13、アバターのこと
「ここが、キミ達の宿舎だ。私は、開発室に所属しているが、ここの寮長も兼任している。よろしくな」
俺達を迎えに来たドムさんが、寮長らしい。それで、ここに入る前に大通りを案内、いや、連れ歩いたんだな。新たなロッコ族が来たことを、あの通りの人達に見せたのだろう。
「ドムさんが寮長なのー? アバターを着てるのに?」
「私は、あちこちに行くからな。ゲーム舞台となる街では、アバターの着用が強制されるから、だいたい身につけている。あぁ、本当の姿も見せておくよ」
ドムさんの身体は、真っ白な強い光に包まれた。光が収まると、確かにロッコ族の特徴である金色の目をしていた。
アバター着用時には気にならなかったが、ロッコ族の姿に変わると、彼の戦闘力が非常に高いことがわかる。アバターは、本来の戦闘力を隠すことができるのかもしれない。
「アバターは、体内に収納できるから、着脱可能だ。ただ、着脱には少なくない魔力量が必要だから、あまり自由に切り替えられないけどね」
「私達も、アバターを入手できるの?」
「ゲーム舞台となる街に行くなら、傭兵ギルドで、アバターを作れる。また、開発室のミッションを受けるなら、依頼者が用意するよ」
傭兵ギルドと開発室か。
「どっちがいいの?」
「それは、キミ達の考え次第だな。開発室のミッションは、最長で30日かかるが、街の滞在者になれる。傭兵ギルドでアバターを作ると、ギルドにミッションを依頼される。この場合は、観光客扱いだ」
滞在者と観光客?
「よくわかんないよー」
「ふっ、シャルルさんの日記を読めば、どちらがいいかわかると思うよ。始まりの宿舎では、まだ開かなかっただろう? ここにいれば、そのうち開く。どちらが良いかは、個人ごとに違うと思う。どこを調査するかによって、必要な役割が異なるからね」
大神官シャルル様の『日記』か。まだ開けない状態なのは、俺に必要な条件が整ってないからだな。
宿舎は、石造りの大きな宿屋に見えた。ロッコ族には馴染みのある建物だろう。俺がいた小国ミラルには、こんな建物はなかった。険しいミラール山系にある国だから、高い建物は少ないし、ほとんどが木造の小屋だったからな。
ドムさんは、宿舎の中へと入っていく。
入り口の扉の先は、宿屋のようなフロントと広いロビーがあった。数人の従業員がいるようだ。皆、アバターを着用しているから、ロッコ族かはわからない。
「新たなチビっ子を預かってきたよ。9人だから、1室では無理だね」
フロントのカウンターから、男性が出てきた。
「そうですね。未来から来たロッコ族の人達に用意した部屋は、最大利用人数は7人ですので、2室になりますね。残り人数が2人以下になれば、先に来た人達の余裕枠に合流してもらいますが」
先に来た人達に合流? なるべく詰め込みたいのか。俺達の宿舎だと説明されたが、ロビーには、宿泊客への館内案内が貼ってある。3階は、長期滞在用の大部屋か。
「街からロッコ族を集めているんだったな。彼らも、ここを利用するのか」
「はい、未来から来たロッコ族の世話係は、この宿に宿泊しますし、ロックダム王国の人達を避けたい人が、この町に移住し始めていますからね」
ロックダム王国?
「ふぅん、イービー星の協力国か。そういえば、開発室に近い居住区は、半分以上が占拠されたらしいね」
イービー星? ってことは、イービー神だ。だが、俺の記憶には、ロックダム王国という国はない。まぁ、有名な国しか知らないからな。
「ドムさん、そんなことより、早くグループ分けをしてください。もうすぐチェックアウト時間だから、混み始めるので」
フロントの男性に叱られ、ドムさんはニヤッと笑った。寮長だというドムさんの方が、フロントの男性よりも立場が上ではないのか?
そういえば、オルフル様が話していたな。この人工星では、身分差は存在しないと。上下関係を無くしているのかもしれない。
「じゃあ、チビっ子たちは、ふたつに分かれてくれ。部屋の中には、個室の寝室はあるが、リビングは共用だ。仲の悪い人とは同室にならない方がいいからな」
ドムさんがそう言うと、俺の腕をスピカが掴んだ。スピカは、キャンプ場で同じグループになったレイシーの腕も掴んでいる。
そして、他の人達は、何か相談を始めた。人数が減って、知らないグループに合流するのは嫌だという声が聞こえてくる。それなら、6人と3人でもいいか。
「僕が、レイシーの方に入るよ。さすがに3人だと、1人が強制送還されただけで、先輩の部屋に合流だからね」
あっ、瀕死のレイシーに治癒魔法をかけていた男だ。それに、俺と同じく、幼少期にあの魔物に狙われた経験があると言っていたな。
「よし、じゃあ、これでグループ分けはいいな? 携帯機を出してくれ」
俺達の部屋は、320号室か。3階の20号室という意味だろう。もうひとつのグループは319号室。隣か向かいだな。これも、前世の知識だな。皆は、320室もあるのかと驚いている。
◇◇◇
「わぁっ! 端っこの部屋だぁ〜」
3階は、全部で20室のようだ。俺達で、もう空きが無くなったのかもな。それで合流の話が出たのか。319号室は向かいの部屋だから、どちらも角部屋だ。
部屋の中に入り、俺はすぐに鍵を閉めた。
「始まりの宿舎より、広いねー。寝室は、どこにする?」
スピカは、すべての部屋を開けていく。落ち着きのない奴だな。一方、レイシーは、テーブルに置いてあるファイルを確認している。真逆なふたりだ。
「マイル、全体にクリーンをかけて」
「わかったよ。レイシーは匂いに敏感だね」
彼は、マイルという名前なのか。レイシーは、スピカが開け放した寝室の扉を、さらに大きく開けていく。すべてを開け終えると、彼は魔力を放った。ふわっと草の香りが広がる。精霊系の魔法だな。
「わぁい、いい匂いになったねー。えーっと、マイルさん? 私はスピカ。ちっこいのはシリウスだよ」
「あぁ、自己紹介をしてなかったですね。僕は、マイルです。スピカさん、シリウスさん、よろしくお願いします」
真面目だな。
「うんっ! よろしくねっ。あの、ちょっと、頭の中を覗いてもいいかな? 同じ部屋だから、隠し事をしなきゃいけないか、見極めたいの。スピカちゃんは、ロッコ族になる前は、悪魔族だったのー」
「えっ? あ、うん、構わない。僕の頭の中だけを見るのかな」
「シリウスとレイシーさんは、もう見たもん。でも、マイルさんは、ロッコ族になる前は、精霊族でしょ? だから、許可なく見れないのー」
コイツ……。
「わかった。見ていいよ。悪魔族なら、秘密厳守だよね?」
「うん、任せてっ。じゃあ、いっくよ〜」
スピカは、マイルさんの頭をガシリと掴んだ。




