2、星の門、ラグ塔
『こちらは、星の門、ラグ塔の最上階です。案内が参ります。そのまま、動かずにお待ちください』
機械音のような念話が聞こえた。無事に人工星に到着したらしい。
周りを見回すと、広い部屋の壁は全面ガラス張りだった。見上げると星が見える。塔の最上階にしては、あまりにも無防備だな。隕石が降ってくると、簡単に砕けそうだ。
俺達以外にも、多くの人の姿がある。見たことのない種族ばかりだ。人とは呼べないような種族もいる。この人工星には、様々な星から集まってくるのか。
「ねぇねぇ、魔王シリウス〜、すっごく見られるんだけど〜。スピカちゃんが可愛いからかな? 可愛すぎるのかなー?」
コイツ……。
「おまえなー、動き回るなよ。ジッとしてろという念話が聞こえなかったのか?」
「だって、暇なんだもん。どうして動いちゃいけないのー? ひゃっ!」
スピカは、俺の周りをチョロチョロと動き回っていたが、パッと後ろに飛び退いて、ファイティングポーズをした。そのせいで、新たに到着した人にぶつかりそうになったようだ。
「床全体に転移魔法陣が描かれている。動き回ると、新たに到着する人と接触事故が起こるぞ」
「先に言ってよ。びっくりしたよーっ!」
ブンブンと両手を振る彼女は、完全にガキだな。まぁ、神による転生で、見た目は10歳前後の少女になっているが。
「お待たせしたね。キミ達は、シャルルさんの日記を持っているかな?」
俺の背後に、突然、人の気配がした。スピカに気を取られていたとはいえ、転移魔法の兆しに気づけなかったことに、俺は強いショックを受けた。
「ん? この本のことかなー? シャルル様の日記なのー? でも、開かないよ〜」
後ろを振り返った瞬間、俺は、強い恐怖心に襲われた。俺の本能が、この男はヤバイ、逃げろ、と叫んでいる。異常な魔力量を持つバケモノだ。こんな奴が存在していいのか? スープラットの厄災が、こんなバケモノによって引き起こされるなら、俺にはどうすることもできないぞ。
「ふふっ、二人は対照的だね。私は、イービー星セルフィア王国の魔導大使オルフルだ。未来のロッコロッコ星から来た者達を見極める役割がある。とりあえず移動しようか」
は? イービー星? イービー神の星? セルフィア王国といえば、イービー星の中で序列1位の最強国じゃないか。俺達の星をロッコロッコ星と呼ぶのも、イービー神の特徴だ。
俺の目の前に、イービー神がいる!
あまりの驚きで、意識が飛びそうになったとき、目に見える景色が変わった。転移魔法か? 魔法の光どころか浮遊感もなく移動できるなんて……イービー神なら当たり前か。
だが、彼のような神がいるのに、なぜ爆発するんだ。あっ、爆発するのは、別の人工星か?
「わぁい、クッキーがある〜」
スピカのお気楽な声で、俺は、ハッと現実に引き戻された。彼女は、勝手にソファに座って、菓子皿に手を伸ばしている。毒が入っている可能性を考えないのか?
「キミも、座ってくれ。シャルルさんが時間を遡って移動させたはずだが、他のロッコ族は、数日前までには到着している。出発したのは、イービー暦でいえば何年かな?」
俺は、ガチガチに固まっていて動けない。子供の身体に転生したばかりだから、状態異常を起こしたか。
「イービー暦の、ん〜と、たぶん1058年だよー」
俺に質問されたのに、クッキーをぽりぽりとかじるスピカが答えた。俺は、なんて情けないんだ。
「なるほど、それで到着が数日ズレたのだな。今、キミ達がいるこの星は、人工星スープラと呼ばれている。イービー暦は999年だ。その日記にも書いてあるはずだが、イービー暦1005年に、この人工星は爆発する」
イービー暦999年? 俺が生まれた年だ。今は、スープラットの厄災が始まる6年前か。爆発するのは……この人工星か。
「私達が1058年から来たから、到着がズレたの? 他の人は、ちゃんと来たの?」
「到着日は分けているが、最終期限は数日前だった。シャルルさんの時空能力は高いが、50年を超えると難しいようだな。それでもまた、キミ達を派遣した。ということは、1058年になっても、スープラットの厄災は消えてないか」
「うん、スープラットの厄災は広がってるよ〜。だから、他の星系に移動するときには、すごーく大変なんだって〜」
「そうか。だが、これまでに来た者達が、完全に失敗するわけではない。未来からロッコ族が来ない世界線が現実となっていたなら、キミ達が暮らしていた1058年には、ロッコロッコ星から出ることも難しかっただろうからね」
魔導大使オルフル様は、固まっている俺に、チラッと視線を向けた。だが、特に何かを気にしているようには見えない。
そうだよな。期待するから失望する。だから、固まって動けない俺の情けない姿も、気にはならないのだろう。
俺は、これまでは上手くやってきた。そう信じていたが、違ったようだ。何が、俺は運が良い、だ。大聖堂で思い上がっていた自分を、全力で殴りたい気分だ。
「キミ達には期待している。キミ達だけではない。シャルルさんが送ってきたロッコ族すべてに期待している。新たに加わるキミ達が、今いる者達へ良い影響を与えるだろう。合格だ」
合格? 何か試されていたのか?
「オルフルさま〜、不合格になった人もいるの?」
「あぁ、不合格の方が多いかな。同じ場所に送り返しているよ。だから星の門であるラグ塔で、来た者を見極めている」
「ふぅん、そっかぁ。よくわかんないけど、合格って嬉しいっ。ねぇ、魔王シリウス〜」
スピカが俺をそう呼ぶと、オルフル様の表情が少し変わった。わずかに眉が動いただけだが、明らかに不機嫌になったと感じる。
「キミは、最終転生をする前は、魔王だったのか。だから、そんなにも警戒心が強いのだな」
「……は、はい」
情けない。必死に絞り出した言葉が、これだけだ。
「魔王だったことは、他のロッコ族には話さない方がいい。ここにいるロッコ族は、様々な時代から集まって来ていることを、頭に入れておきなさい」
「……はい」
オルフル様は、俺達に、小さな魔道具らしき物を渡した。スマホみたいだな。あれ? これは前世の記憶か。
「この魔道具は、アイテムボックスのような物だ。携帯機と呼んでいる。シャルルさんの日記は、携帯機に入れると、中身が読めるようになる。画面を開き、『日記』のアイコンに触れてみてくれ」
「えー? どうやって開けるのか、わかんない」
コイツ……。
俺は、画面に触れてみた。ロックも何もかかってないが、完全にスマホだな。『日記』というアイコンだけしかないが。
『日記』に触れると、手に抱えていた本が、携帯機に吸い込まれるように、消え去った。
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