれた。そのときに婆さんに頼まれて、俺が侵略者を追い払ったんだ」
「魔族の戦乱に利用されたの? あ、ごめんなさい。続けてちょうだい」
レイシーは、そういう反応か。確かに利用されたのかもしれない。
「知り合いからも、同じことを言われた。そう言われることには慣れている」
「シリウスさん、それがどこの国の話か、聞いても大丈夫ですか?」
マイルは、丁寧だな。
「あぁ、ミラール山系にある小国ミラルだ。攻め込んで来たのは、ラズキリーの軍隊だった」
「ええ〜っ? 魔王ラズキリーの軍隊を蹴散らしたなんて、スピカちゃん、初耳だよぉ〜」
コイツ……。
「魔王ラズキリーが、隠していたんじゃないか? 無敗の魔王、という二つ名に傷がつくからな」
まぁ、俺としても、ひとりで撃退したわけじゃない。ミラルに住む魔族にも、少なくない犠牲が出た。ギリギリ撤退させることができたのだと思う。
「なるほど。シリウスさんが剣術ができる理由がわかりました。ミラール山系には、魔法が効かない魔物も多い。魔王ラズキリーは、だから、ミラール山系を手に入れたかったのでしょうね。あの魔王が隷属国を増やしているのは、使い捨てにできるからです」
へぇ、詳しいんだな。
「魔王ラズキリーといえば、精霊族の敵だよねー。悪魔族とも敵対してたけど〜」
スピカがお気楽な声を出すと、レイシーは、ハッとした表情をした。聖都から出たことがないなら、魔王ラズキリーのことも知らないかもな。
「シリウスさんは、あんな殺戮魔王の軍隊と戦ったの? ってことは、シリウスさんは、まさか、仮面の魔王?」
あー、二つ名がバレたか。
「あぁ、そう呼ばれていたな。俺は、小国ミラルを治める魔王だった。ちゃんと後継者を育てたから、ミラルも、しばらくは安泰だと思う」
「魔王落ち……いえ、恩のある魔族を助けたのね」
やはり聖都にいると、魔王落ちという言葉が出てくるよな。まぁ、もう慣れたが。
「シリウスが魔王だったことは、内緒にしたいのー。ロッコ族は、魔王だった人をバカにするからねっ」
スピカの理由は、正しいとは言えないが、説得力はある。レイシーは引きつっているが、マイルは逆に親しげな表情をして口を開く。
「わかった。秘密にしよう。シリウスさんは、冷徹で残酷だと言われている仮面の魔王のイメージとは、全然違いますね。魔王になった理由も違う。仮面の魔王が、前魔王を討ったと聞きましたよ」
「魔王ラズキリーが、そういう噂を流したんじゃない? それで、シリウスに与えられた能力って何?」
チッ! スピカが話を戻しやがった。




