12、ロッコ族の宿舎へ
「皆さん、おはようございます。9人全員合格ですね。朝食後に迎えが来ますから、忘れ物がないようにしてください」
翌朝、朝食を食べているときに、寮長が合格発表をした。少しザワついたが、俺は今、パンケーキを食べるのに忙しい。
俺は、食堂に来る前、スピカを待っている間に、『評価』を開いて、結果を確認済みだ。500問の試験は、いくつかタッチミスをした記憶があるが、正答率95%以上のS評価だった。80%以上がA評価、60%以上がB評価で、このB評価が合格ラインらしい。2択や3択だったのに、甘い試験だ。
スピカは、A評価だったらしい。他の人の半分以下の勉強時間だから、かなり優秀だと言えるだろう。
「皆さん、次の宿舎は、小さな町にあります。開発室の人達が暮らす居住区のひとつです。皆さんのような未来から来たロッコ族だけでなく、様々な人が滞在していますからね」
寮長は、皆の顔を、ひとりずつ確認するように見ている。別れが寂しいのだろうか。
「その町にいる人達は、皆さんが未来から来たことを知っています。ですが、未来のことを尋ねられても、話さないようにしてください。イービー星の一部の人になら構わないですが、判別が難しい場合は話さない方がいいです」
オルフル様から聞いたことだ。
イービー星から来ていても、セルフィア王国以外の人には、未来のことは話さないようにと言われていた。
この話は、俺とスピカは、こないだ聞いたばかりだが、それ以外の人達は、10日以上前のことだろう。首を傾げている人もいるようだが、大丈夫か?
「迎えが来たようですね。皆さん、次に会えるとしたら、別の未開地か街だと思います。街ではアバターを着用しますが、私は、この姿とほとんど同じアバターです。お会いできたら、カフェでお食事でもしましょうね」
寮長は、やはり名残惜しそうだな。俺は、一応頷いておいた。半数程度しか頷いていない。それでも、寮長は満足げに見えた。
迎えって、イービー神なのか!?
食堂に入ってきたのは、20代前半に見える男性だが、オルフル様と似た美しい顔立ちをしている。だが、オルフル様の頭にあった突起のようなモノは見えない。
「今回のチビっ子は、9人か。おはよう。私は、開発室のドムだ。あぁ、何人か驚いた顔をしているな。この姿はアバターだよ。キミ達と同じロッコ族だ。アバターは、イービー星の技術を使っているため、イービー星の住人に似た外見になるんだよ」
イービー神のような姿になるアバター!? なんて畏れ多いんだ。そうか、それがアバターを着用して観光する、一番の人気の理由かもな。思いっきり美形だ。
「じゃあ、寮長、チビっ子たちを預かっていくよ」
ドムさんはそう言うと、パチンと指を弾いた。俺達は、転移魔法の光に包まれた。
◇◇◇
俺達が到着したのは、大きな門の前だった。後ろは森だな。複数の門番がいるし、門の付近には、結界バリアがあるようだ。森からの魔物の侵入を防いでいるのか。
「未来から来たチビっ子だよ。今回は9人だ。たぶん、これで最終だと思うぜ」
ドムさんは、慣れた様子で、門番に話している。この門番も、アバターを着用しているようだな。
そういえば、アバターには、言語変換能力があると聞いた。俺達は、大神官シャルル様からその能力を与えられているが、普通なら、種族が違えば、言葉がわからないはずだ。それで、アバターを着用しているのかな。
「キミ達、携帯機を手に持ってくれるかな? 滞在許可証を渡すよ」
かなり監視が厳しいらしい。俺は、手の上に携帯機を出した。すると、新しいアイコンが増えた。『宿屋』と書いてあるが、滞在許可証じゃないのか?
「キミ達の携帯機に、『宿屋』が追加されているかな?」
「うん、あるよー。この門を通るときに、これを見せればいいの? 『宿屋』を開いても、何も出ないよ?」
「見せる必要はない。門を通るときに、勝手に読み取るからな。上の方に、ロッコ族の宿舎、と書かれているだろう? 部屋が決まれば、その画面には鍵のマークと部屋番号が表示されるよ」
へぇ、便利だな。俺は一応、『宿屋』を開いてみた。確かに何も表示されてないように見えるが、上には、ロッコ族の宿舎、と書かれている。宿泊する宿屋の名前が出るのかもしれないな。
しかし、ロッコ族の宿舎か。俺達より先に派遣された人達がいるのだろう。大神官シャルル様からのメッセージを思い出し、俺は気を引き締めた。魔王に殺された経験のある人がいるんだったな。
「おい、チビっ子、町に入るぞ」
は? 俺を見て言ったな? まぁ、一番小さいのは確かだが、わざと怒らせようとしたのか、ニヤついたその表情にも悪意を感じた。
俺は、軽く頷き、門をくぐる。
すると、彼は意外そうな表情をしていた。やはり、俺を挑発していたらしい。その意図はわからないが……いや、そういうことか。この中で一番戦闘力の高い俺をボスだと考えて、試したんだな。
「わぁっ! シリウス〜、ここって聖都に似てるんじゃない? すごく綺麗だね〜」
スピカのテンションが上がっている。
「そうか? 俺は、大聖堂付近しか知らないからな」
「スピカさんが言っているのは、大通りが狭いということじゃないかしら? 空には何も通ってないから、聖都とは大違いね」
レイシーが空を見上げていたから、俺もそれに釣られた。よく晴れた青空だ。大通りは多くの人が歩いている。
そういえば、聖都の空は、乗り物で交通渋滞が起こっていたか。大聖堂付近は、転移魔法が使えないためだと思っていたが、確かに、乗り物が通れる道幅じゃなかったな。
「そっかぁ。空が大渋滞するから、大聖堂に行くときは、転移魔法が使える人に頼む方がいいって、言われたかも」
「聖都ミルズは、どこも道が細いから、歩行者しか通れないのよ。だから、乗り物は空を飛んでいるわ。空が青いなんて、聖都じゃないわね」
レイシーのドヤ顔は、無自覚だろうか。スピカは、素直に頷きながら聞いているが。
俺は、『地図』を見ながら、歩いていた。目的地の宿舎は、この居住区の門に近い場所にある。だが、ドムさんは、大通りの端まで歩いて行った。
「チビっ子たち、買い物をするときには、今の大通りで、だいたいの物が揃う。この町の商業地だ。慣れるまでは、あまり居住区の中に入り込まない方がいい。命が減るかもしれないぜ」
「命が減るの? どうして?」
「未来から来たロッコ族を、すべて殺そうとしている連中がいるんだよ。もう何人も、それで強制送還が発動してる。じゃ、宿舎へ行くぞ」
なぜ、俺達を追い返したいんだ?
怯えた表情をしたチビっ子たちを先導して、ドムさんは、大通りを戻って行った。




